人の恋路を応援してる場合ではない

第1話 新たなる始まり

 せっかくの年越し、夜更かしてやるぜという思いは、誓いの儀をした後はさっさと寝ろとのことで普通に10時過ぎに部屋に押し込まれ諦めた。

 年越しらしいことを一つもしないまま、新しい年を私は迎えた。



 クライストで新年らしいお雑煮が出てきて、ちょっと感動してしまった。

 その後は、もう学園に馬車で向かわないと新学期に間に合いません! 宣言を受けて、いろんなことが中途半端であるけれど。私の成績を考慮すると、出席は大事ということですぐに馬車に乗って学園に戻ることになった。


 ジークのほうは目が落ち着いてから戻るとのことで学園のほうは2週間ほどお休みするそうだ。成績のいいやつはそういうことしても問題ないのかなとか思ったりした。

 雑煮をおいしいおいしいと大絶賛していたせいなのか、向こうでよかったらお食べくださいとお餅をしこたま詰め込まれ、私、フォルト、シオンの3人で先に学園へと向かった。




 ちょうどいいので馬車に乗っている間に報告しておこうと。フォルトとシオンに急だったけれどジークとの婚約を解消したことを告げた。

 その途端だ。

「ばっかじゃないの!? もうレーナ様じゃ、あのレベルを捕まえられることなんてないよ、生涯あれはあんたじゃ普通は捕まえられないの。前世に感謝したほうがいいレベルの婚約棒にしたのわかってんの? もう今なら恩もあるし絶対レーナ様に有利な状態で婚約していられたのになんで自ら解消申し出てるの? 馬鹿なの? 土下座してでも調子に乗ってましたって今からでも謝罪してきたら」

 シオンはストレートでそう言ってきた。

 いや、確かにあのレベルとの結婚は解消しちゃったら次は無理だろうなってことはわかっていたけれど改めてストレートで言われるとくるものがある。

 此処までぼろくそに言われると今さらながら早まったかもしれないという気持ちが出てくる。



「いや、でも、誠に不本意ですが。在学中に頑張ってみて見つからなかったら責任はジーク様がとるってことでけりがついたので。最悪ジーク様が責任を取ってくださるので行き遅れにはならないのではないかなと……」

「ジーク様に恋人ができたとしても、婚約って形を在学中の間ジーク様がとらないってだけでしょ。自由恋愛解禁しちゃったら、卒業決まったけど、レーナ様お相手決まりませんでした。ジーク様、約束通り責任をとる形でお願いしますってあっちが付き合ってるのを別れさせて娶ってもらってもらうパターンになっても社交界で大丈夫なわけ? ものすごい悪女になるよアンタ」

 別れさせて結婚とかほんと笑えない結末だ。



「あの、頑張るので……」

 ついつい、私から切り出したことなのに早くも弱気になる。

「フォルト様も固まってないでちゃんと現実をレーナ様に言ってやってください」

 シオンはフォルトにそう促す。

「レーナ嬢ならいい人が見つかると思う……」

 フォルトがそういったことで、私の顔には笑顔が戻ってきた。そうだそうだ、私だってジークほどのイケメンを再び捕まえようと思っているわけではないのだ。


 フォルトの擁護がお気に召さなかったようであるシオンはこう続けた。

「そうですか、そうですか。じゃぁ、卒業の際にレーナ様がフリーでジーク様に相手がいるならば、フォルト様にレーナ様が土下座して娶ってもらうということで」

「ちょっと待って、結婚相手探すのに、私土下座でお願いしてばかりなんだけど」

 恋愛結婚を目指すつもりが、これじゃ土下座結婚である。

「そりゃそうでしょ。公爵令嬢なんだから、その辺にいる適当な男と恋に落ちたとしても結婚なんかできないでしょ。無駄にメンクイだし、本当にどうする気なのさ」

 確かに、公爵令嬢を娶れるとなると、そこまで低い身分のところには嫁ぐことはできないのかも。



「いや、売れ残るよりかは、どなたでもいいのでもらってもらったほうがいいのでは……」

「あんた自分がどれだけ金かかるかわかってるの? お気に入りのよく飲んでる紅茶、あれ一缶いくらだと思ってんの? 愛読書の本なんて贅沢品だから庶民は買えないし。僕が駄目にしたあの寝巻、庶民のお給料一年分でも到底買えないんだからね」

 恐ろしいことをさらりと言われた。

「えっえっ……」

「レーナ様このままじゃ、アーヴァインの不良債権一直線だよ。フォルト様も責任取る気がないなら悠長なこと言ってないでちゃんといさめてよ!」

「すまない」

 シオンがそういうと、フォルトが謝罪したことで、私はなんとなく婚約破棄したことは思いっきりやらかしたのではという実感がひしひしと伝わった。



「シオンさん。治癒師って少ないから儲かるんでしたっけ? あの私とか……」

 冗談半分にヘラっと笑ってみる。

「冗談でもそんな隷属への命令振りかざさないで。この金食い虫」

 冗談が過ぎたようで、シオンはひどく怒ってしまった。




 シオンに怒られまくっての移動で学園に到着した。

 学園につくころには、ジークが自由になってよかった、これで万が一ジークに好きな人ができても手ひどい婚約破棄されないぜモードから、完全に私やらかしたかもモードになって気落ちしていたけれど。解消しちゃったもんはしょうがないのだ。

 


 婚約は解消されたけど、それはわざわざ大っぴらに言うことではないので、皆が知るのは春休みに入る前のダンスパーティーでジークが私をエスコートしないところでだろう。




 アンナもミリーも婚約者はいない。フォルトだってシオンだって婚約者がいない癖に、なぜ私の婚約が駄目になるとこんなにハードモードなのだろうかと悶々としてる場合ではない。


 婚約者がいなくなったし、これから自由に恋をするのだから。

 



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