糞ゲー

「俺も剣術大会に出ようかな」

 思いつきだったが、言葉にするとまんざらでもないような気がする。


「本気? まさか俺に学校をサボらさないため?」

「ああ、それにもう少し視野を広げるのも悪くないし。俺は今年で15歳になるんだ」

「知ってるよ。姉さまと同じ歳でしょ」

 相変わらず、ユーリの中心はアリエル嬢だな。

 まあいい。


「15歳と言えば、成長期だ」

「ラキシスも、にょきにょき背が伸びてるよね」

「背だけじゃないぞ、成長期には魔力量も増加するんだ」

「あ、もしかして魔力封じをかけ直しにマギが現れたの?」

「前回は俺の誕生日だったから、今回もその辺だろうな」

 俺の言葉に、ユーリは難しい顔で考え込んでしまう。


 何を考えているのかは想像がつく。

 去年、アリエル嬢の所にマギが訪問し、未だ魔力の暴走の危険があるから魔力制御の魔法陣は解けないと言ったあげくに、さらに強化して帰ったそうだ。

 すでに、魔力制御の魔法陣をあの変な人形に移し、自分で魔法を使えるようになっているというのに。

 ユーリが怒るのも無理はない。



「昔、俺が、いったい何者か聞いてきたことを覚えてるか?」


「うーん。忘れた?」

「聞きたくないのか?」

「僕も成長してるんで、聞かない方がいいこともあるって学んだ」

 予想は付いてるんだろうけど、確認して今の関係がギクシャクするのを避けたいのかも知れない。


「別にそんな大したことないぞ」

「いやいや、ここから先は、命がかかってる秘密なので、な僕には話せないっていったろ」

 そっちか。


「まだ根に持ってるんだ」

「ぬかせ」

 照れているのを隠すように、足払いを掛けられる。


「もう無力じゃないだろ」

 俺の言葉にユーリは「へへ」と嬉しそうにはにかんだ。

 13歳でこんなに可愛くていいのか?

 あ、この前誕生日だったから14歳か。



 ✳︎


「剣術大会に出るってことは、いよいよマギをボコボコにするのか?」

「いや、王立学院に興味が出ただけ」

 まさか、青春がしたくなったとは答えられないので、それらしくごまかした。

 ゲームの中の学院には興味はないけど、もう一度学生に戻るっていうのは悪くわない。


 ハーレムじゃなくていいから、女子高生とはお近づきになりたいし。

 なんたって、今の俺は14歳。女子高生と間違って手をつないでも変態じゃない。


「ラキシス、なんかよこしまなこと考えてるだろ」

「まさか、ほこりほどもやましいことなんか考えてない」

「ならいいけど、あんまり目立たない方がいいよ。魔法抜きにしても、ラキシスの腕は規格外だから」

「ユーリには言われたくない」

「だから、僕だって苦労してるよ。この国最強のスティーブを相手にしても、うっかり殺しちゃわないか気を遣ってるんだから」

「なんだ、ただの自慢か?」

「違うから。スティーブはこの国の騎士団長より強いと思う」

 なるほど、そりゃあ不味いな。騎士団長より強い子供なんて王家から目をつけられること間違いない。

 たしか、アリエル嬢の護衛だったよな。


「王子に勝つのは不味いか?」

「そうじゃないよ。あんなのは放っておけばいいけど、問題は王家が勇者を探しているようなんだ」

 とうとう来たか。


「魔族が増えてきたのか? それとも魔王が戦いを仕掛けてきそうか?」

 王様が勇者を捜す理由はそれしかないと思っていたのに、ユーリの答は意外なものだった。


「まさか、違うよ。たぶん王家の人気とりに利用しようとしてるんだ」

「なんだそれ?」

「ここ数百年。魔族が故意に人間界に被害をもたらしたり、ましてや魔王が戦いを仕掛けてくることなんか無いんだ」

「でも、よく旅人が魔獣に襲われたり、農地が荒らされたりしているだろ」

「ああ、そもそも魔獣は古いダンジョンなんかで発生するもので、魔族とは違う」

 そうなのか!


「じゃあ、未だに王都の周りに建設している城壁は何なんだ? 魔族の襲撃に備えてるんだろ」

建前たてまえはね」

「本当は何のために作ってるんだ?」

「人間を区別するためだよ。王宮近くには有力貴族が。一番外の城壁には奴隷や孤児が住んでいるだろ。伝染病がはやるのはいつも貧しい者の中からだから、切り捨てるのも便利だ」

「ひどいな」

 じゃあ、あそこに住んでいる貧しい仲間たちは、自分たちを閉じ込めるための城壁を必至で作らされているということか。


「王家は無能だけどずるがしこい。しかも、魔族対策と言えば税金を集めてもみんな文句を言わない」

「ユーリは、それを誰から聞いた?」

「別に誰からも。考えたらおかしいと思っただけ。勇者を選抜するのに貴族も騎士も参加しない、剣術大会で捜すなんて」

 確かに、剣術大会で勇者が選ばれたら、ドラマチックだけれど、ポッと出の素人が実際に魔王と戦えるわけがない。


 もともと魔族が襲ってくる気がないのなら、どんな勇者でも、たとえ勇者が戻ってこなくても何の問題もないということか。


「重要なのは王家や教会が国民のために努力しているというパフォーマンス」

 そうか、だからゲームでは俺は不遇の勇者なのか。

 単なる捨て駒。


 今すぐ王家を滅ぼしたくなってきたな。


「あ。でも聖女はどうなるんだ? 聖女は貴族だろ」

「うん、まあね。力のある聖女は貴族出身が多いよ。でも、貴族出身の聖女が魔王討伐に行くことはないと思うな。身分は聖女でも教会の所属じゃないんだ。だから戦争があったときなんかに派遣されるのはよっぽどの理由がない限り平民出の聖女なんだよ」


「糞ゲーだな」

「ラキシス、怒ってる?」

「ああ、王族にな」

「勇者になるなんて言わないよね?」

「それはまだ分からんが、まずはマギを消す」

「うん、賛成」

「ユーリ、お前王子の側近なのはスパイだからって言ってたけど、俺にも情報を流せ」

「うーん。まあ、マギは邪魔だから手伝うよ」




 第1部 完結。

 次回から第2部、学院編スタート、本格的に乙女ゲームが始まります。

 ここまで主人公達の成長を見守ってくれて本当にありがとうございます。

 第2部もっと面白く書け、とはげましの星など頂けると嬉しいです。


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