星降る夜を見上げている場合ではない
第1話 ジークの憂鬱
アンバーへと帰ることとなり、私はルンルンだった。再びあの素晴らしい日々が始まるのだ。
てっきりクライスト領に帰ると思っていたジークがアンバーへと向かう調書取られます組の馬車に乗ってきた。
てっきり、フォルト、リオン、シオン、私の4人で調書取られながら帰ることになると思っていたのに、まさかジークがギリギリに乗り込んでくるとは思わなかった。
最後に馬車にやってきたのでそのままジークは一番手前の席に座ろうとしたのだが、慌ててリオンが馬車を降りジークに自分の先ほどまで座ってる場所を譲った。
よくわからないけれど、馬車の座る位置でも暗黙の貴族の座る場所があるのかもしれない。
「私も同行することになった。腰をおろしていたのをたたせてしまい申し訳ない」
ジークはそういって、席をゆずったリオンに軽く頭を下げた。
「アンバー経由で帰りますの?」
「……そうだとよかったのだけれど」
不本意なニュアンスだったが、顔はしっかりといつもの愛想笑いを浮かべていたし、これから私はちょっとばかし早いバカンスということで気持ちをサッと切り替えた。
調書さえ終われば私は後ろを走るアンナとミリーののっている馬車へ移動すればいいのだからと思ったけれど。
調書はいつも通りだったので、宿についても寝るギリギリまで特に事件の当事者の中であらゆる出来事にさりげなく関わっていた私は時間がかかってしまい。女の子でキャッキャなしの旅となっていた。
アンバーの白い砂がようやく見えるころに調書は終了し魔法省の職員はやっと帰れると途中で降りて去って行った。
「これからさらにクライスト領へ移動なんて大変ね」
てっきり調書さえ終わればジークはさっさと帰ると思ったのだ。
「あとから知ったのでは嫌だと思うから先に私から言っておく。ただ、私からレーナへ話をしたことは公爵には言わないでほしい」
そういうと、ジークは小さな鞄から綺麗な色の封筒をいくつも出した。
その一つを私に差し出された。
裏にはアーシュ・アーヴァインと書かれている。私の父からか!
ちょっとうんざりした顔でアンバー行きの馬車に乗り混んできたジーク。
そっと手渡された手紙を読んでみた。
何それ面白そうとキラキラした瞳でシオンが私の手元を覗き込む。
中には私のいいところがぎっしり書かれていた。
シオンが私を見つめる目に憐れみがこもっている気がする。
何枚もある手紙。
クラエス家としてレーナにしたことは許されることではないということ。それでも、娘がこれまでジークにたいして恋焦がれていたことを父として知っていたこと。
強がっているだけですんなりと娘の気持ちが簡単に折り合いがつくとは思えないこと。
ようは、娘はああいってるし、二人の間に恋愛感情がなかったかもしれないけれど娘はこんないいところが沢山あるんです。
すぐに解消と結論を出してしまう前に、二人でもう一度時間をつくってゆっくり結論を出したほうがいいと思う。
絶対時間をつくってもう一度婚約を解消することがベストなのかよく考えてみてほしいアンバーで! ということが書いてある。
公爵からのゴリゴリのアンバーこいや、娘ともう一回過ごしてみてお互いよく考えてみよう感がすごい。
「公爵様、マジでレーナ様の今後心配なんだろうね。あわよくば優良物件にゴリっと押しつけておきたい感じがぷんぷんするね!」
シオンが腹を抱えて私の前で爆笑しだした。
「……父がなんかすみません」
居たたまれなくなった私は、短く謝罪をしてジークから思わず目をそらした。
「レーナには感謝してるし、できることなら君の気持を尊重しようと失礼のない範囲で最大限の努力はしたのだけれど、押し切られてしまった。こちらこそ申し訳ない……」
ジークが困った笑顔で私に軽く頭を下げた。
シオンは笑い声を出すのは失礼だと思ったのか、腹を抱えて声を出さないけど震えて爆笑してるし、リオンとフォルトは絶対この距離で聞こえていたのに聞こえていないふりをしているのがさらに居たたまれなさを加速させた。
変に大人の対応をとるのをやめてほしい、せめてイジッていただけないとマジな感じによりなっちゃうから。
わりと私にいいたいことズケズケ言うようになった、ジークがアンバーでの休日どう楽しんでいいかフォルトとさり気に話しだしたのもつらい。気を使われてる感じが辛い。
嫌だったら嫌なんですって今くらいは言ってもいいんだって、取り繕うのは私の父の前でだけでいいんだって。
私にも気を使うの辞めてくれ!!!
と始まった私のいつもより早い夏……いや春休みが始まったのだ。
「あっ、ジーク様。僕お金稼ぎたいし手伝ってよ。僕に頼まれたってことで何か違うことしてたほうがましでしょ。アーヴァインの皆さん僕をわざわざアンバーにまた呼んでくれるくらい引け目があるから僕の手伝いって言えば結構回避できることあるんじゃない。うんうん、持つべきものは友達だよね!」
ニッコリとシオンは親指を立ててめっちゃいい笑顔を浮かべた。
よくジークにアルバイト手伝ってとか頼めたなお前ってフォルトの顔に書いてあるのが面白い。
「手伝うのは構わないが……私は商売はやったことないから。レーナのようにビールを運んだりはきっとうまくできないと」
ごめん、そこでなんで私のアルバイトの話いれてきたのよジーク。
「ジーク様の価値はレーナ様と違うんで、今日はここでって感じで言われた店先の人目の付く席でお茶飲んでるだけでお金払う価値が店側にあると思う」
おい、シオンさりげに私のこともディスるんじゃない。
「お茶をしてるだけお金がもらえるのかい?」
意味がわからないとジークが不思議そうに首をかしげた。
「この人店先に座らせるのにいくら払います? って聞いて回れば何件か見つかると思うしかなり儲かると思うんだよね」
まじめな顔で恐ろしいことをシオンはさらりといった。
「シオン、その商売はさすがにまずいだろ」
フォルトがさすがに公爵家の嫡男であるジークを店先に座らせて客引きさせる仕事は止めた。
「別に女の子に連絡先渡せとか、口説けとか、手の一つでも握って夢を見せてやれっていってるわけじゃないしいいじゃん。好きなお茶とお菓子楽しんでもらうだけでいいのに」
頬を膨らませてフォルトにケチと言わんばかりにシオンが睨む。
「私もお茶を飲むくらいなら衛生観念に欠ける店でなければ別にかまわないが」
「とにかくジークも何でもかんでも言われた言葉のままホイホイ受け入れるんじゃない」
フォルトが頭を抱えた。
この三人は、解っていてやってるシオンと案外できることならやってくれるジークとのやり取りを常識人のフォルトがツッコンで止めるという変な友達関係になってるのがわかった。
「あっ、じゃぁ。僕がかき氷屋さんを許可取って開くことにする。それならいいでしょ」
ジークを貸し出しして金を取る商売から、店を二人が主でやるならまぁよかろうとフォルトが考え始める。
「食べ物屋ならまぁ、別にいいか」
「レーナ様も食べに来てね。ジーク様が氷を目の前で作ってそれを僕か雇った人にかき氷にしてもらって売ることにするから。イケメンが魔法で作った氷のかき氷……売れると思わない? 涼しいし。氷は凄く高いけどジーク様が出せば元手タダだし。イケメンが目の前で魔法を使って氷を出すことにも意義があると思う。ねっ、レーナ様」
ねっ? てシオンが私に話をふってくる。
イケメンが作った氷を食べる…………。
「シオン、あなた商才があるかもしれない。それ一杯いくら取るの?」
「いくらまで皆出すと思う? 女の子の気持ちはわからないからその辺が問題だよね。かなり吹っ掛けてもいけると思う?」
こうして始まったジークを使って金儲け計画 かき氷屋さんはどうなってしまうのか。
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