第7話 スライムのせいだ
リジェットが私の派閥を諦めないとしても。
私を誰だと思っているのかだ。
学園内で知り合いがほぼいない、鉄壁のガードをされている公爵令嬢だ。
私が会わないと一度決めれば最後。
実に違和感なく、私の学園生活はリジェット抜きで淡々と過ぎていくのだ。
もう、この過保護が嫌で嫌で、私の過保護が手薄な間に街に降りてバイトとかしてみてつかの間の自由を謳歌したこともあったけれど。
今はこの過保護が本当にありがたいわと隣にいるアンナとミリーに微笑んでしまう。
この鉄壁をやぶれるものならやぶってみなさい。
ホホホと笑いがでてくる。
婚活は前途多難なままだけど……
授業は順調。
このままなら今回も無事赤点は回避できるわね。
何よりかにより、モンスターを倒す戦闘実習は皆のおかげで安泰ね!
自分一人だけ何もせずおんぶに抱っこではずかしくないの? とかはちっとも思わない。
私の中身は青くないから。
こういうのは苦労する必要なし。楽してなんぼよ!
いつも通り、アンナとミリーを従えてクラス移動をして、授業始まるまでの時間をアンナとミリーとイケメンのことを話していたときだった。
「あら、マルローネ先生がこちらに。どうかされたのかしら?」
ふっと異変に気が付いたアンナがそういった。
「ずいぶんと険しい顔をされていますね」
ミリーもいつもと違うマルローネ先生の様子に首をひねる。
マルローネ先生はストレートな黒髪に菫色の瞳で小柄なのに、芯の強そうでなんでもてきぱきと決めそうな印象の先生なのだけれど。
その先生がなんだかただならぬ雰囲気でこちらへと向かってきている。
あらあら、授業開始前から先生を怒らせた生徒がいるのかしら。
全く誰かしらと私は後ろを振り返る。
私たちの後ろにいた生徒も、先生の様子に何事と着目していた。
そんなとき私のところに影が落ちた。
え?
「レーナ様、少しよろしいでしょうか?」
私? なんで?
確かに成績的に落ちこぼれ予備軍だけれど、まだ実習は始まっていないのに。
あっ、お父様が危ないからこの授業は的な?
でも、王立魔法学園は貴族の義務で、入学した以上はこういう特別扱いはありえなのでは?
「いかがいたしましたか?」
「少し場所を変えて少し話を……」
そう言われてしまうと、私は先生に従うしかない。
アンナとミリーが不安げに私を見つめる。
授業免除とかだろうかと考えている私に投げかけられた言葉はそれとは真逆なことだった。
「レーナ様は嘘をつかれておりますね」
「嘘、ですか?」
先生から言われた突拍子もないことに、思わず何が? と頭の中に?が沢山浮かんでしまう。
「あなたは魔物の討伐経験がある。それも、相当な数の討伐経験が……」
「どなたかと勘違いされているのでは?」
「魔物との戦闘の授業は危険です。ですが、魔物の討伐を学ぶことは貴族の世界の義務でもあり、避けて通ることはできません」
マルローネ先生の口調は真剣で、同時に過保護な人に囲まれた私も、この授業が避けて通れるものではないということがわかる。
なら、なぜ私は呼び出されたのかだ。
「生徒の中には、時折見栄を張り魔物討伐の経験などないにも関わらず。魔物を討伐したことがあると言う者が毎年必ず出ます。魔物の討伐は危険で未経験者だけでパーティーを組むことがないよう、戦闘に向かない魔法の使い手ばかりが固まらないように、教師として最低限の安全を守るための配慮しております」
「はぁ……」
「経験のないものが『ある』ということは、例年あり。こちらも貴族の生徒に恥をかかせないためにも、それを追求せず班分けで安全を守るようにしております」
どうやら、何らかの手段で魔物を討伐したことがないのに、討伐したと嘘をついた生徒が混じると危険なので。討伐の有無の真実に基づき班分けに介入していることがわかったけれど。
「見栄を張る生徒はいても、自身を過小評価しこのクラスに来たレーナ様の理由を私は教師として知る義務があるのです」
て、待って。
私が呼び出されたのはなら、間違いではなく。
先生は何らかの手段で生徒がどの程度魔物を倒したことがあるかを、知る術をもっていて。その結果私が魔物を討伐しているから呼び出した?
「私は緑の魔法の使い手ですよ。何かの間違いでは?」
「間違っておりません。レーナ様は30体以上の魔物を討伐されてますよね? 緑の魔法は本来なら非戦闘職。魔法の属性が変わる例外はなく、となると、レーナ様は戦闘に向かない緑の魔法の使い手でありながら魔物を多く討伐したことになります。どうしてその才能を隠すんですか!」
ガシッと両肩を掴まれて私はビクッと驚いた。
「緑の魔法、緑の魔法で32体ですよ。ありえない。ありえないわ。どうしてあなたが自身の実力を隠しているかは聞きませんが。才能が埋もれることだけはあってはいけないと思っています。あなたのいるべきクラスはここではありません」
「何かの間違いです!」
私は自分で言うのもだけどポンコツだ、魔物の討伐なんて全く心当たりも…………
そのとき思い出したのは、スライムのことだった。
自身の魔法では太刀打ちできない私は、金の力に物を言わせ巨大な熱石を振り回し大暴れした。
そう、大暴れしてスライムを―――――――倒してる!?
「大丈夫です。誰にでも才能があるものです。私がレーナ様にふさわしいクラスに案内しますからね」
「マルローネ先生話をきいてください、確かに心当たりはあったのですが。あれは私の実力で倒したのではありません」
「謙遜をする必要はないのです。令嬢が強いことは恥でもなんでもなく、家名にとって最大の栄誉です」
「いや、本当に誤解が。話せばなぜ私が先生のクラスだったか理解していただけます。私頭もよろしくありませんし、頭脳でカバーとかもできないので無理です無理なんです」
私の訴えはむなしく、先生は身体強化しているようで。ずんずんと私を引っ張って行ってしまうし。
身体強化などできない私は、そんなことされたら腕がいたくなるから踏ん張りきれずついていくしかない。
あっという間に引きずられて、私たちが先ほど待機していたクラスとは別の教室へと連れてこられる。
「先生、私は望んでおりません。お願いですから止まってください」
「レーナ様はいつか私に感謝する日がくるでしょう」
「そんな日絶対にきません!!!」
そんな私の訴えは無視され、扉が開けられ大きな声でこう言われたのだ。
「オリバー先生、彼女もこちらのクラスです」
マルローネ先生とちがって、屈強そうながっちりとした体形のゲームではおなじみの実践授業担当のオリバー先生がそこにいて。
マルローネ先生に手を無理やり引かれる形で授業に遅れて登場した私に、教室の視線が集まると同時に。
「はぁ?」
っとお前何してんのと言わんばかりの声を上げたシオンと目があった。
ジークは完全に目が点で。フォルトはおろおろしていて。
エドガーとマリアはレーナ様だ~と言わんばかりに小さく手を振ってきた。
私の顔から血が引いた。
ここは、ゲームならおなじみのヒロインもいる、ようはできるクラスではありませんか。
これは、私死ぬわよ……
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