第9話 わかりあえない
ジークの冷ややかな目線を何とかするべく、いろいろと言い訳を並べてみる。
でも、私が口にしてしまったエロ本という言葉は重かった。
挽回しようとするもむなしく、外商が来て話しは打ち切られてしまう……
間違いなく言えることは、ジークはおそらくもうベッドの下や私が探しそうな場所には二度と、みられて困るようなものは隠さないだろうということだけだ。
適当に当分必要そうな物を手に入れてほっとする。
8階の窓からみるアンバーの景色もやっぱり美しかった。
高さ制限があるのか、ジークのホテルは海からは少し離れているけれど、遠くから眺める海もわるくはないわね。
何よりかにより、ジークが部屋にいることで、部屋が涼しい。
アンバーの暖かさはアンバーの魅力ではあるけれど、クーラーがない世界はつらいものがある。
昨年の夏もジークが私の部屋に居座ってからはすっかりジークはクーラーとして大活躍だったなぁと思いだす。
私がこの世界にきて、もう1年がたとうとしていた。
ゲームで知っていたことを回避して、平穏にと言う思いはどこへやら、私は次々厄介事に巻き込まれてきた。
ゲームのシナリオとは全く違う事態だ。
婚約を解消したことで起こった厄介事は、どう鎮静化していいかわからない。
それにしても、フォルトがいつもだったら、そんなに間を開けずに私の様子を見に来てくれただろうに……それがないのも気になる。
「ジーク様。唐突ですが、紙とペンをかしていただけませんか?」
「かまわないよ」
ジークはそういうと、テーブルに紙とペンを持ってきてくれた。
紙にサラサラとデフォルメしたキャラクターを書いていく。
今回に関係ありそうな人物は、とりあえずフォルト、そしてさっきあった兄弟のどっちか、それと会ってないほう。
私と婚約を解消したジーク。
私が盟約をしたリオンとシオン……
「うまいものだな」
私がサラサラっと書いた似顔絵にジークが関心といった声をあげる。
「ジーク様、もし気がついたことがあったらおっしゃってください」
「これは推測ですが、跡目争いといっても、序列のようなものがあるのではないでしょうか。なんていうか、王位継承権第一位みたいな」
「うーん、はっきりとしたものはないだろうけれど。実力に関しては、今自分が跡目争いをしてるなかで何番目かはわかるだろうね……」
私の部屋に訪問してきたほうは、少なくとも学園に今在籍している生徒ではない。
理由は簡単だ、態度はかなり高圧的であったけれど、私とフォルトと血縁関係にあるだけあって、顔が整っていたから。
学園にいるイケメンは、もれなく1度は私とアンナとミリーのお茶会でお話がでるはずなのだ。
その話題がちっとも出てこないということは、学園をすでに卒業した年齢であると考えるほうが自然。
私が直系にも関わらず領主教育がされないのは私の魔力が著しく弱いから。
これでは、何かあったときに領主として魔力をつかった戦闘ができないのは致命的だ。
だから、フォルト以外の二人も、一定以上の魔力があったから領主候補として選ばれたのだと思う。
去年の春ジークがグスタフとやり合った際、ジークは本来の実力がほとんど出し切れていなかった。
それくらい、1年生と6年生では全然実力が違う。
「私と同い年で有るフォルトはおそらく二人の兄弟に比べて年齢がかなり若いから、当然今の段階では魔力量や魔力の扱い方などすべてにおいて二人に劣っていた」
「レーナの推理通りだと思うよ。跡目争いは、実際のところフォルトの跡取り候補は名ばかりで、他の候補者達に比べて年齢も随分と離れていたこともあって。これまではすべてが彼らよりフォルトは劣っていた。だから、これまでは、兄弟どっちが跡を継ぐことになるかでもめても、フォルトは格下ゆえに眼中になかった」
ジークはそういって私からペンを奪う。
そして私とジークのイラストが並ぶ間に一本の線を引いた。
「でも、レーナと私は婚約を解消してしまったから、その絶対的な序列のパワーバランスが崩れてしまった。レーナというゲームを一瞬で台無しにしてしまうかのような切り札ができてしまったんだ」
シオンとも話したけれど、原因はやっぱりそこだ。
「序列的にまったくライバル視されていなかったフォルトだったけれど。私の婚約者候補としては、私と年齢も同じだからこそ筆頭候補になりかねない」
「フォルトはまじめでいいやつだと思う。だが、身体強化も雷の魔法の使い手だからこその使い方があるが、フォルトはまだそれを会得できていない。魔法の使い手としては、今の実力では二人にはるかに劣るだろう。でも君を手に入れたらそれは全部チャラになるのではないかと思っているのだろうね。公式の場で、ダンスを披露することがなくてよかったよ……そうじゃなかったら、今頃リオンをどうやって止めるかの話し合いをしていただろうね」
ジークはそう言ってスラリと剣を抜いた。
「ジーク様でしたら、リオンを止めれますか?」
「無理だろうね。技量でも悔しいが今本気でやり合っても勝てる気はしない。氷での足止めという手段もあるが、手足を落としても再び生やしたりくっつけることができる回復魔法の使い手というのがタチが悪い。首でも1発で落とさない限り、君が命令を解かない限りリオンは何度でも魔力が尽きない限り、腕を生やし、足を生やし向かってくるだろうね」
ゾンビのように何度も再生して立ち上がる姿を想像してゾッとしてしまう。
「私を無理やり手篭にすれば、副産物としてこんなことになりますってプレゼンしてみたらどうかなと思うのですが……」
「君が魔力をあまり保持していないことを知らない者は身内でいないだろう。君が魔力が低いことを知っている者なら、どう考えてもリオンを君がよもや血の盟約で本当にしばっているだなんてこと信じないと思う」
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