第2話 かき氷は?

 春のアンバーもやはり常夏だった。クライスト領で魔子を倒すためにお正月休みにアンバーにきた時も暑かったもんなぁ。

 これはイケメンを餌にしたかき氷屋さんがどれくらい売れてしまうのか……計り知れない怖さがあるわ。


 久しぶりに帰る我が家はやっぱり素敵なホテルのような家だった。私が家に帰ってきたことがわかると、家からは使用人が私の荷物を運ぶために現れる。荷物は使用人に任せてエントランスへと続く大きな扉が使用人によって開けられると何人ものメイドが頭を私に下げて少し早く休暇で家に帰ることにたなった私に皆が『おかえりなさいませお嬢様』と口々に言う。圧倒的なスケールである。

 家のエントランスはバリ風の椅子やテーブルが並んでいて完全にホテルのロビーのようだし使用人たちが私が現れて一様に頭を下げる姿は完全にホテルである。


 庭には当たり前のよう噴水があり外で活動する時には暑い日差しを遮れるように天幕が張れるようになっている。今気がついたけれど、庭の奥のほうに小さな子供用の家がある……アレはなんなのか。プレイハウスとかいうやつかな……。


 私の部屋は言わずもがな、女の子の夢がぎゅっと詰まっている。部屋に入ってすぐ目に入ってくるのは美しい海がばっちり部屋から見える大きな窓と吹き抜け。大きな窓から外に出れるようになっており、テラスがある。テラスにはビーチパラソルとその下で横になれる高そうなホテルのプールわきにあるような椅子。

 くるくると天井では、部屋の空気を循環すべくプロペラが回っているし、二階へと登る階段はらせん階段と本当に凄すぎるこの部屋……。


 ただ、魔子を倒したことで私の部屋にさらなる変化があった。なんとミニキッチンに冷蔵庫が置いてあったのだ。氷の魔石の融通がきくようになったのかもしれないけれど、導入されるの早すぎるよこれきっと流石レーナってお嬢様と此処に滞在してると嫌というほど思う。


「長旅お疲れ様でございました。御飲み物はいつものをご用意いたしましょうか?」

 そういって現れた茶髪のメイドはクリスティー、私付きのベテランメイドだ。

「えぇ、お願い」

 そう告げて私はどこに座ろうかしらと部屋をうろうろする。この部屋広いから椅子多すぎる……。

 決めた今日はせっかく帰ってきたのだからテラスにでてお気に入りのトロピカルドリンクを頂くことにした。



「失礼いたします」

 そう声をかけられて備え付けのテーブルにピンクのドリンクが置かれる。手を伸ばして触れると今日はぬるくない! そしておいしい。

 はぁ、幸せと幸せをかみしめていると。遠くに控えていたクリスティーが他の使用人からの伝言をきいたようで険しい顔で私のところにやってきた。

「おくつろぎのところすみません。少しお耳に入れたいことが」

 あぁ、嫌な予感がする。こちらの世界に来て次々と不幸に見舞われた私にはわかってしまう。

「どうしたの?」

「それが、お嬢様の滞在をききつけてご挨拶をしたいと。ラスティー様が強引にお見えになられまして。レーナ様は学園から戻られたばかりでお疲れとお伝えして帰っていただいたのですが、あまり納得されていないようでしたので……万が一庭のほうからこちらに回ってこられると厄介ですのでお部屋にお入りくださいませ」

 そういうと、クリスティーは慌ただしく私のくつろぎセットを他のメイドと共に片づけ、部屋の中に移動する。

 ラスティーって……誰。

 クリスティーがこんな風に言ってくるってことはレーナの知り合いに決まっている。

 学園生活では重要人物はゲームで知っていたし、入学したばかりで生徒の顔と名前が一致しなくても致し方ないところはあったし。

 アンナとミリーがそばにいれば私がすんなり名前が出なかったとき、どこの領地のどんな身分の誰かをうまく会話にいれて私がミスをしないようにしてくれたけれど……

 むしろ、去年の夏訪問した時にボロが出なかったものだわ。

 シオンの後見人を決める際に、アンバーの主要な貴族の名前は覚えたけれど、あくまでその家々の当主を覚えただけで、子息までは覚えきれていない。



 それにしても、前回の夏の滞在では顔を見せなかった人物。

 家に訪問するくらいの間柄だから、誕生日プレゼントはもらっていたかしら?

 物をもらっていたら忘れないと思うのだけど、ピンっとこいないことはプレゼントをもらう間柄ではないの?



 私は自室に戻ると、すぐにカーテンが引かれた。それほど歓迎しないような相手なのかしら、不穏だわ……。

 せっかくの楽しい早めのバカンスだというのにいきなり幸先が怪しくなってしまう。

「昨年の夏は、私がいる間一度も訪問してきてはいませんよね? 私が魔法省に拘束されている間に訪問はありまして?」

 ボロが出ないようにクリスティーに確認をすると、クリスティーは額を抑えて本当にまいったという顔をする。やり手のメイドの彼女がこんな顔をするだなんて初めて見た。

「昨年はレーナ様にジーク様という婚約者がいらっしゃったので来るのは無駄だと判断されたのでしょう。お会いするのはレーナ様がジーク様と婚約される前以来となります。……フォルト様と同じ立場の方でございますがこのタイミングでお嬢様のところに顔を出そうだなんて十中八九あまりよろしいことではないと判断します。主に本来こんな風に一使用人が意見をいうのはですが。甘い言葉をささやかれたとしても、決してなびかれたりしませんよう」

 フォルトは跡取りで決まりというわけではないということを確かいっていた。

 ということは、フォルトと跡取りを競う相手がいるわけだ。

 おそらく、ラスティーはフォルトと跡取りの椅子をめぐって競う相手なのだと思う。

 これまで、レーナへの訪問がなかったのに、ジークとの婚約破棄をききつけて公爵家の直系である私の下への訪問……どう考えてもクリスティーの忠告通り私との結婚で跡取りとして決め手にしたいというところだろうか。

 あぁ、こんな政略がちらちらみえちゃう露骨なのはいや!!!!

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