第4話 あなたここじゃないでしょ
乗馬クラブにやってきた私。
すでに皆練習コースに出てしまっているようで、見学にきている女の子たちは誰もいなかった。
先ほどヒロインにごちゃごちゃ言っていた人たちがおそらく見学に来てた子たちだったのかも……
この分ではジークもいないだろうし、せっかく来たけれど戻ろう。
そう思ってきた道を引き返えし歩き始めたときだった。
馬の蹄の音がした。誰か戻ってきたのかしら? 蹄の音はどんどん近くなり『あっ』と思った時には私の腹部に腕が周り、足は地面を離れていた。
あっという間にそのまま馬の上に引き上げられる。
「うぉわぁぁあ!」
かわいらしくない悲鳴が口から出る。
何だ!? 何が起こったとパニックになる。
「おい、シオン。だから声かけないとまずいって言っただろう?」
フォルトの声だった。
攫われたのかと半泣きで私のお腹に腕を回す人を目視したら、笑いを噛み殺しているシオンだった。
「レーナ嬢すまない、一応は止めたのだけれど」
気まずそうにフォルトがそういう。
「一応ではなくしっかりと止めてください」
「すまない」
実行犯ではないのに、なぜか別の馬に乗ったフォルトが申し訳ない顔で謝る。
「だって、あんなに驚くと思わなかったんだもん。ごめんね~。それにしてもあの叫び声はナイよ。ジーク様じゃなくてガッカリした? ガッカリした? でも残念でした。今日は僕とフォルト様に付き合ってよ」
ごめんねはあまりにも軽く言われるし、まったく悪いことをしたと思ってないのがバレバレだ。
「シオンあなたが一番反省して私に謝罪しないといけないんですよ。わかっていますか? あと、付き合うって……二人はここで一体何を?」
「シオンに馬の乗り方を教えていたんだけど。レーナ嬢を見つけたら、面白そうだから後ろから攫ってみようと言いだして」
そういってフォルトはシオンのほうにチラリと視線をやる。
「本当にしっかりと発案の段階で止めてください……心臓に悪いです」
「すまない」
またもシオンではなくフォルトが謝る。
シオンは私の後ろでシレッとしているところがまたイラっとする。
「身体強化すれば案外簡単に持ちあがるね。ところでレーナ様少し太った?」
口が悪くずけずけと物事に対して発言する癖に、私の体重の上限には繊細に気が付くのやめてほしい。
「……太っておりません」
「カマかけたんだけど、その口調からしてやっぱり太ったんだね」
ニッコリとシオンに微笑まれる、嫌な奴嫌な奴嫌な奴!!!!
「二人ともその辺で、シオン女性に体重のことを言うのはタブーだ」
フォルトもそういう注意は後で二人の時こっそりして頂戴である。
「いいじゃん、レーナ様だしセーフだよセーフ。ノーカンノーカン」
全然反省してないし、発言も悪いとちっとも思っていないでしょこれ。
何より、レーナ様はセーフでノーカンってなんだよ。女性でもあるし、ご主人さまだぞ私。
「あ~、プレゼントした小説は呼んでくれたか?」
悪い空気を払拭すべくフォルトがそう話しかけてくる。
「いえ学園には持ってきたのですが、まだ読めていないのです」
「小説にここの乗馬コースが出てくるからちょうどいいから見ておくと情景がわかってより楽しめると思う」
フォルトはすでにニコル・マッカートの新作に目を通したようで後ろについてきてと言わんばかりに私とシオンが乗る馬の前にでる。
そして、我々は一周40分のコースを少しゆっくりと回る。
痛くなるお尻は、定期的にポンっとシオンが治してくれる。
それにしても、二人は本来ここにいる人物ではないし、逆に本来いるはずのジークはいないし変な感じだ。
「ところでジーク様はいないのですか?」
「僕たちといるのに他の男の話し?」
不機嫌そうな声でシオンが聞いてくる。
「こら、シオン。ジークはレーナ嬢の婚約者なんだから。今は……理由はわからないけれど、休部しているらしい。シオンの乗っている馬も、ジークに許可を得て借りている」
フォルトがそれをたしなめてジークのことを教えてくれる、今乗っている馬、似ているなと思ったらジークの愛馬そのものだった。
「まぁ、そういうこと。当分は僕が代わりに練習に貸してもらうことになってるから会いに来たんだったら残念でした」
そういってベーっと舌を出された。
プレゼントされた本には乗馬のシーンがあるそうで、この辺はよく見ておいた方がいいとフォルトがいうので真剣にあたりをみた。
小説早めに読んでみよう、学園都市の私も通う学園が舞台なのだからきっと面白いはずとその夜早速読みだした。
違和感なく学園に行くくだりとなり、私も行きつけている学内のカフェでお茶をするシーンや知っている教室のことなどが出てくると面白い。何日かに分けて読むつもりが、ついつい夜更かしして最後まで読んでしまった。
最後の、学園の時間をつげる鐘のところのシーンなど、おもわず、ほろっときてしまうほどよくできていたのだ。
というか、これだけ詳細にかけているのだから絶対作者は学園の卒業者もしくは出入り業者に違いないと思う。
シオンに本を貸す約束を思い出した私は、今シオンがどこに住んでいるのかわからないということに気がついたり。
アンナとミリーを呼んで小説の考察を放課後したりすることにしたのだ。
結局シオンはフォルトのところの衣装室用の部屋を開けてもらい間借りしているらしく、後見人にこそなってないけれど、アンバーにいたころのように二人で結構仲良くやっているようだ。
以前シオンにニコル・マッカートの小説を貸すという約束を思い出した私はメイドに届けるようにお願いする。
これで、シオンとも読者トークが楽しめるわね。
「レーナさま、私はやはりこのカフェテリアでのやり取りがたまりませんわ」
「パーティーのシーンも華やかでキュンとしますわ。華やかな場だからこそ、もどかしさがもうたまりません」
二人とも私の勧めで新刊を読んでくれたおかげで小説の談義はかなり白熱していた。
アンナが立ちあがり、私たちにむかって低めの声を作りいうのだ。
「君の姿を目で探していた」
「「きゃぁあぁぁあ」」
思わずミリ―と二人でキャーキャー言ってしまった。
アンナはすらりとして身長もあるせいで余計にそれっぽい。こう、ヅカっぽいというか、とにかくこういう振る舞いがしっくりはまるのだ。
アンナは胸もあるけど身長もある、13歳のジークよりも、今は身長がほんのすこし高いと思う。
アンナの顔は中性的で整っている。
……思いつく一つの天才的なこと。
私は思わず、二人にちょっと待っていてくださいと言って、部屋からでて向かいにあるジークの部屋へと向かった。
丁度部屋にジークがいたものだから、制服の予備やサイズが合わなくなったものがあれば貸してもらえないかという交渉をしたのだ。
何に使うのだろう? という感じではあったけれど、私は学園の制服(男子用)を手に入れたのだ。
あとはもうどうするかお分かりだと思う。
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