第3話 ご褒美じゃないよね?

 リオンの声は間違いなく苦しそう。

 なのに、なんだコレ。苦しいなら苦しいらしく苦しむだけにしてよ! そして秘密などさっさと暴露してしまえばいいのだ。

 というか、思い返せば、『いっぱい我慢できるのね』など、どこの女王様だよわたしゃ……。


 平常心よ。思いっきりやらかしてしまった予感はするけれど。まだ挽回はできるかもしれない。とりあえずハーブティーを飲んで心を落ち着けようじゃないの。

 そう思ったけれど、カップは空になっていた。

 あっ、全部飲んじゃってる。

 どうしよう、これはお茶のおかわりを頼むのは命令になるの? セーフなのアウトなの? と思わず空のカップをじーっと見つめてしまう。


 すると、カップが私の手から取られハーブティーが注がれた。

「申し訳ありません、気づくのが遅れてしまいました」

 しまった、どうするか悩んでいただけなのに、完全に空になってるのリオンさっさと気がついて自ら動きなさいよ感でちゃってた?

 動揺して、注がれたのにお礼も言わずに飲み始める。

「あっ、冷めてる」

 そのくせ文句だけは、一年近くにわたる超お嬢さま生活のせいでポロリと出ちゃった。シオンの金くい虫否定できなくなってきてる。

「申し訳ありません」

「いや、今のはいいのです。つい思ったことが口から出てしまっただけです。飲めますから」

「いえ、そういうわけにはいきません」

 淹れなおそうとするリオンとこれ飲むから大丈夫だからという私のカップの取り合いが始まるが注がれた直後のためたっぷりと入っていたハーブティーがこぼれてしまった。



「熱いっ」

 飲むにしては温度は低いけれど、手にかかれば熱い。

 よく手入れのされた私の白い手は赤くなった。

「申し訳ありません」

 私よりも沢山のハーブティーがかかったのかリオンの手のほうがずっと赤くなっているにも関わらずリオンは私に謝罪をする。


 私の手に触れる前にリオンがピタっと止まる。

「すぐに治しますので、お手に触れてもかまわないでしょうか?」

 ヒリヒリしてるような気もするし、早いところ治してもらおう。

「かまいません」

 私が許可を出すと、リオンの大きな手が私の右手に触れる。ゆっくりと壊れ物を触るかのようにそっとそっと。

 剣を握るせいなのかリオンの手は柔らかくはない、独特の硬さがある。

 ダンスの時は全くそれが気にならなかったけれど、どこからどこまで治すべきなのか確認してるのか、ゆっくりと赤みを帯びているところ帯びてないところの境界線を無骨な指でなぞられれば嫌でもそれに気がつく。


 軽いやけどだろうし、パッとシオンみたく治さないのかな?

 あっ、じんわりと温かい感じがしてきた。治療にはいったみたいね。


 馬に乗ってお尻が痛くなった時、シオンの治療時間は2,3秒ほどだったと思う。

 リオンは治癒師だけど、魔法省にいたからあまり治癒魔法を使ってなかったから時間がかかるのかな。

 シオンは教会絡みで治療をここ最近までよくしていたみたいだし。


 リオンの手が指が私の手をそっとなでる。

 ねぇ、治癒のためだよね?

 これ、治癒のためなんだよね?


 治療のために必要なことなんだよねってことを確認したくてリオンを見つめた。

 瞳はトロンとして、どうみてもうっとりした顔で私の手にそっとそっと触れていた。

 リオンの性癖を感じ取ってなければ、私の手にこんなに愛おしそうに触れてくれるだなんて、もしかして私のことが好きなの? と乙女的な展開になっただろうけれど。

 これ、完全に我慢させたことで手だけなら火傷を治す名目で少し触れてもいいってご褒美になってない?



「は……早く治しなさい」

 すぐに口からそう出た。

 私がそういうと、リオンは正気を取り戻したようで、秘密を話さないため具合は悪そうだけれど、先ほどまでの時間はなんだったのかと思うほど一瞬でやけどを治してしまった。

「申し訳ございません」

 謝罪してすぐにリオンの手は離れた。



 今の何だ? 今のは何だ? 今のは何なのよ?



 青かったリオンの頬は上気しているし、自分の手もさっさと治せばいいのに治さず椅子に座りなおしている。

「リオン、自分の手を治しなさい」

「いえ、私はこれでいいのです。私のミスのせいでレーナ様に痛い思いを」

 ちょっとまて、いや、ほんとこの会話は大丈夫だよね?

「治癒師が火傷の痕が残った手でいいのですか? さっさと治しなさい」

 そういうつもりはない、ないのに会話の流れ的にどちらかというと女王様的な話し方と命令になってしまう。

「申し訳ありません」

 リオンはそういうと、自分の手を素早く治した。

 おい、私より広範囲なのに一瞬だったじゃないか、さっきのはやっぱり何なのよ。




 秘密はもう此処まできたら、聞くしかない。

 どうしよう。というか、ここまでリオンの性癖に大きな大打撃を与えといて、くだらないことだったらどうしよう。


 とりあえず手っ取り早くすませよう。

 だって、もうどう見てもうっとりとした顔で私の次の指示待ってるようにしか見えないもん。



「リオン手がひどく痛みます」

 私がそういうと愕然とした顔になり、リオンが再度私の手を治療すべく手を伸ばしてくるが私は手を引っ込める。

「あっ……」

 治すべき手がなくなったリオンの口からは思わずそう声がこぼれた。

「リオンの私に絶対言いたくない秘密言いなさい。治療はそれからにします」

 教えろではなく、私は言えと命令してみた。


 リオンは下唇を噛んだ後命令に逆らえなかったのか両手を私の前に出した。

 なに?


 すると、リオンの左手と右手と両方から1本ずつゆっくりと剣がでてきたのだ。

 1本は私も一度見たことがある刀身が緑色の物、もう1本は紫の刀身をしていた。

 魔剣が2本?

「これはどういうことですか?」

「……紫のほうは先日クライスト領で魔子を退治された際にできた魔剣でござます。現場に最初に駆け付けたのが私で、レーナ様とジーク様の傍にあったのですが他の方に気づかれてはと体内にしまっておりました」

 そうだ、すっかり忘れていたけれど、ユリウス・アーヴァインは魔子を退治して魔剣を何本も作ったのだ。今回も、魔子に突き刺した剣は消えたりせずに魔剣として完成され突き刺さっていたのかもしれない。

「そのこと私は報告を受けていませんよ」

「はい、最初は他のクライスト領の方にばれないようにと体内にしまったのですが……。現場にいらしたレーナ様もジーク様も魔剣がどうなったか問い詰めなかったのでそのまま私の物にしようとしておりました」

 とんでもない秘密でてきちゃったよ。





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