第14話 終活! ソールの闇落ち阻止3  

「むかし、部屋に迷い込んだ……怪我をした鳥を助けたのよ。その夜……夢に鳥が現れて見せてくれたことが現実になったの。だから私の力じゃないわ!」

「公爵令嬢の部屋に鳥が?」

「そうよ……その後も何度かこの夢は現実になるかもって思う事があったけど、その時も鳥が出て来たから」

 しどろもどろ説明したけれど、自分で言っていてなんだか悲しくなってくる。

 鶴がお嫁に来るよりは説得力あるでしょ。



「そういえば、そんなことがありました。見たこともない黒く綺麗な鳥で人間の言葉もわかるようでした」

 アロマが「きっとあの鳥は女神さまのお使いでしょう」と私の味方をしてくれる。

 何て、気が利いて主人思いなのでしょう。


 ありがとう。

 でも、折角アロマが応援してくれたけど、この場のしらけた空気はどうしようもないみたい。




「いいよ、どうしてだか分からないけど、姉さまがそういう事にしたいなら」

 沈黙の後、諦めたようにユーリが短いため息を吐くと、私の手を引いて椅子に座らせてくれる。


「ここにいる4人以外にはそういう事にしておこう」

 ユーリは大人びた顔で私の無理な主張を飲み込んでくれるようだ。

 真実を話せなくて「ごめんなさい」と私はみんなに謝った。


「それで、誘拐ってどういうこと?」

「え? それはただの夢よ」

「うん、わかってるよ。夢見なんかじゃなくただの夢なんだね」

 その鳥が恩返ししてくれている夢に興味がある。とソファーにもたれかかりながらゆったりと私に向ける笑顔が怖い。

 あんた本当に10歳なの?



 どうする私。

 このままユーリをごまかせる気がしない。


「僕は姉さまの力になりたいだけだよ。これまでは一人で頑張るしかなかったのかもしれないけれど、今は僕がいる」

「お嬢様」

 アロマも、スティーブも私の力になりたいと心配そうに私の言葉を待っている。

 その揺るぎない眼差しに勇気をもらい、私は覚悟を決めた。


「断片的な夢なんだけど、誘拐されるのは私じゃないの」

「姉さまじゃない?」

「そう、会ったことがないからはっきり断言できないけれど、たぶんソールの妹じゃないかと思う。それでその犯人が私だと疑われているって夢よ」

「姉さまが犯人?」

 話の途中でユーリが地を這うような低い声で聞き返してくる。

 うっ、やっぱり信じてもらえなくて当然よね。

 せっかく力になりたいと言ってもらえたのに、このまま本当にソールの妹が誘拐された日には二人に断罪されてしまいそうだ。


「ユーリ様そんな怖ろしい声を出しては、お嬢様が怯えてしまいます」

「あ、ごめんね、姉さま。でも考えたら無性に腹が立って」

 そうよね。今までさんざんユーリをいじめていた人間が、今度は誘拐犯かもしれないなんて聞かされたら怒りたくもなる。


「ユーリ、心配かけてごめんね。でも絶対に誘拐犯だなんて疑われるようなことはしないから」

「まって、何か誤解してない? 僕が怒ったのは姉さまを誘拐犯だと疑った人間に対してだよ」

「え? わたしじゃなくて?」

「当たり前でしょ。僕が姉さまを疑うと思われているなんて、そっちの方がショックだ」


「ユーリの気持ちを疑っているわけじゃないの。私が今まで酷いことをしてきたらから、ユーリに信じてもらえる自信がなくて」

「姉さまに信じてもらえないのは僕のせいだよ。まだまだ僕の努力が足りない」

「そんなことない」

「うん、人間関係は一人の努力じゃ改善できない。全てを話してくれなくてもいいから姉さまが困った時は僕を頼ってほしい」

 ユーリの言葉に私は無言でうなずうつむいた。

 そうしなければ、涙がこぼれ落ちそうだったから。

 私が落ちつくまでそっと頭を撫ぜてくれていたユーリが、紅茶を手渡してくれる。


「ユーリが優しくて辛い」

 心の声を口に出してしまっていたようで、ユーリが不思議そうに「なんで僕が優しいと辛いの?」と困惑している。


「だって私には優しくしてもらう資格が……」

「あるよ」

 私の言葉が終わらないうちに、ユーリがねたようにさえぎった。


「姉さまは僕に優しくされる資格がある。これについて異議も不服も却下するから。それと説得もしない。もうこれからの行動で理解してもらうしかなさそうだから覚悟してよね」

 最後はちょっと怒ったようにひと睨みされるが、なぜか心の中が軽くなった気がした。



「それで、もう少し詳しく説明してもらえるかな?」

「詳しくといっても、本当にどうしてソールの妹が誘拐されるのかわからないの」

「それじゃあ、いつ頃の話か見当はつく?」

 入学式にはソールは人間不信になっているから、誘拐はその前なのは確かだけどそれをなんて説明したらいい?

 えーと、ゲームではモブである妹がどうして私の代わりになったのかいちいち説明はされていない。

 でも、身代わりに思いつくくらいだから、何処かで接点があったはずである。


「あ、そうだ。ドレスを買いに行った時に会ったんだわ」

 たしか、その店の人間が情報屋なのだ。

 普段なら屋敷のドレッシングルームまで来て採寸するが、その日は新作の生地を見に寄った。

 その時、ソールの妹が制服をとりに来ていたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る