第5話 変な性癖に目覚めそう

 ――結局、それから十五分近くにわたって、フォルトによる一方的な魔力循環は続いた。

 その間私はどうしていたかというと、他にできることもないのでフォルトの顔をガン見していた。

 きれいな顔というのは見ていて飽きないし、それに人の顔をこんなふうにまじまじと見ることはなかなかできないので、なんだか面白い。

 じっと待ち続けると、ようやくフォルトが目を開いた。

 ……遅い、実に遅すぎるわ。

 彼の緑色の瞳が、不機嫌に頬を膨ふくらませる私の顔を映うつす。


「ようやく満足しまして?」


 そう私が声をかけたこの瞬間も、フォルトは私の身体の隅々まで魔力を好き放題に行き渡らせている。

 私がちらりと繋がれた手を見ると、彼は驚いたように目を瞠り、小さく声をあげた。自分の魔力がレーナの身体を蹂躙していたことにやっと気づいたのだろう。


「あっ」

「これ、もう止めていただける?」


 そう言うと、スーッとフォルトの魔力が引いていくのがわかる。あれだけ身体に満ちていたものがごっそり抜ける、今までにない感覚だ。


「これは、その。すまない」


 とても失礼なことをしたという自覚はあるらしい。顔を赤らめたフォルトが私から目をそらす。


「魔力線が切れる可能性もあったので、他の人には絶対にしてはいけませんよ。特にフォルトは魔力量が多いから、魔力量が劣る人は抗う術がありません」


 フォルトは無言で何度も頷く。

 魔力線は血管のように管状で、一気に流れる魔力が増えると、破裂してしまう場合があるのだ。

 私のお説教を聞いて反省するフォルト。私はそんな彼の手を握った。


「なんだ!?」


 フォルトが本能的に危険を察知したのか、距離を取ろうと一歩下がる。


「そのまま。魔力は流さないで」


 私はぴしりと鋭い声でフォルトを静止させた。

 私は右手からフォルトの中に魔力を流した。今までは、自分の身体から相手の身体に出ていった魔力を意識することを止めてしまっていた。だが、今度はフォルトの中に入ってからも、魔力を自分の意思できちんと操る。

 おぉ、イケる。わかるわ。

 フォルトの魔力が、先ほどまで散々身体中流れていたおかげで、なんとなくだけどコツを掴つかめたみたいだ。操作できる!

 ……あくまでフォルトの中に留まる魔力が抵抗しなければ、という前提がつくけど。

 人の魔力線に意識して魔力を流してみてわかったのは、私の中で魔力を動かそうとするよりも、フォルトの身体の中の方がスムーズにできるということだ。

 あっちこっちに魔力を流すと、フォルトがほんのり私の魔力を押し返した。


「フォルト」


 窘めるように名前を呼ぶと、彼はビクッと肩を震わせ、抵抗しなくなる。

 さっきの私の気持ちを、他人に身体の中をまさぐられるような、なんともいえない感じを味わうがいいわ。

 よし、目を閉じて集中しよう。


「んっ」


 ――どのぐらい経たっただろう。色っぽい声を耳にして、私は目を開いた。

 視界に入ってきたフォルトの頬ほほは上気し、下唇を軽く噛んでなにかに必死に耐えているじゃありませんか。

 完全に調子に乗った私は、フォルトの顔色を窺いつつ、『こっち? あっ、ここ? それとも、さっき抵抗してきたここ!? ここですねっ』と魔力を流してみる。

 頬を染め、手に汗をたくさんかきながら我慢するその姿は、少年から青年に移行する途中の……なんともいえない色気が漏れていた。

 私の魔力を押し返す時もあるけれど、強く名前を呼ぶと、急いで制御する。

 その姿がいじらしい。

 私の微量の魔力がフォルトの魔力線を這うように、むしろ気持ちとしては、舐めまわすかのように進む。どうやら、魔力線にも敏感なところがあるらしく、フォルトの弱いところに念入りに魔力を流す度、彼が肩を震わせる。

 ――あぁ、Sに目覚めてしまいそう。いや、目覚めているのかもしれない。

 ついニヤニヤと悪い笑みが浮かんでしまう。

 私は完全に思考をエロいおっさんに乗っ取られていた。

 依然、目の前のイケメンの頬は上気し、息は少し荒い。目をきつく閉じ、度々かわいらしい声をあげる様は、どう考えてもアウトだった。

 頭の中のエロいおっさんが、『いいぞ、もっとやれ』と私をそそのかす。

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