第7話 探検
他に行くあてのない私たちは、ジークのホテルへと向かった。
さて、ジークのアンバーでの住まいはどんなところなのかしらと思っていたけれど、スケールをなめていた。
遠めでもわかる大きな建物はなんと学園の寮よりも高い8階建てだった。
8階ぶち抜きの吹き抜け、窓も当然私の部屋の比ではない特注品の大きさだ。
エントランスは、すべての椅子や中央にある噴水もずらせてダンスホールになるらしいし。
建物の中に川が流れていて小舟が……
スケールが想像していたホテルと違った。
「おかえりなさいませ、レーナ様。お部屋は8階のゲストルームをご準備いたしました。身の回りに必要なものは、1時間後に外商がやってきますので、そこでお求めいただけたらと思います。不足品や質問がございましたら。部屋の外に、メイドが待機しておりますので、お気軽にお申し付けくださいませ。ジーク様ご案内はいかがいたしましょう?」
ものすごくいい笑顔で、スタッフが私に対応する。
もう文句のつけようもない……
「私が案内するから必要ない。ありがとう」
ジークが手慣れた感じで、カギを受け取り進む後ろをついていく。
それにしても8階か……階段つらいのよねと思ったけれど、それはいらない心配だった。
なんとホテルにはエレベーターがあったのだ。
雷の魔石を使ったものらしい、8階までひいこら歩かなくてもすむじゃないの。
しかも、カギを何に使うのかと思えば、それは部屋の鍵ではなく、エレベーターの中で使うものだった。
鍵穴にカギをいれると、8階のボタンが現れた。
「なんですのこれ!?」
「最上階はクラエス家のプライベートのエリアだからね。客が入れないようにしているんだ」
「なるほど……、これカギをなくしたらどうなりますの?」
私はついてない、luckyペンダントがついているけど、ついてない。
カギをなくす可能性は0ではない。
「リオンが設置した医務室の施錠を君は破っただろう。あれより簡単に開錠ができると思うから、レーナなら大丈夫だ。カギは基本フロントに預けてホテルを後にしてもらうことになるが。それはこの鍵がホテルの敷地外に持ち出されると溶けてなくなるのさ。作り方は悪用の問題があるから話すことはできないが、氷の魔力を応用している」
以前の誤解が全く溶けていないことにがくぜんとした。
「ジーク様、まだいろいろと誤解があるようですが……」
チーン
「ついたよ、こっちだ」
あわてて私はエレベーターを降りる。
メイドが一人立っていて、私とジークに深々と頭を下げる。
「正面がゲストルーム、左側が私の父と母のエリア。右側が私のエリア」
ゲストルームはわかる、でも『エリア』ってなんだよと気になってしまう。
私がお世話になるゲストルームの扉の前に椅子と机があるし、今挨拶をしているメイドは普段ここに控えているのかもしれない。
というか、外観をみるかぎり、8階がこんな感じでざっくり3分割だと、エリアの部分に私の家相当の部屋数なんかがあるのではないかと気になってくる。
クライスト領のジークの部屋は、正直質素だった。
あぁ、気になる。ものすごい人さまの部屋が気になる……。
去年は主に私の部屋がたまり場になってあまりみんなの家に行けていない。
「質問はあるかい?」
「ジーク様のエリアがとっても気になりますわ。探検しても?」
アンバーの自分家に着いた時も、自分の部屋を探検した。建物の中に何があるのかわくわくする。
「あぁ、かまわないよ。君、すまないが外商が来るまでに戻ってこなかったら、私の部屋に外商を案内して」
こうして、私はジークのお部屋の探索を行うことになった。
廊下には、素敵なガラスの花瓶などがならび、クライスト領でみたジークの家とは大違いだ。
ついつい、絵画だの置物だのじろじろと見てしまう。
「とても失礼な質問をしてもよろしいでしょうか?」
「その質問自体がすでに失礼だね」
にっこりと愛想笑いでジークが言う。
「クライスト領の家では、質素な印象でしたのでなぜかなぁ……と」
「魔子がいたからね。あの環境で特に冬場に屋敷の手入れをできる人数は限られていた」
「なるほど……」
金はなかったわけではないのか。
「ところでレーナ……」
「はい、ジーク様」
広いリビングねぇ、こっちは書庫。なら、あっちはどうなっているのかしら? それよりも何部屋くらいあるのかしら。
にっこりとジークが笑ってくる、これは何か不満があるのだと思う。
「まぁ、楽しいならいいが。もしかして、全部の部屋を見るつもりかい?」
「ジーク様がお嫌でなければ。何部屋あるのかどうしても気になってしまって……」
「前から言おうと思ったのだけれど、君の好奇心はほどほどにしておいたほうがいいと思う。……はぁ、好きにするといいよ」
ジークはさらに何か言いたそうだったけれど、ため息を一つついて私の探索を認めたので私は人さまの部屋をあっちこっち探検する。
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