第17話 聖女候補、婚約者候補とのお茶会
お茶会の日、私はユーリとソールそしてソールの妹であるリリーと一緒にチェンバロ伯爵家にやってきた。
「アリエル様、本当に私までついてきて大丈夫だったでしょうか?」
いつも明るくしっかり者のリリーが今日は緊張のためか、落ち着きなく周囲を見回す。
「大丈夫よ、きちんとマリアンヌ様には了承を取っているから」
「ですがなんだか場違いのような気が……」
リリーが暗い顔で俯いてしまう。
確かに、リリーのこの反応は理解できる。
事前に出席者リストを見せてもらったが、今日集められているのはマリアンヌと同じ聖女候補数名と王子の婚約者候補と噂される上位貴族の令嬢ばかりだった。
王子に嫌われている私をどういう意図でよんだのか分からないが、楽しそうな理由ではなさそうだ。
「リリー、ごめんね。私が無理言ってついてきてもらって。でも絶対にリリーには手を出させないから」
「あ、私は大丈夫です。ただ、伯爵家の娘なんかを友達として同伴してはアリエル様の評判に傷がつくんじゃないかと思って」
申し訳なさそうに上目遣いで私を見るリリーはなんて可愛いのかしら。
ここがうちなら抱きしめているところである。
リリーとはソールを通じてお茶会に誘ってもらって以来のお友達だ。
リリーの紹介で同じくらいの令嬢とも知り合う事が出来たし、今日だってマリアンヌ様の許可が降りなければ、友人としてではなくお付きの侍女としてついてきてくれるとまで言ってくれる優しい人なのだ。
ゲームでは、私の身代わりに誘拐されるが、絶対に阻止してみせるから。
「何言ってるのよ、そもそも私の評判がこれ以上傷つくことなんかないわ。それよりも、私のせいでユーリやリリー達に悪意が向けられるほうが申し訳なく感じる」
学院入学前にイベントが起きることはないと思うけれど、私が前世の記憶を思いだしたことで、シナリオも少しずつ変わってきている。
そもそもマリアンヌ様にお茶会なんて誘われるイベントはない。
万が一『マリアンヌ様をいじめる』というイベントが起こった時、私自身が関与していなくても、その場にいたと言うだけで罪をでっち上げられる可能性がある。
だから、攻略対象であるユーリとソールが一緒であれば私の無実を証明してもらえるし、女性しか入れない場所ではリリーについてきてもらおうと思い同伴してもらったのだ。
✴︎
「うちとはまた違った
ユーリが感心したように薔薇を眺めている。
確かに、想像していた
薔薇が見頃と招待状に書かれていただけあって、庭中薔薇で埋め尽くされていたけれど、規模もうちの庭と比べると10分の1くらいだろう。
これでお母様に対抗しているとはとても思えないから、やっぱりあの招待状には深い意味はないのかもしれない。
「このお庭は歴史を大事にして手入れされているものじゃないかしら」
「うん、そうだね。うちの庭のように
私も入った時から、時を止めたような儚さを演出した庭に懐かしさを感じた。
「エルドラ公爵領の庭園に似ているのよ」
私の言葉に、一瞬ユーリの顔が曇り、足が止まる。
ふふ、ユーリの考えそうなことは分かる。
エルドラ公爵領の住まいは辺境に近いため、美しい城と言うよりどちらかというと城砦に近い。見た目よりも機能性が重視され、高い城壁に囲まれている姿は漆黒の城と呼ばれていた。
その中に造られた庭園も鮮麗とはほど遠く、何度も敵襲を防いだ強固な雰囲気に合わせた古い
今は心落ち着く庭園に仕上げてあったと思えるけど、わびさびの分からない子供のユーリから見たら、とても寂しい庭に見えたことだろう。
また僕のせいでって、思っているに違いないユーリの頭をなでなでしてあげる。
「私もこのお庭が好きだわ。古い煉瓦の向こうに少し見える薔薇がなんだか秘密の花園みたいでわくわくする」
わざと形のそろわない煉瓦を積み上げた低い壁には窓が開けられており、その向こうに白い薔薇がきれいに咲いている。
「そうだな。広くはなさそうだがそこにガゼボがあったら、うるさい連中を避けてお茶でもしたいな」
沈んでしまった空気を気にせずにソールが冗談を言う。
「マリアンヌ様に挨拶をしたとき、向こう側に行く扉を教えてもらいましょう」
*
「まあ、ユーリ様。お久しぶりです。アリエル様もお会いできて光栄です」
軽やかに鈴を転がしたようなかわいらしい声で話しかけられ、私達は薔薇の妖精のようにふわふわのドレスを着た令嬢を振り返った。
良く通るその声は私達を見ないふりしていた招待客の視線を集めるには十分で、和やかな空気に緊張が走る。
「本日はお茶会に招いていただきありがとうございます。アリエル エルドラです」
「マリアンヌ チェンバロです。どうかマリアンヌとお呼びください」
思った以上に声が硬くなってしまったが、マリアンヌは気にした様子もなくうれしそうに挨拶を返してくれた。
それからユーリたちとも一通り挨拶をすますと、庭園を簡単に説明してくれる。
絶対に良からぬ思惑があるのではと警戒していたが、マリアンヌの思わぬ好意的な態度にすっかり警戒心が
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