第52話 密談 ⭐︎
「ユーリ、こんなところに呼び出して何の用だ……アリエル様……」
私の顔を見るなりラキシスがその場で固まる。
4階の談話室。
ユーリに無理を言って使わせてもらった部屋には、百合のステンドグラスの窓に真っ白いテーブルが置かれていた。
「ユーリは来ません。私達3人だけです」
開いたままのドアを、後ろから入って来たマリーが閉めて、呆然とするラキシスの背中をグイグイ押し椅子を差し出す。
紅茶を持つ手がかすかに震えるのをマリーがそっと横から支えてくれる。
ラキシスはあきらめたように腰を下ろした。
「どんなご用でしょう」
「率直に言えば、これからのラキシス様のプランを教えて欲しいんです」
私がグズグズしていたので、マリーがラキシスに問いただす。
「卒業後のことでしたら、魔法と剣を活かしあちこち旅にでも出ようかと思っております」
自己紹介とかいっさいなしで、唐突な質問責めなのにラキシスは律義に答えてくれる。
「卒業後とか、そんなことは聞いてません。マギに復讐するとか、魔王討伐に行くとか、本来の自分のものを取り戻したいとか」
「……」
長い沈黙のあと、ラキシスが先に口を開く。
「俺は魔王討伐に行く予定はないし、今以上のことは望んでいない」
「じゃあ何で学院に入学したんですか?」
ラキシスは私とマリーの顔を交互に見て、何と答えていいのか迷っているようだった。
「普通に学生生活をおくりたいだけです。アリエル様が私を避けているのは存じています。在学中も卒業後も側に近づくことはない様に致しますので安心してください」
ラキシスにこんなふう思わせているのは私の責任だ。今まで私はバッドエンドが怖くてラキシスを避け続けてしまっていた。
「いままでごめんなさい」
私は頭を下げた。
「あなたは、あんなことしないってわかっているのに、どうしても怖くて。理不尽に避けてしまって。でも、このままじゃ駄目だって思って、今さら都合のいいことを言ってるのはわかってるけど、何とか協力してほしいの」
やっと、今までのことを謝ることができた。
胸のつかえがとれた気分で頭を上げると、ラキシスはぽかんと口を開けて固まっている。
「何のことを言ってるんです? 謝るのは私でしょう? お嬢様の服を脱がせたりして、あれがトラウマなんですよね?」
服を脱がせたこと?
いったいいつの話をしてるんだろう?
「何ですって! あんたアリィの服を脱がせたの? それでアリィがあんなにあんたのこと怖がってたのね!」
マリーがいきなりラキシスに飛びかかり首を締め上げる。
「マリー、落ち着いて! 違うから、私がラキシスを怖かったのは夢のせいだから」
「ん? 違うのか? じゃあ何で俺のことあんなに避けていたんだ?」
「サスキ様に夢の話は聞いてないんですか?」
「内容までは聞いてない」
「過呼吸になる前日、勇者に監禁されて魔物を産む夢を見たんです。それが恐ろしくて。今日まで話すことができませんでした」
「勇者に監禁って、それが俺だと?」
「手の甲に藤色の魔法封じがありました」
「だからって、あれは仇桜が見せた幻想だ。現実じゃない」
ラキシスは、私の言葉に心底驚いているようだった。
もしかして、最後までプレイしてない?
「ラキシス様」
腕組みをして、マリーがズイっと間を詰める。
「しらばっくれなくていいです。もうわかってますから」
「わかってるって何を?」
ラキシスは本当に心当たりがないという顔をした。
これが演技ならかなりの曲者だ。
「ラキシス様って、転生者ですよね」
「……」
「7歳ですでに奴隷じゃないという話を聞いた時からそうじゃないかと思ってたんですよ私達」
「ね」とマリーがお見通しよとでも言うようにドヤ顔をした。
「……」
「勇者になってもならなくても、私達には構わないでほしいんです。特にアリエルには1メートル以内に近づかないで」
「は?」
「それと、私は聖女にはならないので、他言無用で」
「ちょっと待て、さっきから一方的すぎじゃないか。もっとわかるように説明してくれ」
ラキシスは頭をぐしゃぐしゃと手でかき回すと「つまりアリエルたちは転生者」とブツブツ呟く。
「「……」」
「もしかして、あなた今まで本当に気づかなかったの?」
「気づくわけないだろ。もしかしてユーリも転生者なのか?」
「いいえ、ユーリは違うわ」
「そっちの君は?」
ラキシスは、マリーをしげしげと眺めた。
メインヒロインを知らない?
「まさか、ゲームの世界だって気づいてない?」
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