第7話 掛け持ち

 私は懲りずに水路でスライムに挑んだが、攻撃は通らず逃げる羽目になった。

 くそったれである。

 これ、私授業での魔物退治のことを考えてパーティーのお約束を皆としておいてよかったかもと思うと同時に私が実践で全く役に立たないことが証明されてしまったのだ。

 私でも倒せる方法を探すか、違約金をなんとか払うしかない。払うにしてもそれはレーナではなく、エレーナとして。


 今回の対抗戦というのは、学年で優秀な生徒のチームを2チーム作り模擬戦闘を行うというものだ。

 ジーク、フォルト、シオン、アンナ、ミリー、そして全くこちらの世界にきてからかかわったことはないけれど、攻略対象者の一人でもあるエドガーを入れて今回一チームらしい。

 連携が要されることもあり、魔法のバランスだけではなく、生徒同士の仲も考えられチームは組まれる。

 生徒同士の仲を考慮されたため、優秀なほうじゃないクラスのアンナとミリーにも声はかかったのかもしれない。でも、二人のテスト結果十分優秀だったけどね。

 そして、仲良くつるんでいたけれど私だけは仲のよさでカバーできなかったため外されたんだけれど……。


 エドガーは風魔法の使い手だ。風魔法はチーム戦でも、単騎の場合でもかなり優れている。

 身体強化と風魔法の2重展開さえできれば移動速度はかなり早くなるし。風の刃は切り避けるし。

 距離さえ近ければ、相手の話し合うのを妨害することもできる。

 そりゃ、私選ばれないわけだわ! と納得である。

 どうせやるからには、相手チームには勝ってもらいたい。だからエドガーも頑張れ! 私と全然絡んだことないけれど。



 私は必死にバイトしていた。

 だって何回か挑んだけれどスライム倒せないんだもん。となると違約金だ。わざとハメたくらいなのだから金の調達ルートも納得できるものを用意しないといけないだろうと、私はバイトをかけ持ちするブラックな生活に早変わりしていた。


 自発的に頻度を決めやっていたバイトとやらなければいけないバイトでは楽しさは全然違う。日雇いのため終了後払われる銅貨を部屋でこっそり何度も数える。違約金まで程遠い。

 幸い期間が冬が終わるまでと長いけれど、かなり頑張らないといけないだろう。

 週に3回のシフトは今週に7回入ってる。もう、毎日ね……。

 土日なんて、朝から夕方まで……。

 それでも足りなくて、朝6時から別のバイトもかけ持ちしだしたわ。

 メイドには適当な理由いってさ。



 疲れた、笑顔もぎこちなくなる。

 店の人も、さすがに週7勤務をお願いしてからというもの、私達は午前中お休みだけれど学生のエレーナはその間休めないだろう? と心配してくれていた。


 ちょっとした思いつきでこんなことになるだなんて。

 自給を計算するけれど、これだけシフトをいれても追いつかない。

 どうしよう。





「おい」

 お金道端に落ちてないかしら。銀貨の1枚でも落ちていれば助かるのだけれど。

「おい」

 いや、落ちてるお金で穴埋めしたことを責められたらどうしよう。

「おい!」

 肩を掴まれて私はびっくりして振り返った。



 そこに立っていたのはフォルトだった。

「どうしたんだ? さっきからずっと呼んでるのに上の空だぞ」

 ぼーっとお金のこと考えながら校内をお金落ちてないかうろついてたや。なんたる末期だろうか。

「いえ、なんでもありません」

 騙されて多額の違約金を払わないといけなくなったなど言えない。



「なんでもないわけないだろ」

 フォルトの手が私の頬に伸びる。

「頬が少しこけてるし痩せたにしてもこんな痩せ方したらダメだろ。それに肌も化粧でカバーしてるけど荒れてる。ちゃんと食べて寝ているのか?」

 痩せたことは気がついてなかった、でも立ち仕事は忙しくて、今までのレーナよりカロリーはつかってると思う。

 寝ているだろうか? と考えるといつもの時間にはベッドに横になっていたけれど、不安で眠りは浅かったかもしれない。



「どうした。絶対おかしいぞ」

 フォルトはとても心配そうな顔で私を問い詰めた。

「……大丈夫です」

「俺たち友達になったんだろ」

 フォルトの瞳がまっすぐ私を見つめた。



 こんなに心配してくれているけれど、怒られたくないとか馬鹿にされたどうしようってことが話すことを止める。

「友達にも言えないってことか?」

 フォルトの眉が怪訝そうによる。

 私はそれに適当にうなずく。

「わかった。……約束覚えてるか?」

 フォルトとした約束は一つしかない。



 破棄するようなことがあれば前向きに検討する。

 フォルトが以前私にそう言ってくれたことを思い出す。

「レーナ嬢はいいやつだと今は思ってる。今、何をそんなに悩んでるのかわからないが、困っている姿をほっとけないくらいは俺はレーナを気にかけていると思う。レーナ嬢と婚約すれば次期公爵が本決まりになるだろうから俺には十分メリットがある」

 待って。本当に言葉に出してしまうつもりなのか。


「俺と婚約すれば、お前の悩みは無くなるのか?」



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