第17話 タイマン
ビリーも連日の怪我人の話は耳にしていたのだろう。
私の指摘に押し黙った。
「自分の実力の範囲でできることをやるのと、実力以上の無謀なことをするのは違うのではないでしょうか? ましてや、命を懸けるべきではない時に、命をかけるようなことはすべきではない。そう私は考えます」
私の頭によぎったのは、領地戦を引き受けたフォルトのことだった。
実力以上の無謀なことを引き受けたフォルトのたどった道はかなり悲惨だった。
目を覆いたくなる領地戦、結果フォルトが勝てたからよかったものの、もし負けていたらと思うと考えたくもない。
「公爵令嬢だろう」
「えぇ、そうです。だからといって、しなくてもいい危険なことをする義務は私にはありません。負わなければいけない義務と負う必要のないことがあり、それに合わせて私は動いているだけです」
これ以上の話は無駄といわんばかりに、私は視線をビリーからはずし適当な本を選ぶと椅子に座り直し本に視線を落とした。
さっさと立ち去ればいいのに、ビリーは何かいうわけでもなく私の横にそのまま立っている。
はぁっとため息をついて私は頭に入らない本を閉じると、立ち上がりビリーを見つめ返した。
「ビリー・ヘバンテン。あなたが今やるべきことは、少なくとも私に詰め寄ることじゃないでしょう」
マルローネ先生が私に詰め寄るならまだわかる。
恋愛フラグがたちもしてない不良生徒のビリーに責任転嫁されて詰め寄られる理由が私にはない。
ビリーが後ろに1歩後ずさりをした。
なぜ彼が私なんかに対して後ずさりをしたのかは、さっぱりとわからないけれど。
これはいける。
そう思った私は、さらに1歩踏み込む。
「あなたが今やるべきことはなに?」
菫色の瞳をみつめると、ビリーは私から視線を逸らすと社交室の扉をこれでもかと音を立てて去っていった。
まぁ、私もこのままいつまでも逃げ続けるわけにはいかないんだろうけれどね。
社交室の扉を見つめて心の中でそう呟いた。
マルローネ先生は折れない。
社交室に閉じこもってシャットアウトしてしまえば、あちらから何かしらの歩み寄りがあるかと思ったのにそれはなく。
授業をボイコットした私を悪い意味で見習うかのように他の貴族たちが後に続くのはよろしくない。
今のところ表立って私が責められることはないのが、アンナとミリーが裏で暗躍してくれているだけに過ぎない。
ビリーに話しつつフォルトの領主戦を思い出した私は思ったのだ。
逃げれば全部OKというわけにはいかず、立場に向き合わなければいけないということを。
「レーナ様すみません、遅くなりました。授業が押してしまいまして。ミリーが皆の教科書を取ってから次の教室に向かうそうなので、レーナ様は私と先に移動を」
バタバタと小走りでアンナが社交室のドアを開けそういった。
「えっ」
決意を込めていたのに、慌てていたアンナの様子に引っ張られる。
小走りで移動しつつ私は話を切り出した。
「ところで、アンナ」
「はい、レーナ様」
「このまま風紀が乱れることは私は望んでないの。このまま逃げていたらなんかすごく良くないことがおこりそうな気がして……だから、マルローネ先生ともう一度話してみようと思うの」
「え?」
「放課後先生のところに会いに行くわ。だから、その……アンナについてきてもらえないかしら?」
「もちろん、私は構いませんが。大丈夫なのでしょうか?」
「他の授業にも支障がでているようですから、先生にしても授業に出てほしいと思っているはずです……それに、怪我人が大勢でているでしょう」
こうして私はアンナにお願いしてついてきてもらうことにしてもう一度マルローネ先生と話してみることにしたのだ。
しかし、決意したもののマルローネ先生は自身に与えられている部屋にはいなかった。
「レーナ様、どうやら先生は席をはずされているようです。どういたしましょう?」
自分なりに覚悟をちょっと決めてきたのに、これには拍子抜けだ。
「他の学年の授業とか?」
「えーっと、授業はなかったと思うので。おそらくですが、今日も授業で怪我人がでたので調査しているのかもしれません。怪我をした中には貴族も含まれておりますので……」
「なるほど……えーっと」
「先生がいらっしゃるかはわかりませんが……行かれますか?」
アンナが間をおいて私にそう問いかけた。
私はそれにうなずいた。
「足元にお気をつけくださいませ」
戦闘訓練は、学園の敷地の中でも校舎から離れた場所で行われていたようだ。
ゲームでは一瞬で進む場所だったけれど、歩くとそれなりに時間がかかる。
だから授業がおしたアンナは急いでいたのね。
足場の悪い道を歩くこと数分。
木々がまばらに生えた比較的広い場所に出た。
ところどころ戦闘の痕跡が残る場所をみて、やっぱり授業休んでおいてよかったなんてことを私は思っていた。
その時アンナが突然立ち止まった。
「ぅっ」
戦闘の惨状を眺めながら歩いていた私は、アンナが立ち止まったことに気が付かずアンナの背中にぶつかった。
何事か? とアンナをみると、アンナは視線を先へとやった。
ずいぶんと先にはどうやらマルローネ先生とまさかのリオンが話をしていたのだ。
「え? なんでリオンがここに」
「リオン先生は治癒師ですから、すべての班に治癒師がいるわけではないので。最近は怪我人が多いので、その……貴族の方が大きなけがをされないようにかと」
「なるほどね」
二人にばれないように遠くから見ていたつもりだけれど。
二人はすぐに気が付いていたようで、会話をすぐに切り上げるとリオンが小走りでこちらにやってきた。
「レーナ様、それにアンナ様。お二人でこんな時間にこんなところに来られるだなんて、どうかなさいましたか?」
リオンの質問にアンナが自分が答えてもいい物か? と私に目配せをする。
私はアンナに目で私が話すと合図をすると、アンナが後ろに一歩下がった。
「私はマルローネ先生と少し話をしに来たの」
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