第33話 仇桜
「君たちは夕方には着いただろ。そんな人間今までみたこともないね」
そんな話は眉唾である。
私達は普通に歩いてきただけだし。
「この山にはね昔からいろいろなものが住んでいて、おおかたは精霊とかなじみのあるものなんだけど、それ以外にも長い間存在して、神のようになったものも多い。そういうものはこの森に新しい人間が入ってくるのを拒むんだが……」
それって、日本で言う
さすがゲームであるそんなものまで存在するのか。
「その中でも、ここの桜はちょっと変わっていて、人の思いに敏感で、気に入ったアリエルちゃんの望むものを見せてあげようとしたんだろうけど失敗したって感じかな」
「それはどういう?」
ユーリは、全く話しについて行けていないようで、どこに突っ込みを入れて良いか分からないようだった。
「もともと桜には人の思いを呼び起こす魔力みたいなのがある。ほら、懐かしいなぁとか、会いたいなぁとか」
それはなんだか分かる。
「ここの桜は特別でね。
「既視感?」
「ああ、君たちはまだ若いからあまりないかもしれないけど、一度も体験したことがないのに、すでにどこかで体験したことのように感じる感覚。デジャヴっていったほうがわかりやすいかな」
本来の12歳ならわからない感覚も、前世もちの私からすると、既視感は結構身近な感覚です。
「今回はそれが行き過ぎちゃったみたいで、儚く散りゆく桜が、アリエルちゃんに忘れないでもらうために、一番の思いを夢に贈ったんだよ。まさかそれが悪夢になるとも知らずにね」
「そんなの意味が分かりません。忘れないで欲しいなら良い夢を見させるはずでしょ」
ユーリが怒りにまかせて、ソファーの肘掛けを思いっきり拳で叩く。
「まあ、普通はね。ただ……どんなに美しく儚いものからでも狂気は生まれてしまうんだ」
そっか、私は未来を考えたときバットエンドが一番はじめに頭に浮かぶ。それであんな夢を見たのかもしれない。
「思い出したかい?」
「はい」
なんて恐ろしい夢だったんだろう。
絶対にあんな未来は嫌だ。
「姉さん……」
「ユーリ、とても怖い夢だった。でも、現実にまだ起こった訳じゃないし」
「話してはくれないんですね」
「いつか必ず話すから、でも今は私が言葉にすることで現実になってしまうことのほうが恐ろしい」
「言霊だな。たしかに、膨大な魔力を持っているものはただ言葉にしただけで、魔法陣を書かずとも強い魔法を使える。特にこの山では
「分かった」
たくさん聞きたいことがあるだろうに、ユーリはそれ以上尋ねるつもりはなさそうだった。
「サスキ様、今回はいろいろあって魔法陣の解除は見送ろうと思います」
「何故。僕が昨日反対したから? 役立たずな僕が魔法封じを解除できるまで待ってくれるってこと?」
「そういう訳じゃないよ。私はユーリが大切なの。ユーリが反対することはできるだけやりたくないし、他に方法がないかサスキ様に探してもらっても良いでしょ」
あれほど昨日反対していたのに、いざ私が断ったら、突っかかって来るのは何でよ。
おかしいでしょ。
「別に同情はいらないです」
「同情している訳じゃないよ。どうしたのユーリ、昨日は反対してたじゃない」
「昨日はそれほど早急に魔力封じを解除しなくちゃならない脅威が感じられなかったんですよ。公爵家に戻れば精鋭の騎士がそろっているし、僕だって魔法が使えます。でも、今の僕では姉さまを守りきることができないと分かったんです。姉さま自身で魔法が使えれば、少しでも不安が消えるならそれが良いと思います」
ユーリは悔しそうに両手を握りしめている。
「ユーリ。心配かけてごめんね」
「また謝る。姉さまは僕に謝りすぎです」
ずっと疲れた顔をしていたユーリが、やっと少し微笑んでくれる。
「話の途中、割り込んじゃうけど、私にはビエラの他にもう1人弟子がいてね。まだ若いがかなり優秀だ」
若いって、ここまで案内してくれた子供だろうか。
澄んだひとみが綺麗だったな。
彼とはもう一度会いたいと思っていたのに、初日以来、全然姿が見えなかった。
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