第2話 ただいまアンバー

 アンナ、私、ミリーの順に馬車に座る。その向かいには、フォルトとシオンが座った。

「フォルト様はてっきり学園に残られるものかと思っておりました」

 アンナがそう切り出す。

「父も母もあのような事件が学園になったことを心配していたから、学園に残るつもりだったがかえることにしたんだ」

 淡々と答えられる。

「シオン様はやはり公爵様には事件のことを?」

 ミリーがおずおずとシオンにそう質問した。

「んー、事件の報告もそうですが僕はもう教会の神官じゃないので新しい後見人が必要ってことでお話を聞きに来るようにいわれて、ちょうどフォルト様が帰る馬車に一緒に乗せてもらっていたのですが、車輪が壊れちゃって困ってたんですよレーナ様の馬車がちょうど同じ街にいるだなんてラッキーでした~」

 アンナとミリーとフォルトがいる手前なのかシオンは丁寧な話し方でそういった。



 まったくこっちはアンラッキーである。

 はぁ、楽しい夏休みになりますようにとラッキーペンダントに祈りをささげる。


 シオンはアンバー領に行くのは初めてらしく領内に入ってからはそわそわと馬車の窓を気にしている。会話に入ってくるけれど明らかに上の空。なのに皆それをツッコミなどしない。




「そろそろだな」

 フォルトが突然そういった。

「そうですわね、ミリー窓をあけて差し上げて」

 アンナがそういう。

「第一印象が大事ですものね」

 ミリーはそういってクスッと笑うと馬車の小窓を開ける。




 私が小窓を見ていたのに気付いたミリーが私と場所を変わってくれたので、私もシオンと一緒に小窓から外の様子をのぞいた。

 開けた窓からは潮の匂いがした。

「潮の匂い……」

 思わず私はそうつぶやく。

「この香りをかぐと帰ってきたと感じますね」

 ミリーは柔らかな顔で微笑んだ、その目には少しだけ涙がにじむ。

 アンナとフォルトも帰ってきたことを確かめるかのように目を閉じ潮の香りを吸い込んでいた。

 普段私にとてもよくしてくれて、気遣ってくれるアンナとミリーの年相応の子供らしい姿だった。

 二人だけでなく、フォルトも13歳で家を離れ学園での寮生活をすることになったのだ。やはり、不安な気持ちや親元に帰りたいと考えた日も当然あったのだろう。よかった帰る決断してと思えた。


 私は二人は友達と思っているが、ゲームではレーナが学園に残ると当然二人も残っていた。二人の帰省するかの選択権は二人にはなくおそらくレーナにあったんだと思う。

 常時私をサポートしてくれるし、おそらくだけれど、同じ領出身ということもあり、二人にはレーナのご学友としての使命があるのかもしれない、私には言わないだろうけれど、ある程度は察してあげれるようにしなければ……。





 林を抜けると海が現れた。

 ただ、想像していた海と違った。

 白い美しい砂浜がどこまでも続き、透き通る美しい海と、海外の観光地のような美しい白い砂浜と美しい海が続く海岸線がそこに広がっていたのだ。


「凄い!」

 シオンはすっかり丁寧な言葉づかいはふっとんで素の言葉が出ているし、窓から身をのりださんばかりに外を眺めだした。

「シオンたら、そんなにはしゃがなくても」

 一応ここ出身の設定のためシオンを嗜めたけれど私はこの美しい景色にものすごく動揺していた。




 どこまでも続く白く美しい砂浜、先に見える建物は、すべて壁は白色、屋根は濃い青に統一されていて景観すべてが美しい。本当に、ただ美しいとしか言えない。

 観光客らしい人々が海岸を歩く。彼らは普段よりおしゃれしているのかもしれない。


 私は今日初めて知った。アンバー領、しかも私の家があるエリアは屈指の観光地であることを。






 ここが私の家……馬車から下ろされたのだからここで間違いがないのだけれど。

でかい広い、ここはホテルではないのかというほどである。

 防犯上家の周りは高い塀にかこまれているが、中に入ると2階建の大きな建物にバリ風のインテリアの玄関……いえ、この場合はエントランスといったほうがしっくりくるわね。

「おかえりなさいませお嬢様」

 執事がそういって頭をさげると。次々とメイド達がおかえりなさいませお嬢様と頭を下げていく。

 なんだこれ……。

 これは旅行でホテルをとったけれどついてみたら想像していたよりもずっと高そうなところなんだけれど状態である。

 子供部屋は2階かなと思ったら案内されたのは1階であった。


 両開きの扉をメイドが一人ずつもち観音開きで開かれた。

 視界に一番最初に飛び込んできたのは、吹き抜けの広いリビングの2階ぶち抜きの大きな大きな窓だった。

 窓からは噴水のある庭が見えるし、手入れのよくされた芝生のずっと先にはまさかの美しい砂浜と美しい海が広がっている。

 部屋が広い、というか豪華さが寮の比じゃない。


 バリ風のセンスのいい家具がリビングには配置されており大きな窓から景色を眺めながらくつろげるようになっている。

 窓の外はテラスになっていてビーチパラソルの下には白色の机と横になれるような椅子がある。

 な……なんじゃこりゃぁぁああ。

「御帰りなさいませ、お嬢さま。御飲み物をお持ちいたしますね。どちらにお持ちいたしましょうか?」

「外で海を見ながらいただきます」

「かしこまりました」

 大きな窓が開けられ、外で飲む準備整えられていく。


 ちょっとまって、部屋はいったいいくつあるの? あっ、部屋の中に2階に続く螺旋階段があるじゃない……嘘でしょう。

 麦わら帽子を私はようやく脱げば、私の手からメイドはすかさず受け取る。

 ゆっくりと、外のテラスに向けて歩く。この窓から見える景色は私のためだけのものだとすると計り知れない贅沢である。


 高そうなグラスに入れられたトロピカル的な飲み物をいただく。少しぬるいのが残念だけれど他はパーフェクトである。

 美しい、素敵過ぎる、女の子の夢のすべてがこの部屋につまっていた。


 この部屋でパーティー開けるんじゃないだろうか。簡易キッチンはもちろんのこと、部屋の隅にはバーカウンター。リビングの約1/3は窓側が吹き抜けとなっており、上にはテレビでみたことがある、クルクルと空気を循環してくれるらしいプロペラが回る。



 部屋の中を探索したくてたまらない気持をグッと抑える、私はこの部屋の主で、レーナにとってはこの部屋はごく当り前なのだ。

「お嬢さま嬉しそうですね」

 ニマニマしていたのがばれた。

「えぇ」

 ボロが出ないように短くかえす。

「御帰りなさいませ。メイド一同もお嬢さまの御帰りをとても楽しみにしておりました。学園での疲れを取れますようフォローさせていただきますね」

「クリスティー、ありがとう」

 メイドの胸にはクリスティーと書かれた名札が付いていた。メイドの数が多いのだろう、ありがとう名前書いてあって。

「もったいないお言葉。着替えのご準備をいたしますので、しばしおくつろぎくださいませ」

 そういって、メイドが下がる。


 なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ。

 レーナの部屋どうなってるの、毎日がこうだったの?

 お姫様、そうお姫様じゃないのこれじゃ……。

 もう、すでに学園に帰りたくないと思う自分がいた。





 衣装を替えしばらくくつろいでいると、夕食の準備ができたと呼ばれた。父と母に会うのにはさすがにドキドキした。中身が違うのだからボロがでたらどうしようとかいろいろ頭の中がいっぱいだったけれど。

 夕食のテーブルには、シオンとフォルトとおそらくフォルトのご両親も座っていた。皆で帰宅を祝うのかしら?

 乾杯の挨拶がされテーブルに料理が運ばれてくる。


 学園での生活のことや今回の事件のことが話された。

 父と母は私が結果、危ない目にあってしまったことを深く謝罪してきて私はそれを受け入れた。事件のこともあったせいか、私がよそよそしいのもうまい具合にスルーされた。


 そして、一番最後に父がこう言ったのだ。

「それでは、この食事会を持ってシオンをフォルトの弟として養子縁組して迎え入れる」

 ちょっと待った!! どういうこと。

 シオンは立ち上がり頭を下げる。



 そして、後は子供たちと大人たちでと別れたのだ。

 シオンのほうを見る。ニコッとほほ笑まれる。

「どういうことですの?」

 シオンを問い詰める。

「どういうことって、レーナも承諾したんだろう」

 フォルトがあきれ顔でそういう。

 お前が了承したことで、シオンが弟になったんだけど俺、状態のフォルトが私を怪訝な顔で見つめた。私が承諾したせいで義理の弟になったとするなら私のせいなんだけれど、まって私も今初めて義理の弟になることを聞いたから状況が整理できていない。

「養子縁組だなんて今初めて聞きましたわ。私は承諾してないと思うのですが?」

「ヤダなぁ~レーナ様忘れちゃったんですか。ほらサマーパーティーの時レーナ様から約束してくれたじゃないですか」

 えっ、僕ちゃんとお話ししましたよという顔してやがる。






 サマーパーティー? と言われたのでシオンとの会話を私は思い返す。

『シオン…あの、私にできることなら、そのなんでも言って』







『ありがとうレーナ様、その言葉絶対忘れないでね』







 あれかぁぁぁぁああああ!!!

 計ったなコイツ。


 悪い笑顔を浮かべているし、フォルトはあきれ顔である。

「よろしくね、義兄さん。そして、レーナ様とはこれからは血のつながりは有りませんが。僕もとなりましたので改めてよろしくお願いしますね」

シオンがとっても悪い顔で笑った








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