第53話 密談2

 ラキシスはマリーの言葉にようやっと、私達二人がゲームの話をしているのだと気づいたようだ。


「すまないが、2日でリタイヤした。ほとんど設定は読んでない」

 やっぱり、糞ゲーだしね。


「もしかして、前世は女だったの?」

「は? 何でそうなる」

「妹のゲームをやってたとか?」

「妹はいない。何でそんなことを聞くんだ?」

「だって、男が乙女ゲームするなんて、変態の匂いがする」

 マリーの失礼発言に、ラキシスはドン引きしている。


「あれって、乙女ゲームだったのか。どおりでバトルが軟弱だと思った」

「普通絵柄で気づくでしょ」

 あ、そうでもないか、確か表紙には魔王討伐のシーンが描かれていたはず。

 全く作者は何を推したかったんだか。


「あの頃は過労死直前で、追い込まれてたからな……」

 前世の死因って過労死なんだ。

 何だか聞いちゃいけないことを告白されて、マリーも私も一瞬黙り込む。


「気にしないでくれ。こうして転生できたし、ってか君たちも同じようなもんだろ」

 まあ、確かに。

 自分の死を思い出すのは気持ちのいいものじゃない。

 場の空気が、重くなりそれを切り替えるように「で、君は?」とラキシスがマリーに質問した。


「私はチェンバロ マリアンヌ。ゲームではメインヒロインよ」

「そうなのか」

 ラキシスはマリーを頭の先からつま先まで無遠慮に眺める。

 もちろん今日もマリーは可愛い。

 私は恋が芽生える瞬間を見逃さないように、ラキシスを観察した。

 それなのに……。「何か文句でも?」とマリーは眉間に皺を寄せて、挑発的にラキシスを睨んでいる。


 それじゃあ、始まる恋も始まらないじゃない。


「いや、ない。ヒロインの名にふさわしく美人だ」

 腕組みをしたままマリーは、ラキシスの言葉に「ふふん」と鼻で笑った。

 お互い好戦的なのはなんで?


「アリィ、そんな目で見てもあり得ないから」

 マリーは私の視線に気づきちょっと頬を膨らませる。

「何がだ?」

「何でもないわ」

 どうやら、二人ともシナリオと違いお互いに興味はないらしい。


「じゃあ、もしかしてアリエル様の方が悪役令嬢……」

「そうです」

 もしかしなくても、ばっちり悪役令嬢です。


「なるほど……俺と初めて会った時はすでに前世を思い出していた?」

「いいえ、私が前世を思い出したのは11歳のときです。なので、あの時のことは映画のワンシーンのような感じで、はっきりとは覚えていません」

「そうなのか」

 ラキシスはがっかりしたように、肩を落した。

 何か、いい思い出でもあったけ?



「ラキシス様。私がお願いしたいのは一つです。万が一魔王討伐後、縁談が持ち上がっても、絶対に断って下さい」

 私の言葉にラキシスはまばたきさえ忘れているようだったけれど、これだけは絶対に言っておかなければならない。


「つまり、シナリオではアリエル様と俺は結婚するのか?」

「いいえ、違います」

 なぜかそわそわするラキシスに、私は絶対にありえないとムッとして答えてしまう。


「ラキシス様とはバッドエンドしかありません」

「そうなのか?」

「アリエルとあなたが結婚したら闇落ち腹ボテだから」

「え!? 闇落ち腹ボテ?」

 あまりの衝撃の言葉にラキシスは大声で叫ぶ。それからぐしゃぐしゃと頭をかきむしる。


「あー、監禁されて魔物を産む夢を見たんだったな」

「そうです」

 自分でも、声が固くなるのがわかった。


「でも、その夢では俺は闇落ちしていて、手には魔法封じが残っていたんだろ。もうその時点でシナリオとは違う」

 確かに、今のラキシスは私と同じで自由に魔法封じを解除できるし、会ったときにはすでにチートっぽかった。簡単に闇落ちするとは思えない……けど絶対とは言えない。



「それに闇落ちは困るけど、腹ボテはハッピーエンドでは?」

「ハッピーエンドじゃないですから!」

「そんな叫ばなくても……俺とはそんなに無しなんか?」

 ラキシスの熱い視線に、みるみる顔が赤く染まっていくのがわかる。

 何を言いだすんだこの人は!


「とにかくシナリオ回避に協力してください」

 涙目になってしまったが、ここは譲れない。


「うん、まあアリエル様のそんな顔は見たくないから、バッドエンド回避は協力はする」

 何だか、もの凄く含みを持たせた言葉だけど、取り合えず同意はしてくれたようでよかった。


「ラキシス様、アリィはこう見えて箱入りだから、あまりからからかわないでくださいな」

「ああ、わかってる。なにせあのユーリが目を光らせてるんだからな」

「わかってればいいんです。それと、私には推しが別にいるのでこの国で聖女にはならないし、誰も攻略しません」

 真面目な顔でマリーが、次回作に出てく攻略対象に会いに行く計画を話している。


「なるほど、乙女ゲームの主要3人が役割を放棄しているということか。なかなか面白くなりそうだ」

 ラキシスは悪代官のように、悪い顔で「ククッ」と肩をすぼめて笑いを漏らした」



「確認だけど、俺にはどんなエンドが待ってるんだ?」






 ※ここまで読んでいただきありがとうございます。

 74話まで毎日最新頑張ってきましたが、とうとうストックが底をつきました。

 次回最新は金)20時10分を予定しております。

 今後しばらくは週1回最新をしていき、じっくり完結まで書き上げましたら再度毎日最新に戻したいと思います。

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