第13話 三つ巴

 戦闘実習に向けた授業にこそ出席しないけれど。

 後は比較的今まで通り、そう今まで通りだった。



 アンナとミリーの鉄壁のガードに囲まれて、リジェットやマルローネ先生といった会いたくない人とは会うことなく。

 かといって、恋愛的な進展があったらどうしようなんて思っていたビリーとも全く会うことはなく!



 あれ? っと思いつつも平和な時間を過ごしていた。



 まぁ、ちょっとした変化といえば。

 私が戦闘実習に向けた授業に出席してないことに対して、当然のことなんだろうけれどお父様に学園側から連絡が行ったくらい……

 前回のように、すぐにお父様に連絡をとる魔道具が使われて話をされるのかと思ったのだけれど。

 王立魔法学園で教会の関係者が暗躍した緊急時とは違い、これは手紙でのやりとりで済ませることとなった。

 どうやら電話のように都合よく話せるものは、簡単に使用できないもののようだ。



 お父様からちゃんと出るようにと言われたら、流石にどうしようと思っていたけれど。

 そもそもな話、私が魔力がないことは周知の事実であり。

 それこそ私を過保護に保護して甘やかし、ジークを娘が嫁げなかったとき用の保険としてわかってるよね? って圧を掛けた父だけあって。



『魔力を持つ者が王立魔法学園に行くことは義務だから、もちろん快く応じるが娘が危険だと判断したことを無理強いする理由はない』と。

 実に過保護なお父様らしい対応をされたことにほっとした。



「意外と大丈夫なもんだね」

 そんな私の現状に、シオンがへぇ~と言わんばかりの顔をしてそういった。

 放課後になると社交室にとりあえず集まって、ダラダラするのが皆の日課のようになっていた。


 アンナとミリーがレーナ様の威厳に関わるからとこだわられた部屋はおしゃれで

居心地がいい。



 基本私、アンナ、ミリーの家から毎日日替わりで用意されるお茶と御茶菓子に、集まるのならばとフォルトやジーク、それに一応名前だけということだったのにエドガーも放課後集まっていることを聞きつけたのか、定期的に差し入れと顔出しに現れた。



 実際私たちが何をしているのかというと。

 私、アンナ、ミリーにシオンも加わりお菓子の品評会をしている傍ら。

 私たちお勧めの恋愛小説をフォルトが真剣に読む横で、ジーク様がアンバーのかき氷で薔薇の形の氷を作った経験があったせいか。

 部屋の冷房もかねて、毎回無駄にこった氷細工が作られている。わりと凝り性のようで、いつか展覧会開けるのでは? という氷の像が日替わりで作られていたり。



 一科目参加しないことを決定した私の退学防止のために、小テストの対策の日があったり。

 社交室は本来の目的は一切合切全く果たせてはいないけれど、なかなか充実した場所となっていた。


 その日も、エドガーが顔を出しがてら差し入れを持ってきてきてくれた。

 砂糖や蜂蜜を使用した甘味はこの部屋に来ればいつだって食べることができるのだけれど。

 エドガーの家柄的には、この頻度をおやつでは厳しいようで。

 エドガーが持ってくる差し入れは、我々に足りなかったしょっぱい物であることもあり私は今日は何かしら~とのんきなことを考えていた。


 授業を大々的にボイコットする私とは違い。

 風魔法のエドガーは実践面ではかなり使える属性もありなかなかに忙しそうな感じだ。

 以前聞いた魔法省に入りたいとの野望に向けて頑張っているのだと思う。



 そんなとき私はハッとした。

「エドガー様……」

「はい?」

「ジーク様……」

「なんだい?」

「フォルト……」

「どうした?」

「シオン……」

「なんなのさ?」



 攻略対象者が4人も放課後社交室で思い思いの時間を過ごしている。

 まぁ、エドガーはいつもってわけではないけれど。



 大丈夫おちついて。

 だって、教会から第二王子暗殺の命令を受けた実行犯であるシオンは、今は夏みかんのたっぷりと乗ったタルトを口に運んでいる。

 第二王子の危険となる根本的原因は、今や甘味の虜。

 攻略対象者がヒロインに協力して第二王子リジェットを守る必要はまったくない。



 昨年の一学期、教会の人間が学園に入り込み、誰を探していたかの報告が言ったか不安だから、守ってほしくて高位貴族が多い私の作った社交界に入りたかっただけのはず。


「ちょっと、人の名前読んでガン無視ってどうなのさ?」


 ビリーは不良でこういった時にヒロインに協力して第二王子を助けるようなキャラではない。

 でも、すべての攻略対象者がここにいるわけでもない。

 ほぼここにいるかな……くらいで……




「わ、私は授業に参加しておりませんが。皆さんはどなたと実習のパーティーを組まれるのでしょうか? もうある程度授業も進みましたし決まったのでは?」

 本来であれば、悪役令嬢であるレーナは全く関係ないことだけれど。

 現状ヒロインと接点があるのは、おそらくだけどエドガーのみ。

 しかも、私としては自分の安全の為に、エドガールートをガッツリと押しているんだけれど、二人の間に悲しいけれど恋の気配すらなく。

 気まずい天気の話をするようなほど、薄い縁のありさま。

 ヒロインはエドガーと恋する気あるんか!? って感じだし。

 エドガーはエドガーで魔法省に入るために頑張ります! って自身の夢に向かって頑張っている始末。



 ふっとした不安と疑問から皆にきいた回答に私は愕然とした。

「はぁ~? レーナ様が自分が怪我したら困るからって僕を教会から治癒師として引き抜いたんでしょ?」

 真っ先に不満げな顔を浮かべて答えたのはシオンだった。

「あの私たちは何も言われておりませんが、万が一授業に参加されるなら一緒にと思っておりまして……ねぇ、ミリー?」

「そうですよ、レーナさま!」

 アンナとミリーもそう答えた。



「俺もお前にした失礼を反省しているならとか言われて、パーティーに入るように言われたが……」

 フォルトもこまった顔を浮かべてそういった。

 そうだった、アンナは火魔法の使い手だけど火力がドッカン1択だからと、魔力感知の授業の際に強く強く念を押した。

 ジークも顔を曇らせて、ちらりとシオンをみると。

「私は、シオンが自分一人だけ逃げれると思うなよと……」

「ジーク様一人だけだけ楽はずるだよ!……レーナ様のある意味引きのヤバさご存じでしょ」

 シオンとフォルトだと、フォルトの話しにかなりシオンが譲る。

 フォルトとジークであれば、フォルトがジークにたいていは譲り合わせるけれど。  

 ジークとシオンだと、まさかのジークがシオンの主張に折れるという。

 じゃんけんのような法則が起こっていることに気が付いた。


 ってそんなことはいい。

 問題は6人パーティーは私が参加しなくても、一応私が復帰したとき用に組まれているってことだ。


 なら頼みのエドガーはと目をやると。


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