第3話 本当はわかってる

 はぁ、私何やってんだろう。

 かつてないほどめかしこんだ結果は、パーティー会場から離れて一人すねてるとかさ……



 本当はわかってる。

 もうやっちゃったものはどうにもならない。

 だから今からでもパーティー会場へいって、イケメンの一人や二人や三人や四人と踊っちゃうのが一番楽しいんだってこと。



 ただ、皆の心配な気持ちはこれまでご迷惑を散々やらかしたゆえに……わからないでもないけれども。私が頼んでもいないのに、流石にこれはやりすぎでは? と気持ちに折り合いがつかないのだ。

 パーティー会場へといけば、シオンは特殊だから置いといて。他の皆は私に対してやっちゃった罪悪感から機嫌を取りに来るだろうしとか考えちゃうと行動に移せない。



 階段に座り込んで、膝を抱えて、ほんとここまでめかしこんで本当に何してるんだろうと時間がたてばたつほど思うし。

 時間がたてばたつほど、会場に私がいないことに気が付いているだろうし、皆が余計に気にするかもと思うとね、もうもうもうだ!


 はぁ、こんなパーティー会場の外れにいるのなんて私くらいだろうと思って顔を上げると私から15mほど離れた場所に人がいた。



 こげ茶の髪と緑の瞳の人の印象にあまりのこらないようなタイプというか……

 あれ、隠しキャラ、第二王子リジェットだ!?

 ヤバッと私は慌ててまたも顔を伏せた。


 なんでこんなパーティー会場から離れたところにいるのよ!!



 なぜ地味な容姿で政略対象の一人なの? というと。

 これは彼の仮の姿。

 認識阻害の魔道具を外すと、印象に残らない地味顔が一変。

 褐色の肌に切れ長の金の瞳のイケメンに早変わりである。一番の特徴は宝石で髪をきらめかせている偽物の私と違って、少しくすんだ彼の金の髪は月の光を浴びるとキラキラと煌くのだ……

 一発で王族だとわかる特徴的な容姿ゆえに、魔道具を使い命を狙われないようにとしているのだったのだけれど。 

 



 なぜ、ここにいて、どうして私と鉢合わせかけるのよ……



 どうしよう、平常心平常心。

 第二王子であることは、自身の安全のために隠し通さないといけない、だから彼にとってもばれたくないからこそ、できればかかわりは最小限に抑えたいはず。

 なので、鉢合わせたくない私と正体がばれたくない彼の利害関係は一致している。

 さぁて、そろそろパーティー会場に戻らなくっちゃ。



『私レーナは危ないことに首を突っ込みません!』

 以前シオンとした約束を思わず心の中で復唱して、違うことを考え出す。

 いや~今夜のパーティーはどんな料理が並んでいるのかしら、それに今日こそはイケメンとダンスを踊らなくっちゃいけないんだったわ。

 はい、私は何も見ておりませんし、何してるかとかぜーんぜん気になりませんよ~。


 うんうん。と心の中でものすごい速さで言い聞かせて、私は立ちあがると足早にパーティー会場へと向かう。



 こういうのは、関わり合いになるダメ絶対。

 私が関わらなくても、そのうち縁があればヒロインマリアが貴方に気が付くかもしれないから。リジェットルートをヒロインが選ぶことを祈っていて頂戴。



 ホホホホと悪役令嬢らしい笑いを心の中で木霊させつつ、催促の早足で私はパーティー会場へと到着した。

息は上がるし、かかとは靴擦れの気配を感じるけれども、何事もなくついたことに安堵する。



 私の姿が見えないことに気が付いていたのだろう。

 会場の外にはアンナとミリーが不安げな顔で立っていた、そして私の姿を見かけたとたん。二人が慌てて駆け寄ってきて、謝罪の言葉を述べた。



 こうなるのがちょっと気まずくて嫌だったんだけど、今はそれどころじゃない。

 できるだけ早く会場入りしたくて、私は二人の謝罪をそこそこに、パーティー会場へとなだれ込んだ。



「今までどちらに?」

 アンナがおずおずと聞いてきた。

「そんなことより、イケメン。イケメンはどこですの」

 もう会場に来ちゃった私は、リジェットを忘れるかのように気持ちを切り替えた。


「踊り終えると女子生徒が群がるのですぐわかりますよ!」

 私の問いに実にわかりやすくミリーが答えてくれる。

「ど、どうやったら踊れますの?」

 パーティーは3回目だけれども、これまでのパーティーではろくに踊ることができなかったので私は二人に判断を仰いだ。

 うーんとアンナとミリーが考え込む。

 どうやら人気のある男子生徒と踊りたい場合は、あのバーゲンセールのようなところに特攻する必要があるようで、どうしたらレーナ様がイケメンと確実に踊れるかという実にアホなことで二人が真剣に考えだす。



「イケメンなら誰でもかまわないのでしたら、一人だけすぐに踊れる心当たりが……」

 ミリーが何かに気が付いたようで華やいだ顔でそういった。

「本当、まだ一曲も踊っておりませんの。この際イケメンであればどなたでも……」

 なんともアホな会話が繰り広げられる。

「でしたら、あの群れに」

 曲がちょうど終わったようで、顔のいい男子生徒の周りには女子生徒がさっそく群がっていて、その一つをミリーは指さした。

「あぁ、なるほど。あそこなら間違いなく踊れます。次のパートナーとダンスホールに出る前に早くいかれませんと!」

 アンナがそういうので私は慌てて群がる女子生徒のところに、私だってイケメンと踊りたいという強い思いでやってきたが。

 どうやったら、この中から私選ばれるの状態だ。

 しかしだ、アンナとミリーがすぐ踊れるといったように、何と女子生徒が私が来たことに気が付くと道を開けてくれるのだ。



 何? アンバー領の生徒が沢山並んでいて私に一番忖度してくれそうな場所だった……

「やぁ、レーナ会いたかったよ。とてもね」

 人がうまいこと割れて、現れた先にいたのは、私の元婚約者ジークだった。


 ジークとの婚約解消は一曲目を踊れなかったせいで明らかになっていない、他の女子生徒たちにすると婚約者が現れたのだから流石に譲らなければいけないというやつで道が開いたんだわと理解した。

 確かにジークはイケメンで間違いない。間違いないのだけれど、私が今日踊りたかったのは彼じゃない。

 というか、多分今日踊らなくてもジークとは踊ろうと誘えばたぶん、今の仲の良さ的には踊れる。

 今日踊る必要のないイケメンなのだ。



 しかも思いっきり私に女子生徒の群れに突っ込まれたことを根に持ってそうな感じが愛想笑いを浮かべているのにプンプンする。

「そ、それで「十分踊ったのでこれで失礼。何か冷えた飲み物でも飲もう」

 ジークが素早く私のもとにやってくるとガッチリと腕を掴んで女子の群れから離れていく。



 そして、ある程度離れてから言うのだ。

「レーナよくもやってくれたね」と。

「今回のことはお互い様ではありませんか? それにこうしてちゃんと救出にきたのですから。ジーク様とは違います」

「人が群がっているから、そこそこ顔の整った生徒がいるに違いないと来たけれど、私が現れて。『まずい』とおもったね?」

 バレテル……

「そんなことは……」

「私はレーナのことをとても大事に思っているので、他の男子生徒と踊るとすごく嫉妬してしまうだろうね」

 めちゃめちゃいい笑顔でさらりと言われたけれど。これを翻訳すると。


 お前の次の恋愛チャンス私がつぶしてもいいんだよ? だ。

 ジークが本気でやりかねなかったので、私は悔しい気持ちだったけれど折れたのであった。



「すみません、やめてください。私に惚れているていは絶対にやめてください。私が悪かったです、次の恋愛が死ぬんで本当に軽い冗談でも絶対にその設定やらないでください」



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