第59話 懺悔室3
「アリエル様。ここで何を?」
エルーダ様が
「ラキシス様!」
廊下が静かなことを確認して扉を開けたのに、なんてタイミングが悪いんだろう。
まさか、エルーダ様が出て行くのまで見られてはいないよね。
「私は、ちょっとお祈りを」
そう言いながら後ろ手で扉を閉め、一歩廊下に出る。
ラキシスは構わず
「あの、もう行かなくちゃ」
なぜか機嫌の悪そうなラキシスをちょっと上目遣いに睨むと、「質問にまだ答えてもらってない」とぶっきらぼうに言われる。
答えたでしょ、お祈りしてたって。
やっぱりエルーダ様と二人きりだったのを見られた?
でもだからといって、なんでラキシスがこんなに不機嫌なの?
「ここは上位貴族専用の礼拝堂よ。ラキシス様がここにいるのは不味いんじゃない?」
「誰かさんと違って俺は認識疎外の結界を
認識疎外って何よ。
それに、この礼拝堂の中でもラキシスは魔法が無効化されないんだ。
「まさか、アリエル様はエルーダが好きなのか?」
ぐるぐる頭の中で考えているとラキシスがとんでもないことを口走った。
は?
「私が! エルーダ様を!」
好き!!
「と、とんでもない誤解よ」
ブンブンと頭を勢いよく振る。
「ふーん。じゃあ、エルーダが君を好きなのか?」
「どっちもあるわけないでしょ。私は悪役令嬢よ」
凄く真面目に聞かれて、私はモヤっとする気持ちを押さえて冷静に否定した。
「……」
なんとも気まずい空気が誰もいない礼拝堂に広がっていく。
なに?
なにか変なこと言った?
「アリエル様……あまり前世に囚われすぎるな。少なくとも俺やユーリ、周りにいる人間にとって君は悪役令嬢なんかじゃない。誰に恋をしたっていいんだぞ」
そんなのわかってる。わかってるけど……「いつ裏切られるかって怯えながら、誰かに恋をするなんて考えられないから」
ポロっと、本音が漏れてしまって私は慌てて自分の口を押えた。
「そうか……それはゲームの強制力があるかもしれないからか?」
「まあ、そうかも」
ゲームからはすでに全く違う未来になっているのはわかってる。
それでもやっぱり怖い。
「それじゃあ、バッドエンド1番の俺がことごとくシナリオを壊してやるから安心してみてろ」
ラキシスがあまりに簡単なことのように言い切るので、恋するかはともかく信じてみるのもいい気がした。
「ところで、密会をしていたわけじゃないなら、二人で何をしていたんだ?」
なんでこんなにしつこいの?
エルーダ様のことなんてどうでもよくない?
あ、そっか。エルーダ様はラキシスの双子の片割れだった。
「恋愛相談よ」
本当のことを言うまであきらめそうもなかったので、私は素直に話した。
もちろん、詳しい内容は秘密だ。
いくら前世もち仲間といっても相談してくれた恋バナを他人に漏らすのはルール違反だし。
「あはははは、恋愛相談か」
さっきまでの刺々しい空気が一気に和らんだけど、なぜか追いつめられているような気がする。
「どうやら俺は君がエルーダと2人きりになることが嫌みたいだ」
どういう意味?
今日のラキシスはどこかおかしい。
「うん、気が変わった。俺はエルーダに負けたくない」
それって、皇太子の座を争うってこと?
なんで急にそうなるの?
「たぶん、アリエル様が今考えていることはハズレだ」
少しだけ上がった口角が色っぽくて思わず見とれてしまう。
ゲームの中の勇者はどこか自信なさげだった。
でも、今のラキシスを見て不幸設定のかわいそうな忌み嫌われている双子の片割れとは誰も思わないだろう。
楽しそうな眼をして私の頬に手を添え瞳を覗き込まれると、途端にほっぺたに熱が集まってくる。
頭の隅で今すぐこの手を振りはらえと、冷静に考えているのに何だかそうしたくなかった。
「今日のところは、その反応で許してやろう。だが、気を付けてほしい。ミイラ取りがミイラにならないようにな」
「それはどういう意味?」
「エルーダを好きにはならないで欲しいってことさ」
「なんで?」
私は、自分でした質問にあたふたして「いいえ! やっぱり答えないで」とすぐに取り下げた。
「そうか。まあ、聞きたくなったらいつでも言ってくれ」
ラキシスは頬にあてていた手をゆっくりと離すと、ピンク色の髪を一房すくって唇を寄せた。
あまりに自然で優雅な仕草に見惚れてしまう。
まるで本物の王子様みたい。
イヤイヤイヤしっかりして私!
ラキシスは本物の王子様だけど私の王子様じゃなから。
「ラキシス様、キャラが変わってない?
うっかり誤解しちゃうところだった。
「こんなことするのはアリエル様にだけだよ。それより、この礼拝堂の結界はちょっとおかしいと思わないか?」
ラキシスはからかっているのか、私の髪を指でくるくるともて遊び、今まで見たことも無いような甘い顔で笑った。
それから聖女像の前まで歩いて行き興味なさげに眺める。
「貴族だけが優遇されるのは学院の平等の精神からするとおかしいけれど、平民は人間じゃないと思っているのが大多数だから仕方ないんじゃない」
首の後ろがウズウズしたけど、なんとか普通に返事できた。
「校則がおかしいとかじゃなくて、この結界そのものが変なんだ」
「魔法石が?」
ラキシスは浄化の魔法石を、左右から覗き込む。
「この礼拝堂を守るくらいは十分だと思うけど」
「そう、十分すぎるっていうか……近くで見て確信した」
「何を?」
「この魔法石は礼拝堂を守ると見せかけて、実は礼拝堂がこの魔法石を守っている」
ドヤ顔でラキシスは断言したが、いまいち違いが分からなかった。
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