第4話 風を切る

 授業の移動の際、私たちは私を中心とするいつものフォーメーションで実にしゃなりしゃなりと歩いていた。

 私が通ると、生徒たちが絡まれるとヤバいと道を開けるのはいつものことなのだけれど。

 水路が爆発した際に、私が割と協力的に動いたおかげで、皆の眼差しはヤバい奴から、高位の令嬢だから失礼のないように程度の改善を見せていた。



 特に、貴族の中でも身分の低い者や王立魔法学園への入学が決まり入学したばかりの平民などの視線は、あれが高貴な令嬢と言わんばかりの、すごいものを見る感じだったため。

 その雰囲気に私は飲み込まれ、アンナとミリーと共にそれらしく振舞っていた。

 まぁ、悪くはないわねと私はまんざらでもなかった。



 一年生が入ったことで、ほんの少しだけ先輩ぶってしまうというのはどこでも共通のことなのだと思うけれど。

 アンナとミリーが授業の合間の御茶の時間に顔を見合わせると真剣なまなざしで切り出してきた。

「学年が上がったので、そろそろどうするかを決めていただきたいと実はミリーとは以前から話しておりまして……レーナ様は派閥をおつくりになるのでしょうか?」

「派閥?」

「学園での生活で私たちがなすべきことは大きく2つございます。1つは学業に励むこと。2つ目は社交界での身の振り方を考えることです」

 アンナはさらに説明を続けて、ミリーはそれにうんうんを頷く。

「社交界での身の振り方ですか?」

 というか派閥ってゲームになかったよ……何それ状態だ。

 ヒロインは平民だったから、貴族の派閥とは無縁だったからゲーム上何もなかったけれど。派閥とかあったのね……



「簡単にいいますと、派閥を作りますとレーナ様の意見やしたいことがのちのち社交界で通しやすくなる……という感じでしょうか」

 アンナが必死に私がわかりやすいようにと言葉を選んでくれたのだけれど。

 私のしたいことというと、一番が婚活。二番がおいしいものを食べること。

 2つは社交界で通すようなことではないことだけはわかる。



「二人としては私は派閥を作ったほうがいいと思いますか?」

「「派閥を作られるのがいいとおもいます」」

 まさかの二人の意見が一致した。

 しかし、その後二人は顔を見合わせて困った顔になる。

「なぜ、そう考えているのか、正直な気持ちを聞かせてもらえる?」

 なんとなく言いにくいのだろうかとそういうと、失言をぽろっとするミリーよりかはと思ったのかアンナが口を開いた。



「レーナ様の魔力量は身分に対して少なく、軽んじる不届きな者が出ないか心配なのです。ですので、レーナ様がより軽んじられないためにも、それなりの人物を派閥に迎え入れレーナ様の社交界でのお立場をしっかりとしたものにできればと考えております」

「め、面倒なことは私とアンナがやります!」

「でも、派閥というものを作っても所属してくれる人がいなければ困るのでは? 私は、その学園で話せる人など両手で数えきれるほどで……」

 自信なさげにそういうと、アンナとミリーは顔を輝かせた。




「ご心配いりません。大きな派閥を作ろうというわけではなく。レーナ様に対して失礼なことを言えばあの人が後ろについてるからやめておこうと思わせることが目的ですから!」

「ミリー!?」

 ミリーの失言で二人が私に小規模ながら派閥を作らせたい真の理由がわかってしまった。

「人選などは私には心当たりがないので任せても?」

「「はい、お任せください!」」





 そうして、2年生になって早々にレーナ派閥が誕生することとなった。

 と言っても、アンナとミリーが勧誘したのは結局いつものメンバーであった。

 まず、ジーク。名前を置いておくだけで特に定期的に集まっての活動がないため、他の派閥の勧誘や自身を主体をする派閥を作ることをうまいこと回避できるとのことで参加。


 シオン、もう私が主人ゆえに選びようがなく強制加入。

 フォルト、ここも私が今のところ主人であるし、かつ立場的にまだ自身で派閥を作るべきか誰かの派閥に入るか微妙なところを見事。まぁ、名前だけならで加入。


 そして、意外なことにエドガー。

 ここも、騎士ゆえにのちのちの主人が決まるまでは派閥に所属するとややこしくなるとのことが、レーナ様の派閥は定期的に集まる活動はありませんし。出入りは自由。かつ、公爵令嬢であるレーナ様の庇護下に入りますので、エドガーに失礼なことをすると公爵家が出てくるという牽制にも使えるため一時加入。




 そして、私は大問題と直面していた。

 エドガーに活動予定は特になく、とりあえず名前だけで庇護を受けられることをメリットにしてアンナとミリーが声をかけたところ。

 エドガーから2人の平民を私の派閥に入れてもらえないかと打診があったのだ。



 しかも、二人は他の勧誘した人と違い雑用や御用があれば平民故に小間使いとして動いてくれるそう。王立魔法学園は平等とうたってはいるものの、結局平民で後ろ盾がないと学園生活が大変とのことで私の派閥にはいることで、派閥の庇護が欲しいそうだ。



 私の庇護に入れば、少なくとも私の手間虐めや嫌がらせがされにくくなるそうだ。

 とはいえ、よく知らない人をホイホイいれるわけにもいかないし。アンナとミリーにしては、私を守るための派閥でよくわからない人物をいれたくないということもあり。

 なんとレーナ派閥初の活動。平民の加入をどうするか面接が開かれたのだ。



 

 てっきり私の部屋でと思えば、どうやら派閥を作ると部活の部室のように、社交室というのが派閥ごとに与えられるそうで。

 この社交室は派閥に招待されないと先生も出入りできない代物らしい。



 レーナ派閥の社交室での面接だったのだけれども。

「この部屋で本当にあっているんですの?」

 部室のようなものと思った部屋は、教室とサイズが変わらなかった。見るからに上等だとわかるカーテン。

 それに高そうな家具たちと、当然のように置かれたティーセット一式。


「「申し訳ありません」」

 アンナとミリーは私にそう謝罪した。

「集まりをする予定はとくになかったので、社交室の手配をしておらず。卒業された先輩方が使われていた社交室のままなのです」

 アンナはそう説明してくれた。

 要は居抜きである。どうやら、高そうなカーテンや家具、食器類は以前この部屋を使っていた人たちが卒業でいらなくなったからそのまま置いて行ったものらしい。気前がいいというかなんとうか、そのままで十分すぎるほど部屋は整っていた。


「掃除だけは手配が間に合ったのですが、部屋を整えるのは、レーナ様のお好みをうかがってからになりますので、申し訳ないですが。本日はこのままになります。おいやでしたら、別の部屋を今からでもなんとか……」

「社交室は皆こんな広いのですか?」

「使われる方の身分に寄りますね」

 アンナはそう答えてくれるけれど、使う人の身分で部室の部屋のサイズが変わるとか、全然平等じゃないのねと思ってしまった。



 そして、ぞくぞくとレーナ派閥の面々が社交室に現れだした。



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