第31話 0×0
「もう!」
思わず肩に乗せられたフォルトの手をはらいのける。
いや、確かに怒られるようなことはしてきたんだけれど、ジークを騙してマージンを取るとかは流石にやらないわよ。
言いたいことからすっかり話がずれてしまったじゃない。
シオン今度あったら見てなさいよとシオンにちょっと黒い気持ちがわいたけれど、今はそういう場合じゃない。
私は学園都市にて、ゲームでヒロインが能力値を底上げするための装飾品を、金の力に物を言わせて性能がいいものをアンナとミリーと共にごっそり買いあさったのだ。
購入したアクセサリーは、学園に置いておかれることなく、私が気まぐれでつけたいわ~と思った時につけれるようにと、ちゃんとアンバーの私の自宅にあるの。
「このネックレスは魔力量を増やし、魔力防御も高めるだけではなく運をも底上げする優れものなのです」
「……こ、れが?」
ジークが少し間を置いて、しげしげと私の胸元に下がっているネックレスを見つめる。
フォルトも口には出さないけれど、明らかにこれが……と言わんばかりに私のネックレスを見つめた。
否定的なことは言われていないけれど、わかる。……二人はこのネックレスの効果を信じていない。
「……あの、効果を疑ってない?」
思わずストレートで思ったことをぶつける。
そうすると、ジークとフォルトはお互い顔を見合わせる。
「疑っていないよ……なぁ」
フォルトが、ジークにそういう。
「あぁ、もちろん疑っていないよ。効果を知っているということは、それを鑑定した魔道具があるだろう。一度私のピアスも鑑定してその鑑定結果をみてから考えることにして。とりあえず、今はリオンを捕まえよう。レーナの言っていることが本当だとしても、装飾品で能力値は上げることはできても、技能はフォルト自身が身に着けるしかないからね」
ジークの右耳のピアスが彼の動きに合わせて揺れた。その口ぶりだと、ジークのピアスも何らかの効果を持つ装飾品というわけで。
自分のピアスを鑑定すれば結果がでて、それが正しい効果なら初めて私が持っている装飾品の効果を信じるというところのようね。
ただ、底上げすごくできるんじゃないかと思ったけれど、能力を上げるだけではやはりだめなのね。
「リオンを探してくる」
フォルトは私たちにそういうと、屋敷のどこかにいるリオンを探しに、身体強化して走って行ってしまった。
砂浜に残された私とジーク。
思わず私は、ジークにこういってしまう。
「本物ですからね……たぶん」
「自分で発言して、すごく矛盾がある文だと思わないのかい? まぁ、君の装飾品の効果が本物かどうかは今はさしたる問題だ」
「私が持っているものはこれだけではありません。それなりの量を、アンナ、ミリーと共に保有しております。指輪などサイズ的につけることが不可能なものはあるかもしれませんが……それなりの数を付ければかなりの違いになるはずです」
まったく全然信じないんだからと少し怒って私はジークのほうを向いて少しきつめの口調でそういった。
その時、サーッと風が吹いて私の髪がたなびいた。
「……今のままだとフォルトは絶対に負ける」
勝算が1%に満たないとしても、あきらめるなと言ったその口で、ジークははっきりとそう言ったのだ。
ん?
「先ほどのフォルトを説得したお話とジーク様こそ矛盾しておりませんか?」
「フォルトにあきらめず領主戦を受けさせること。それが君の望みだったはずだ。だから、私はフォルトを奮い立たせるように交渉をうまく行っただけにすぎない。もちろん、私自身フォルトに勝ってほしいし、あきらめてほしくない思いはある。
――――ただ、0にいくら大きな数字を掛けたところで、0は0であることはかわらない」
私はあまりのことにポカーンと口を開けてしまった。
「フォルトは、ジーク様やリオンとシオンに教えを乞うても勝てない。それがジーク様の見解ですか?」
「あぁ、そうだよ。『悔しかったらフォルトを勝たせて見せろ』と公爵様も言っていただろう? これは、フォルトを奮い立たせて、君や周りの者がフォルトを勝たせる手を考えられるかの戦いなんだよ。わずかな能力値の底上げでひっくり返せるほど甘い相手ではない」
これじゃ、フォルトだけが前向きな気持ちになっただけで、あくまで置かれている状況は絶望的なままじゃない。
「フォルトを勝たせる方法は実は全くないわけじゃない」
「そんな勿体つけずに方法があるなら言えばいいでしょう」
「ただ、現状実行することが不可能。どうすればできるか私にも見当も検討がつかない。もしできたとしても、領主戦で披露するにはリスクが大きすぎる」
真剣な顔で考察ポーズをしてジークはそう答える。
「あーもう、どうして時間がない時にも、そういうまどろっこし話し方をなさるんですか!? ほら、はい、私の頭にもわかりやすくスパーンと言ってくださいませ」
「――君の中に入っている魔剣を取り出してフォルトにやればいいのさ」
「私の中の魔剣って死蔵しているのでは?」
「そうだね。本当に宝の持ち腐れだと思うよ。魔子に魔剣が有効だと知っていた私は、秘密の部屋で調べたんだよ。君から魔剣を取り出す方法を……」
「あったんですか!」
「残念ながらそんな方法が書かれた書物はなかったよ。魔剣自体数があるものではない。そもそも本来魔剣の主である器にすらなることができない人物が魔剣を保有している例自体なかったんだろうね。本来であれば君が魔剣を手に入れる機会などくるはずもなかったんだ」
魔剣……確かに魔剣の戦況をひっくり返すすごさをこの目で見た。
魔剣での戦いになれていないだろうグスタフでさえ、ジークを何度も傷つけることで、圧倒的な魔力量があるジークがあの短時間で動けなくなったし。
魔剣の主であるリオンに至っては、その戦闘は圧巻だった。
ほんの少し刃先が肌をかすめるだけで、魔力を吸う魔剣は戦いにおいて絶大な効果を発揮することだろう。
圧倒的な差があったとしても、ほんの少し肌をかすめるだけでいいフォルトと、フォルトの動きを止めようとするラスティーでは目的を達成するための難易度が各段位変わる。
「待ってください、私の中の魔剣が出せないとしても、魔剣ならリオンが……」
「魔剣を貸すのはお勧めしないね。フォルトが魔剣の所有者ということになれば、たとえそれが借り物の魔剣だなんて他の人は知る由もないし、技量が未熟なフォルトから魔剣を奪おうと考えるものが出てくるだろう。身の安全を守るためにもフォルトは魔剣をリオンに返せなくなるだろうね」
リオンから魔剣を借りて、領主戦を挑むことをジークは強く反対してきた。
「かといって、リオンは貸した魔剣が戻ってこなければ……恨みを買った連中もいるだろうし。何より、魔剣をフォルトに渡したことを知れば、魔剣がなく脅威ではなくなったリオンが誰かによって、どう処分されるか……君はリオンが欠けることも仕方ないと割り切れないだろう?」
ジークの言っていることはもっともだ。
だけど、彼は大きな勘違いをしている。
そうだ、あの時ジークは魔子を退治した後倒れてしまって知らないのだ。
リオンの中に眠るもう1本の魔剣の存在を……
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