第54話 密談3
「確認だけど、俺にはどんなエンドが待ってるんだ?」
ラキシスは明日の天気でも聞くような軽いノリで私たちに聞いた。
*
「マギに裏切られて、王家からも見捨てられて闇落ち?」
マリーはラキシスの質問に正直に答えた。
「言い方!」
見た目の可憐さとは大違いで、マリーは本当にさっぱりした性格だ。
好意には好意で返し、悪意には倍返しだそうで、うじうじ悩むところは見たことがなかった。
自分のこともそんな感じなので、人の
「マリー。ラキシスは不幸設定なんだから、もう少し気を使ってマイルドに言えないの?」
いきなり不幸設定を突き付けられる気持ちはよくわかる。
いままで、避けていた分もできれば力を貸したい。
「オブラートに包んでも、直球で言っても結果は同じでしょ。それよりもこうして転生者が集まったんだから、いかにしてチートを発揮して楽しく暮らしていくか相談した方が建設的よ」
まあ、それには異議はない。
「アリエル様、心配してくれてありがとう。でも、ある程度はわかってるから。なにせ、奴隷スタートだし。ゲームの序盤で俺自身の設定はある程度出てたしね」
ラキシスはサラサラの黒髪を右手で書き上げ、はにかむように笑った。
ちょっと長めの前髪の隙間から覗く漆黒の瞳は謎めいていて、うっかり吸い込まれてしまいそうだ。
彼の髪の色も瞳の色も本来の色ではないはずなのに、なんて綺麗。
「アリィ見過ぎよ」
「え、ああ。ごめんなさい。本来の色は水色がかった銀髪に藤色の瞳だったと思って」
「ああ、どちらもマギに魔法で変えられていたんだ。奴隷にしてはあまりにも目立つからな」
私は見とれていたのをごまかすために聞いたのに、まさかそこまでマギに変えられていたなんて。
「心配してくれてありがとう。でも、今の方が気に入ってる」
「なじみがあるものね」
やっぱり、髪と目の色は黒が落ち着く。
私なんてピンクだから実は鏡を見ると目がちかちかして落ち着かない。
「申し訳ないんだけど、勇者のエンドはあんまり詳しくないんだ。ゲームでも勇者を選んでプレイしないかぎり、どうして闇落ちしてしまうかまでは説明はないし、乙女ゲームだからわざわざ勇者を選ぶ人も少ない」
「それも仕方ないな」
「うん。でも、考えたら変よね。さっきラキシス様が言ったように、私の夢では魔封じがされたままだった。それって、魔王討伐後また魔封じされ直したってことでしょ」
魔法が使えないまま魔王討伐なんて絶対に無理だ。
「ゲームならともかく、この世界ではあり得ないな」
「もう一つ。私とラキシスの子供が、魔物なのも変でしょ。それじゃあ、ラキシス様は人間じゃないみたい」
「俺は人間だ」
それはわかってる。
「ラキシス様は不幸設定だけど、どうも単純に王家から捨てられた双子の片割れってだけでは終わらないみたいですね」
うーん。
私達の知らない何かがラキシスに起こるのか。
考えても、こればっかりはプレイしていないのでわからない。
「ちょっと待って二人とも」
今までじっと私たちの話を聞いていたマリーがいきなり立ち上がり叫んだ。
「私、重要なことに気づいたわ」
「何か思い出したの?」
マリーは、プレイする前にきちんと設定を読んだ上で、やめたと言っていた。
「違うわ。ラキシス様は双子なのよ」
「そうね」
この世界では双子は忌み嫌われる。だから普通なら殺されていただろう。
「じゃあ片割れは誰?」
そりゃあ、もう片方は王子様だ。
ラキシスと同じ年の王子様……って!!
「エルーダ様」
すっかり失念していた。
だって、ゲームではこの2人に接触はない。
ラキシスが入学するのはエルーダ様が留学する3年生からだし、そもそもラキシスは登校するのも数回だ。
1年生でラキシスが普通に学生として登校してるのがそもそもおかしい。
「全然似てないから全く気づかなかった」
マリーがしげしげラキシスの顔を眺める。
「似てないんだ」
「似てないよ。幼馴染の私が言うんだから間違いない。陛下や王妃様にはどことなく面影があるけど、見分けられない程じゃない」
「自分でもそう思った。あっちは金髪だし見るからにお上品って感じだ。二卵性双生児ってわけだな」
ラキシスの割り切った表情を見れば、彼が本当にゲームとは違う人間なんだなと感じる。
「エルーダ様を恨んでいない?」
思わず、そう聞いてしまい私は後悔した。
「恨んではいない、腹は立つけど。でも、この怒りはエルーダ様に向けるものじゃないこともわかってる」
「大人ですね」
私なら、絶対に双子なのに自分だけ捨てられたことを恨んでしまう。
「その通り、大人だから」
14歳の少年の顔をして言われてもピンとこない。
「7歳で前世を思い出したときは、この体の持ち主はあまりに子供で、その時からほぼ前世の自我で支配してしまったみたいなんだ。今さら王子様の片割れだと言われても、そうそうシフトできない」
「納得できない? でも、アリエル様も似たようなもんでしょ。俺と会った時のアリエル様は、子供だったからユーリのことを憎んではいなかったけれど、自分の境遇はユーリのせいだと理解していたよ。たぶん、そのまま大人になっていたら恨んでいたと思う」
確かにそうかも。
前世を思い出してから、ユーリにあったとき憎しみの気持ちはわかなかった。
「ただ、マギや王族の奴らは話は別だ。彼らは理解したうえで俺を捨てた」
悪い笑みをたたえて、ラキシスは私に手を差し出す。
私はおずおずをその手をとった。
ラキシスと私の握手の上からマリーも手を重ねる。
「話はまとまりそうね。マギはどうするの?」
※毎週金曜最新予定です。
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