第30話 1年前の謎
胸をトンっとジークに小突かれて、フォルトの表情が少し間をおいてから明らかに変わった。
「あぁ、どんな手を使っても勝てるように足掻く。悪かった」
フォルトはそういうと、先ほど掴み上げたジークの胸倉を手でそっとトンっと触れた。
「悪いと思うなら、今回も勝っていずれ領主になってくれ。隣接する領のトップが友人だとやりやすいからね。今回の借りは、いつかもっと大きなことで返してもらう」
二人のそんな様子を見て私はほっと思わず胸に手を当てたときに、ラッキーネックレス様に触れたのだ。
「あーーーーーーー!!!」
「「!!?」」
私の突然上げた大きな声に、二人がビクッと肩を震わせ何事かと私を見つめたり、何かあったのかと辺りを見渡しだす。
「これ! これ!」
見て頂戴と私は胸元にいつも下がっているネックレスを掴み二人に見せつけた。
フォルトは困った顔で首を傾げ、ジークは小さなため息をついた後私をたしなめるような口調でこう言った。
「レーナ。突然の奇行はやめよう。優しいフォルトですら、処理に困っている。で? そのいつもつけているネックレスがどうかしたかい?」
「ラッキーネックレスです」
「そのネックレスはオルフェの森で土砂崩れの調査をしていた時に一度借りたやつだよな? ……確か、学園都市でレーナが騙されてずいぶんとぼられたとかいう」
「あぁ、そういえば『運気が上がるとか言われて、学園都市でぼられたやつだよ』とシオンが以前言っていたね」
ちょっと、ちょっと、ちょっと!? シオンの何気なくいったことの影響力半端ない。
その騙されて買ったやつがどうしたの? 状態になっちゃってる!
「何度か言っておりますが騙されていませんから。これは普通のアクセサリーではなく、能力を向上させる付与がされた王立魔法学園のOBの方が作られたちゃんとしたものなんです。ジーク様も同じ店で買われたことがあるでしょう?」
あの時のジークが買ったものをきちんと鑑定に出していれば、おそらく何らかの効果が付与されていることがわかったはず、そうでしょう? とジークを私は見つめたのだけれど。
いつもの愛想笑いの状態で、口元に手をやると少し考えこまれる。
「……えーっと、いつのことだったかは思い出したよ。確か君と秘密の部屋で出会って、君の剣になると約束した後だったね」
「そうです、そうです! あの時、確か指輪を買われてましたよね」
「あぁ、何か買ったね」
何か……この辺りで嫌な予感がする。
「なに……か?」
「学園都市に限らず、……大きな都市ではわりとよくあるトラブルの一つなんだけれど。装飾品や絵画、骨とう品のある店にお金がある程度持ってそうな人物を連れて行き、商品を買わせてマージンをもらうというのがあってね」
いつもより柔らかな口調でジークがそう話し出す。
私はその話をきいて、某オタクの街の駅前にいたといわれるエウリアンを思い出した。
「学園のどこかにある秘密の部屋には、表に出せない数々の書物があると言われていてね。実は私の父も在学中探していたそうなんだが、見つけられず。息子である私が学園に入学する際に、魔子を何とかするために、おとぎ話のような噂を託してきたんだ。だから、私は入学してから、秘密の部屋を必死に探していたんだが手掛かりはちっとも得られなくてね」
ちらり、ちらりと私の表情を見ながらジークは話を続ける。
いつも饒舌なジークにしては、言葉を選んでいるようだ。
「そこに、変装していた君が、私の目の前で本当に秘密の部屋に入って見せた。秘密の部屋に最初一緒に転移した時は本当に驚いた。そして、なんとかして私も秘密の部屋への入り方を聞き出さねばと、顔には出さないだけで思っていてね……」
そこでジークが口ごもった。
「思っていて?」
私はジークに続きを話すように促す。
「君の剣になると約束して、その後ついてきてと連れて行かれた先は装飾品店。そして、庶民にしては値の張る商品をポンっと君が目の前で2つ買ってみせた。てっきり店とグルになって私をカモとして連れてきたのかなと思ってね。君の機嫌を損ねて秘密の部屋への入り方を教えてもらえなくなることに比べたら、目の前にあるものは、私にしては大した値の物ではなかったから、それで君が満足するならと買っただけだったんだ」
私、ジーク相手に詐欺をはたらこうとしていたと思われていたのアレ……
秘密の部屋から出た後、教会とやりあうための準備をするのに誘った時にすんなりついてきたのも、品物も私に勧められて買ったのも、その後もきちんと調査をするために動いてくれたのも全部全部、秘密の部屋の入り方を私に教えてもらうために機嫌を損ねないようにする行為に繋がっていたわけね……
魔子がいて、ジークがどれだけ、魔子を何とかするために動いていたかを知った今。
あの時、なぜジークがあっさり私と約束をして、その約束を律義に守ったのかが、ようやく理解した。
ジークはなんとしてでも、秘密の部屋への入出方法を知らなければならなかった。
だから、秘密の部屋への入り方を教えてもらうまでは、部屋への出入りの仕方を知っていた私を無碍にはできなかった。
だから、王子暗殺などぶっとんだと思われるようなことを言っても、ジークは私の意見を尊重し、装飾品も勧められたから機嫌を損ねるよりかはと買ったというわけだ。
そして、ジークはグスタフとやりあって分が悪くても、私が攫われればせっかく見つけた秘密の部屋への出入り方法を知る人物がいなくなる。
クライスト領の魔子問題があったから、退くに退けなかったんだ。
「あ~なるほど」
私のずっと疑問に思っていたことが、今日ついに解けた。
マージンもらう詐欺に引っ掛けようとした人だと思われていた期間があったことは、もやもやするけれど。
ずっと、なぜあったばかりの人物の約束を反故にしなかったのか、なぜあそこまで体を張ったのかの謎がきれいさっぱりと解けた。
「レーナ嬢、あまりプライベートのことにとやかく言われたくないだろうが。酒を出すような店で働いたり、魔物のいる地下水路の清掃をしたり、怪しいアルバイトは頼むからもう……」
フォルトが心底心配した表情で私の肩に手を置いた。
あっ、こっちはこっちで違う件のせいで私にあらぬ誤解してるやんけ!?
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