第28話 星

 砂浜に残る真新しい足跡を見つけ、私はガッツポーズをした。

 流石luckyネックレス。


 夜の砂浜は、いくら満天の星空だといっても足場をしっかりと確認することはできない。

 転んだりしないように、フォルトの足跡を見失わないように気を付けて私は進んだ。




 波打ち際に一人で空を見上げている人物を見つけた。

 ここはアーヴァイン家のプライベートビーチ、一般客のはずはない。

 となると、あれは間違いなく……

「フォルト」

 私が名前を呼ぶと、その人影はこちらを振り返る、そして早足でこちらに向かってきた。

 まずい、これはフォルトじゃなかった!? と慌てたけれど、向かってきた人物は間違いなくフォルトだった。

「こんな時間に一人で出歩いたら危ないだろ!」

 そして、すぐにお叱りを受けてしまった。



「それはフォルトも同じでしょう。それに、ここは我が家のプライベートビーチ。多少は大丈夫でしょう」

「同じじゃないだろ」

 ドヤッと言い切った私に、フォルトががっくりと肩を落として答えた。

「まぁ、確かに……多少、私は戦闘に向きませんけど。それでも友人を一人でほっておけるようなタイプでもないので」



「そういうのなんて言うか知ってるか?」

 フォルトが私を見下ろしてそう話しかけてきた。

「一応聞きますが、なんていうので?」

「おせっかいっていうんだ。俺も人のことは言えないけれど……」

 フォルトはそういうと、私から視線をそらして満天の星空を眺めた。

 明かりの少ないこの世界では、星のきらめきが本当に美しい。

 ましてや、ビーチから眺める星空は他に遮るものは何もない。

 いくつもの星が流れる夜空と波の音だけが聞こえる。



 しばらくするとフォルトが話し始めた。

「公爵様に、致命的な欠陥だと指摘されたとき……俺は反論することができなかった。その通りだった。公爵様のように、先を読み備える力もなければ、領主に絶対ふさわしくないと思う相手をねじ伏せる力もない。俺は――領主にはふさわしくない」

 フォルトは泣いたせいで少しだけ赤くなった目元を隠すことなく、そうだろ? と言わんばかりに私を見下ろした。

 レーナよりはるかに小さなときから努力してきたフォルト。

 彼の努力で得た知識はこれまで幾度か垣間見た。

 14歳という歳でこんな重い責任私だったら、背負うことはできなかっただろうと思う。



「私たち、まだ14歳よ。できないことがあることはおかしいことじゃないわ」

 フォルトを慰めるように、私は語り掛ける。

「跡を継ぐことを考えていなかったレーナ嬢はできなくても、ジークだったら……力不足を認めてきっとうまくうごいたはずだ」

 俺はできなかった、でもジークならできたはずだとフォルトは悔しそうな顔をした。 

 だけど私は、ジークがフォルトが思うほど完璧な人間ではなかったことを知っている。

 何でもそつなくこなす、ジークは取り繕うことがうまいだけで、年相応の子供らしい部分が間違いなくあった。




「フォルトが知らないだけでジーク様も完璧じゃないわよ、1年目の春私が髪型を変えたらジーク様が私だとわからなくて、医務室で大泣きしたこと覚えている?」

「……覚えてる。レーナ嬢の涙で制服が汚れた言い訳をするのが大変だったからな」

 涙だけではなく、鼻水もひどかったけれど、そこは私に指摘しないところがフォルトらしい。

「あのジーク様が、なぜ私の顔を覚えられなかったか? フォルトは考えたことがある? いくら私のことが嫌いだったとしても、婚約者だもの。嫌でも顔を普通は覚えたでしょう。でも、ジーク様は私の顔を覚えていなかった。おかしいと思わない?」

「……確かに。ジークがレーナの顔を覚えていないというのは明らかにおかしかった」


『君の顔なんて覚えなければよかった』とジークに言われて、故意に私の顔を覚えないようにしていたこと。

 親しくなったことで、ジークは私を見捨てられなくなったこと、領地としては私との婚約解消は魔子がいる限りできるはずもないことだったのに。

 あの日、ジークは婚約解消を受け入れると了承をしたことをフォルトに話した。


 立場的に、ジークは何が何でも私との婚約を魔子が何とかならない限りは破棄なんてできるはずもない。

 しかし、あの日確かにジークは婚約者としては距離があっても友達らしく付き合えるようになった私に配慮し、立場よりも私を選んだのだ。



「ジーク様は嫡男として、成すべきことをするために私の顔を覚えなかった。でも、ジーク様も完璧じゃなかった。私と親しくなったことで私を切り捨てられなかった。だって、ジーク様もまだ14歳だったんだもの……

 確かに、今フォルトが領主戦を受けたことは失敗だったと思う」

 私はさらに話をつづけた。

「だけど、がけ崩れがオルフェの森で起こったときに、違和感に真っ先に気が付いたのも、視察に動いたのもラスティーじゃない、フォルトだったじゃない!」

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