第6話 こそこそ
ヒッヒッヒと魔女のような笑いがこみ上げる。それほどに私は手ごたえを感じていたのだ。
お目付け役も兼ねている友達はいないし、目ざとく口うるさいシオンもいない。リオンは私が指示を出せばそれに従うしかないらしく、たっぷりと用事を言いつけた。
それは、私がおやつとして食べたいからシュークリームを明日は作れというものから、テストの範囲次はどこが出そうか研究しておけとか本の表紙が気に入らないから私がコレダ! って思うの提案してよという無茶ぶりまでさまざま。
そのかいあって私はノーマークなのだ。
「レーナ様どうかされましたか?」
放課後のことに思いをはせていると、アンナに声をかけられてしまった。
「いえ、何でもないのよ。ほら、小説の続きが気になっていて今晩読むのが楽しみだなって」
それらしい嘘をついてみる。
「そうですか、レーナさまは放課後、本当にお一人で大丈夫なのですか? 私とても心配で」
アンナとミリーは私といないことを気にかけてくれていた。
「大丈夫、大丈夫。私のことより、二人こそちゃんと練習しないと駄目よ」
話をそこで切り上げる。
二人と別れた後、私は一度大人しく寮へと入って人がいないのを確認してアンクレットを装備する。
たちまち私の髪は焦げ茶色へと変わる。丁寧に編み込まれた髪をほどいて、適当にポニーテールに結う。
さて、私の放課後の始まりってわけよ。
ヒロインも使う、アルバイトの斡旋上に私は向かった。
心配させるといけないので、私の働ける時間は一日に2~3時間ほどだ。それでも、私はアルバイトをすることに決めたのだ。
金くい虫は、庶民のところで働くことで、将来的に相手決まらなかったら働けるような図太い女の子になることを誓いました。
自分の食いぶちくらいは稼げるように将来的にはなりたいけれど、まずは短時間の労働からだ。
私はレーナ・アーヴァインで仕事を流石に受けるわけにはいけないので、偽名としてエレーナと名乗ることにした。
「エレーナちゃん、こっちオーダーお願いね」
「はい、喜んで」
にっこりと笑みを浮かべてテーブルへと向かう。
私は食堂でウェイトレスをしていた。夕方混み始めのときだけ、週に3回という緩さ。
オーダーを聞き質の悪い紙にメモをとり厨房へオーダーを伝える。
学生時代バイトをしたこともあってか働きだすとすぐに仕事に慣れた。
その結果私はすぐに週3の看板娘となったのだ。
所作に品があるとか、洗練されてるとか学園にいたころは一度も言われないことを皆言ってくる。
楽しいバイトライフである。
のこりの日は水路の清掃を勧められて引き受けたがこれが厄介だった。
BB 弾ほどの小さな石をいざとなったら投げなと言われて渡されたけどすぐに意味と、私が考えていた清掃と求められていた清掃の違いを知った。
ヤバいヤバいヤバい、死ぬ、囲まれたら死ぬ。
水路には初めて見る魔物がいた。30センチほどのスライムだった。
序盤に出てくる敵の代名詞だから楽勝と思い掃除のつもりで持ってきたモップの柄で叩いてみたところモップの柄は折れたのだ。
ヌルリとこちらに動いてきたからすぐにUターンして私は走った。
走った方向が悪かったのか後ろを振り向くと一匹だったのが六匹になってついてきてるのをみて絶望した。
後は必死に走るしかない。今の私は捕まれば間違いなく死ぬ。
いざとなったら投げつけろと言われてたけど一個しかないから、六匹に追いかけられてる今は無理!!!!
水路の清掃のはずがダンジョンから逃げ帰ってきたみたくなってしまった。
割りのいい仕事と思ったけれど、魔物退治だったのか、そうならそうと討伐依頼のところに貼っておきなさいよ!
町での困りごとコーナーにいれるんじゃない。
引き受けた依頼は達成しなければペナルティーとなる。
私が引き受けた後も依頼書はずっと貼り出されたまま。
よくみればその依頼書だけ他のものに比べて古い。
私はまんまと新人にペナルティーをつける罠に嵌められたとようやくわかったのだ。
失敗すれば違約金がとられる。その額は公爵令嬢には大したことないが、一般人にはあまりにも重い。
依頼を勧めてきた職員を睨み付けるが騙されたほうが悪いと言いたげな顔で愛想笑いされる。
違約金をポンっと払えば金を持ってる弱いガキとなり危ないし。
金が払えなければ女でそこそこ見目が整った私はどういう手段で返済させられるかわからない。
リオンを使い討伐に協力してもらえば、ヤバいのがバックにいると手出しはされないだろうけど、今度はリオンが私の自由を妨害するだろう。
私一人で討伐したという実績がいる。
皆が頑張っている間、私は清掃という名の討伐をどうやって一人で成功させるか悩んでいた。
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