第43話 窓はぶち破るためにある
とりあえず落ち着くのよ私!
指輪がはじけた飛んだのは、何らかの防御系のやつが限界を迎えたのだと思う。
息苦しさなどはないし、とにかく原因を探ろうとしたけれど、それはすぐに解った。
椅子の下に見慣れぬ香炉が置いてあった。
「原因はこれか」
何やら書かれた文字が明らかに光っている胡散臭い奴。
こんなのはこうだと足で蹴ると光が消えた。
さて、これはこれでいいとして。今からをどうするかだ。
扉にはご丁寧に外側から施錠されており、開かない。
とにかく誰かに私の場所を知らせないといけないけれど、私はいい方法を知っている。
後々のことを考えると、ちょっと不安が残るけれど。
誰かに駆け付けてもらうのは必要だ。
だって、私は戦闘になれば使い物にならない。
お願い誰か気が付いて。
私は願いを込めて、無駄に魔力を使った。
◇◆◇◆
アーヴァイン邸では、張りつめた空気が公爵様の執務室で漂っていた。
すでに日が落ちてから2時間も経っていた。
執務室の隅には5人の人物が真っ青な顔で立っていた。
一人はレーナの筆頭メイドのクリスティー。いつもは堂々としていて、レーナの周りのメイドをまとめ上げている彼女だが、お嬢様が行方不明ということで。いつもの様子とは比べ物にはならないほど憔悴していた。
隣にいたのは、レーナが乗っている馬車の御者だったと、レーナの護衛の4人だった。
レーナの帰りが遅いことで、捜索隊が出されこの5人が暴行を受けた状態で細い路地で発見された。
傷は即座に治され、娘の安否確認と情報を聞き出すため、連れてこられたのだが。
自分たちのミスで、公爵邸の直系のお嬢様が攫われたとあり、真っ青な顔をして事の顛末を見守っていた。
最初は、レーナの母親もこの席についていたのだが、暴行された護衛達が見つかったとの報告を聞いて、倒れて自室へと運ばれていた。
執務室の椅子に深く腰かけ、イライラとした様子で、公爵が見つめる先には。
椅子に座り目を閉じる3人がいた。
レーナと血の盟約を結んだシオン、リオン、フォルトの3人だった。
3人は言われたのだ、血の盟約をたどり主の場所を割り出せと。
盟約は常時細い細い縁でつながるようなものだと。
常時繋がっているからこそ、主はいつだって、従者のいる場所を把握することができる。
主が危機的状況に瀕した時は、主の意思関係なしに、主の位置がわかるようになり、すぐに駆け付けろとの命令が下る。
だから、通常時も縁は確かにつながっている。
ただ、従者が有利なことなど本来できるはずもない。だが、探れと言われると、主を探さないわけにもいかず。
静かに静かに、自分につながる、自分のものではない何かを3人は集中し探す。
魔力操作に優れているリオンですら、わずかに縁が繋がってるという感覚を意識してようやくという程度。かなりの集中を要する作業はすでに2時間以上されているが、一向に場所はわからない。
ばたばたと執務室には、あちこちを探していた人物が結果を報告しにやってきていた。
公爵様の動きは迅速で、タイミング的に今回はタダの誘拐事件ではなく、一刻を争うとの判断がでたこともあり、市民にも通達が出されるような大捜索だった。
有数の観光地特有の、ゆったりとした夜ではなく、あちこちに灯りが灯り、人々が外にでて怪しい人物はいないか見て回るという異常事態だった。
それでも場所はわからず、何らかの魔道具がつかわれているのは明らかだが、いかんせん場所の特定ができないと手の施しようもない。
その時だった。3人の頭の中に短く絶対の命令が下った。
『来い』
今までは真っ暗闇の中で、黒い線を追う様な感覚だったものが、主からの明確な命が下ったことで、主まで続く道が一気につながる。
思わず3人で目を合わせた。
最初に言葉を発したのはリオンだった。シオンをまっすぐ見つめてリオンはこういった。
「シオン、あなたは先に行きなさい。あなた単独なら文字通り、障害物があっても怪我すらも治して一直線で主のもとへと向かえます」
「何言ってんの? 主のもとにすぐ駆け付けるなら、アンタのほうが僕より優れてんでしょ」
一目散に主のもとへと駆け付けたい思いはあるものの、シオンは冷静だった。
主を生かすために必要な人材が真っ先に行くべきだと。
「敵は一人とは限りません。ここにいる兵力を使うためには指揮をする者がいります。フォルト様は地理に長けていますが、指揮をとるには経験不足。レーナ様はまだ移動しており、場所が刻一刻と変わる状態では、公爵様では現場の指揮は取れません。時は一刻を争います」
「了解」
いうや否やシオンは駆け出した。最短距離である窓へと。
「おい、ここは3階だぞ」
フォルトが慌てて窓に向かったシオンに声をかける。
「フォルト様。鍵開ける時間も惜しいから、窓の弁償よろしくね」
領主の執務室の窓は鍵が一つであるはずもない、だから開けるのに時間が少しかかるものだったのだが。
シオンはそういうと飛び上がり窓枠に手をかけ、閉じている窓を両足で蹴り反動で反ると、今度は元に戻る勢いを使って膝で大胆に窓をぶち破ると下へと消えていった。
窓ガラスが割れ破片と共に人がふってきたことで辺りがざわつく。そんなことお構いなしに傷をいやして走ろうとしたその時だ。
「3人の中だと、レーナに何かあれば君が来ると思ってたよ」
馬にまたがり、ジークはもう一頭の手綱をシオンに差し出した。
「ほんと、先読むのうまいよねジーク様」
「今回の誘拐は流石に読み切れなかったけれどね。行こうか」
「うん」
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