第10話 フラグを折らないで

 重い、シオンが持ってきたスライムの戦利品を私は部屋に運んだ。

 私があれほど悩んでいたことがたった2日で終わってしまったのである。

 戦利品であるBB弾のようなものがジャラッジャラ入っている。100、1000いやもっとありそう。律儀にこれほどの量を集められていることから、これがそこまでして欲しいものと思われたのかもしれない。

 とりあえずはこれが掃除の証明となるだろう。

 とりあえず、不本意な形ではあるが問題は解決した。期限も冬の間とまだ十分にあるから、リオンとシオンだけではなく、私の知り合いが動けない日。

 そう対抗戦の日に討伐報告をすることにした。


 特に魔力量の消費を抑えることに成功し、私の変装を可能にしたアンクレットの没収だけは絶対に避けねばいけないから秘密にしなければいけないのだ。



 アルバイト先には学校のメモ帳を利用した足のつきにくい手紙を出し、嘘をつくのはよくないけれど無理をしてしまったようでお休みをいただきたいことを連絡しておいた。

 昼休みに抜け出して、頭をもう一度下げに行くと、今は学業に専念しなさいとものすごく心配させてしまった。



 街にほいほい抜け出すのが難しくなってしまった私は、またも退屈な放課後となってしまった。



 学内をうろうろとしていると、またもヒロインが嫌がらせを受けているところに遭遇した。また女の子数人に囲まれ、また突き飛ばされてる。

 出ていく勇気のない私はコソコソと隠れる。

 前回同様、取り囲んでいるのが去ってから怪我をしているようなら医務室に連れていく方向でと思ったのだけれど、火の玉が現れたのだ。

 嘘でしょ、魔法がある世界だけれど本当にそれでヒロインを害するつもり? 隠れていようと思ったけれど、さすがにこれは駄目だ。

 勇気を出せ、私は一応公爵令嬢だ。私が出れば相手は引くかもしれない。

 luckyネックレス様お願いします。ネックレスをギュッと握ってから私は声を張り上げた。




「こっ……ここで何「ここで何をしている」

 めちゃくちゃ勇気を振りしぼって私が出てくるのとほぼ同じタイミングでヒロインを助けに誰かが入ったのだ。

 よかった、誰かわからないけれど一人で助けに入ることが回避されたことでホッとしてしまう。



「これは、レーナ様、エドガー様ごきげんよう。ちょっと魔法の使い方を庶民の彼女に教えていただけですの。誤解があるようですわね。それでは失礼いたします」

 一気にそう言われると、あっという間に囲んでいた女の子達はいなくなった。


 ヒロインは相変わらず突き飛ばされ地面に尻もちをついていた。

 エドガーはヒロインに手を差し出す。ヒロインはその手をとり起き上がる。


 エドガーだと……。攻略対象者の一人ではないか。

 ヒロインを起こしている後ろ姿しか見えないけれど、赤ワイン色の美しい髪を後ろに一つに束ねているし顔は確認していないが声が間違いなくそうだろう。


「マリア、大丈夫か?」

「えぇ、エドガー様ありがとうございます」

 あっ、ヒロインの名前マリアっていうのね。そういえば、エドガーは虐められているヒロインを助けに入るイベントがあったかもしれない。

 もしこれがそうだとすれば、私は思いっきり二人のイベントを邪魔していることになる。

 スチルを考えると、やはり悪役令嬢レーナが関係ないイベントにいるということは許されることではない。


 エドガーはマリアと呼び捨てだったし、もしかしてある程度仲がいいのかもしれないぞ! これは、邪魔者は退散したほうがいいわよね。



 私がちょっとイベントのさわりに入ってしまったけれど、今なら修正がまだ可能のはず。

 そろりと後退する。

 ホッホッホ退散退散とやっていたら。

「レーナ様」

 急にエドガーが後ろを向いたのだ。

「ハヒィ」

 呼ばれると思わなかったので思わず変な返事になった。



「複数人の前に正義感で飛び出された勇気流石でございました」

 そう私に話題を振ってきちゃったのである。イベントが止まっている。

 というか、私が勇気を出さなければヒロインであるマリアといい感じだったのではないだろうか。

 うかつだった、エドガーは男爵、私は公爵。

 そりゃ、私が絡んできているのを知っちゃったら私に挨拶をしないわけにはいかない。

「レーナ様、エドガー様ありがとうございました」

 マリアも立ち上がり深々と私達に頭を下げた。


 いやいや、立ってる二人にヒロインが頭を下げるスチルだなんてトキメキなど何もない。

 まだいける軌道修正しよう。

「見過ごせず声をかけただけで、私が何かを特別にしたわけではありません。エドガー様、マリア様が怪我をされているかもしれないので医務室に連れて行ってくださいませんか?」

 よし、これでどうだ。


 お姫様抱っこで医務室、うん、絵になるわ。

 騎士を目指しているだけあって、意外と筋肉質なんですねエドガー様的な空気にもなるしバッチリよね。

 そう思ったけれど、すでにヒロインは立ち上がってしまっていた。

 ……手を引かれるでもいいじゃない角度によってはエドガーの良さが伝わる一枚になるはず。



「いえ、私はどこも怪我などしておりません。お気づかいありがとうございます」

 私のナイスアシストにも関わらず、まさかのマリアのほうからフラグ折りである。

 おいおいおい、見事なパススルーしてるんじゃないわよ。


「気が高ぶっているときは痛みに気付かないものです。もし怪我をしていれば時間がたてば痛みだすかも知れません。医務室のリオンには顔がききますので、レーナに見てもらうように言われたと怪我がないか確認してもらいなさいね」

 ゴリゴリとルートの修正を頑張ってみる。

「お気づかいありがとうございます」

 ヒロインはそう言って頭を私に下げた。

 エドガーも私に会釈をしてヒロインに付き添い医務室のほうに向かって行った。



 よしよし、一時はどうなることかと思ったけれど上手くいったわ……って私、人の恋路応援してる場合ではなかった。

 



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