第51話 ひっそり目立たず
「姉さま、こんなところで何を?」
そうだった。
エルーダ様の頼み事は、ユーリにも相談しておいた方がいいわね。
ただ……アンガス様に聞かれるのは不味いかも。
「あとでちょっと話せる?」
「それじゃあ、私は先に生徒会室に戻っているから」
「はい、僕もすぐに行きます」
「いいよ。ゆっくり話を聞いてあげた方がいい」
アンガス様は扉の前に立つ殿下の護衛を見て察したようだ。ユーリにも護衛を指さして教える。
サッと、ユーリの顔色が変わる。
「先輩、今日、僕は欠席で」
「相変わらずだね。仕方ない。何かあったら報告ね」
やれやれ、とアンガス様は肩をすくめた。
「ユーリ、今じゃなくていいのよ。生徒会が終わってからで」
「いいんだ、僕がいなくても」
「でも……」
「いいんですよ。ユーリ君には借りがあるから」
「借り?」
ライバルのフェノール家に腹黒のユーリが借り?
それはますます、珍しい。
何か企みがあるに違いない、とユーリを見ればなぜかオドオドと目を逸らす。
なに? この反応。
いったいアンガス様との間になにが?
「どんな借りなのか、ぜひ聞きたいです」
つい前のめりにアンガス様に詰め寄ると、半歩後ろに身をかわされた。
心なしか、銀髪の隙間から覗く耳が赤いような気がする。
あら、はしたなかった?
「姉さまの顔は凶器なんだから、むやみに近づかない」
何よそれ?
凶悪犯じゃあるまいし、それほど悪役令嬢面じゃないでしょ。
「さあ、行こう」
ユーリに手をひかれ歩き出すと、後ろからアンガス様が「今度、昼食でもご一緒に」とひらひら手を振った。
うーん。
彼はキャラ変し過ぎだな。
✳︎
先ほどとは比べ物にならないほど小さい部屋には、毛足の長いふかふかの絨毯とよく手入れされたマホガニーのテーブルが置かれていた。
小さな暖炉にお湯がかかっているところを見ると、ちょっとした打ち合わせ室といったところだろうか。
「変なことされてない? 脅迫とか暴言は?」
殿下……未だにユーリからの信用取り戻せてないんだ。
ちょっとかわいそうかも。
「大丈夫よ。マリーと一緒に生徒会に入るように言われただけ」
側室発言はユーリがまた暴走するので言わないことにする。
「ああ、僕の目を盗んでこそこそしていたから、そんなことじゃないかと思ってたよ。この前も、温室に入って行くのが見えたから、合図を送ったけどわからなかった?」
「合図って?」
「通信用魔石に送ったんだけど、やっぱり本物の聖女様の結界はピカイチだね」
ノイシュタイン城はヨーシャ湾に浮かぶ孤島に建てられているのだが、他国の王族も通うだけあり、セキュリティーには力を入れている。
城内は結界が特に強固で、魔法がいっさい使えない。
まあ、300年もたつと聖女様の結界も少しづつほころびが出てきて、それを修正するために魔術師が城を管理するようになったのが、学院の始まりなのでユーリのように魔力が強いと、城内でも通信魔法くらいは使えるそうだ。
「手をまわして、生徒会役員をそろえてもらっているから、もうしばらく待っていて」
「それってもしかしてアンガス様? 生徒会長なのよね」
「姉さまが生徒会長に興味あるなんて意外だな」
「そう? ほら、あれだけ綺麗だとみんなの噂の的だから」
「みんなのね。姉さまにもそんな話をする友人がいたんだ」
失礼ね、それじゃあ私がまるでボッチみたいじゃないの。
「それくらいいるわ」
マリーとリリー二人いれば十分だ。
「どちらにしても魔力封じも解いてもらえない私では生徒会に入る資格はないから、きっぱり断るわ」
私の言葉にお茶を淹れるユーリの手が止まる。
「そんな……資格は十分有る。できれば一緒に生徒会に参加して欲しかった。だけどあそこにはバイ菌がいっぱいいるから」
「バイ菌?」
生徒会室って汚いの?
メイドは何してるんだ?
「姉様。マギにはムカつくし、僕の手で闇に
「ラキシスに考え?」
それはちょっと聞き捨てならない。
「いったい、何をするつもり?」
「さあ、僕は高みの見物だから」
ニヤリと笑うユーリは絶対に何か知っているに違いない。
どうせ、男同士の秘密なんだろう。
いいもんね。私とマリーにも女の秘密があるんだから。
「ただ、姉さまが邪魔だというなら今すぐ消すけど、どうする?」
「なに言ってるのよユーリ、マギ様のことは気にしてないから」
「でも、マギがいれば魔封じはいつまでたってもそのままだよ」
「いいのよ。今のままひっそり目立たずでいたいんだから」
ユーリにはそう言ったが、マギのことはやっぱり気になる。マリーの言うようにラキシスには早急に話を聞く必要があるのかもしれない。
「ひっそり、目立たずね……無理だと思うけど」
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