第2話 なぜここに……

授業をまじめにきく、そしてノートをしっかりととる。

 私は一学期とは違い授業に真剣に取り組んでいた。アレだけプレイしたゲームの知識も時間がたつと忘れてくるもので、必死に覚えているためにも授業に真剣に取り組むしかなかったのだ。

 昼からぼーっとせず昼寝もせず、クラス合同のときはジークを見つめっぱなしだった私の態度が変わったことで先生方もほっとしているようだった。

 授業は聞いてみれば面白いし。まるでホグワー……これは言うのを辞めておこう。

 魔法がある世界って不思議でそして面白い、常識が違う。



「「レーナ様大変です」」

 アンナとミリーがそんなまじめになった私に話しかけてきたのだ。

「二人ともどうかいたしまして?」

「イケメンの噂を手に入れました!」

 アンナとミリーは顔を見合わせてミリーがコッソリと言う感じでこういったのだ。

「何それ! 詳しく聞きたいわ」

 私は身を乗り出した。本質はちっとも変わっていない私だった。




「治癒師のグスタフ先生が学園を去られましたよね。その変わりの先生がいらしたのですが、不謹慎ですが大当たりだったそうです。治癒師は不足しているのでパッとしない妙齢の方がまた来られると思っていたのですが、まさかの若く見た目の整った方だったらしく、無駄に女子生徒たちときたら、頭痛や生理痛など体調がすぐれないと通っているそうです」

「アンナ、ミリー……。私、朝食を食べ過ぎてしまったかもしれません」

 もう昼が近いけれど。

 今は昼食の準備が整うまでのお茶を飲む時間ですし抜けても問題なし!

「「まぁ、大変ですわ」」

 アンナとミリーはお互いに顔を見合わせてにんまりと笑いそう言った。



 あれよあれよと、医務室へGOである。

 いつの世もイケメンは女子の心をつかむものである。

 顔を見たいからという不謹慎な理由だけれど。顔をチラリとみたら、気持ち悪さは治ったことにして昼食にいこう。

 ホホホっと、ついつい悪役令嬢らしい笑い方が出てしまう。



 以前は医務室に行っても誰も人がいなかったのに、今日は女子生徒がいるではございませんか。

 あぁ、こんなにも人が集まるだなんて、イケメンは人をこんなにも寄せ付けてしまうのか……。

 これだけ人が集まるイケメンが学園の新たなる先生として新たに加わっていただなんて、情報を知るのが遅かったことが悔やまれる。

「本当に具合の悪い人以外は遠慮するように」

 イライラとした口調で医務室の扉を開けて待ちに待ったイケメンが現れた。

 180はあろう身長、緑色の髪と瞳。

 どこかで見たことのある容姿をしていらっしゃる。

 


 私の知り合いにとてもよく似ているけれど、彼は魔法省の職員であって、私が断固として辞めることを阻止し魔法省で働くようにとキツク言ってある。だから医務室の先生は私の知っている彼のはずはない。

「レーナさま、カッコイイですよ」

 ミリーが完全に固まった私の制服の裾を引っ張りながらそう言う。

「身長があるので同学年の男子生徒と違いますね」

 私の反対側の制服の裾を引っ張りアンナもそう言った。



 そういえば、二人は私のダンスの先生と結局会えていなかったのだ。

 いやいやいや、まだ彼と決まったわけではない。似ている人なのかもしれない、そう言えば兄弟の有無とか聞いたことがなかった。

「レーナ様どうされました?」

 女子生徒の中で私を発見した男は迷うことなく私の名を呼びやってきた。

 はい、確定である。

 彼はアンバーから出してはいけない人材というか、できうることなら関わりを避けることで普通の人でとどめておきたい人物なのに。

「リオン……あなたなぜ此処に」

「ご挨拶が遅れてしまいすみません。何しろ急なことでこちらも準備に追われてしまいご挨拶が後手に回ってしまいました。新学期から治癒師としてこちらで働くことになりました。怪我をされた際は気軽にお声掛けください」

 そういって、ニコっと私に笑いかけた。



「レーナさまお知り合いですの?」

「ご紹介してくださいませレーナ様」

 二人に言われて私はどう紹介したものかと思っているとリオンから二人に挨拶があった。

「リオンと申します。治癒師です。学園に赴任する前はアンバー領で働いていておりました。レーナ様のお父様である公爵様のほうからこのたび学園の治癒師に欠員が出たとのことでこの仕事をご紹介いただき学園に雇われました。教師は苗字を名乗ることはできませんので名前だけの自己紹介でお許しください」

 『治癒師です』で乗りきった。

 二人はキャッキャしているが、私はそれどころではない。

 

 なぜお前が此処にいる。

 魔法省はどうした?  

 聞きたいことが次々出てくる。



 リオンは挨拶をおえると。右手を他の生徒たちにかざす。

「他の生徒は特に問題がないようだから戻るように」

 手をかざすことで、生徒たちが怪我しているか調べたようで他の生徒は帰れと促され帰っていった。



「医務室の前で立ち話もですし、中に入っては? 茶葉は高価なのでありませんが、薬草室からハーブをいろいろ融通してもらっているので、おいしいハーブティーを御馳走しますよ」

 リオンに促され私達は3人で医務室にお邪魔することになった。

 



 医務室の中はだいぶ様変わりしていた。

 前は学校の保健室に似ていて必要なものが最低限ある殺風景な感じだったのに、壁の一部はぶち抜かれ2畳ほどの半切八角形平面の部分がこれまでの部屋とつづき部屋となるように増築されていた。

光が入ってくるように様々なサイズ形の窓がついており、壁にそうように、低めの棚がある。

 その上には植物や花、お茶のセットなんかがいろいろ置いてあった。

 ちょうど、部屋から出っ張る形となったそこには、以前はなかったお茶を楽しめるようなテーブルとイスがあり数人で楽しむことができるようになっている。



「あら、医務室には来たことがなかったのですが、こんな風になっていたんですね」

 ミリーがきょろきょろと部屋を見渡す。

 カーテンは緑色のものがかけられていた。

「奥のテーブルのあたりは増築させていただいたのです。私は魔力も多くたいていのことは魔力を使うことでなんとかできてしまうので、薬草や回復薬に回していた予算の一部を部屋の改装にあてました。さすがに窓までは予算が足りなかったので、知り合いに形を問わずないかと聞いてみたらいろんなサイズのものがつくことになりましたが……」


 促され席に座ると、リオンは手際よくお茶を入れている。

 透明のティーポットは、中にはどのようなハーブが入っているか見えるようになっているため見目も美しい。

 ティーポットの中には美しい黄色の花が咲いた。

 おしゃれか!? と思わずツッコミをいれたくなるのをぐっとたえる。

「このように、中に変な薬草やハーブが入っていないか見えるものを使っておりますので不安あればどうぞご覧になってからお飲みくださいね」

 私がマジマジとみているものだから、毒の心配をしていると思われたのかそう言われる。

 おいしいお茶を御馳走になり、私達は食堂にむかったけど。




 私は夕方当然、医務室にお邪魔しました。

 リオンは女子生徒をサクサクと帰していく。

「レーナ様、おそらくもう一度訪問されるのではないかと思っておりました」

 私を見つけるとリオンはそう言って医務室に招き入れた。


「どうしてここにいるんですの? 魔法省に残るようにと伝えたはずです」

「ご心配なく、今も魔法省の所属です」

 リオンは昼とは違うハーブティーをゆったりとした動作で準備する。

「ならなぜここに?」

「とりあえず、これでも飲んで少し落ち着いてください。私が貴方に逆らえないのは貴方自身わかっているでしょう?」

 リオンに椅子を引かれれば習慣で着席してしまう。

 お茶だけでなく、先ほどは提供されなかった一口サイズのシンプルな焼き菓子が置かれる。


 とりあえずお茶に口をつけ、一口サイズの焼き菓子を行儀が悪いといわれそうだけれど指でつまみ口のなかにポンっと丸ごと放り込む。

「いろいろありまして、では御納得いただけませんよね?」

「もちろんです、このお茶菓子おいしいのでもう一つください」

「それはよかったです、焼いてみたかいがありました」

「お手製なの?」

「えぇ、分量をきちんと計測し温度管理をして仕上げるというのでは薬師の得意分野ですから。気にいっていただけてよかったです」

 リオン……お前、お料理男子だったのか。

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