第12話 終活! ソールの闇落ち阻止 ✳︎
「これって、お茶会の招待状?」
「そう。念のため持ってきた。俺の母主催だから安心していいぞ」
「うそ、嬉しい! 今すぐの返事は無理だけどお母様に相談してすぐに返事をするわね」
誕生日以来初めての招待状だ。
しかも、以前はお母様の名前の招待状に
「ありがとう。ソール」
私は嬉しくて思わずソールに抱きついた。
「うわぁ」とソールが声を上げて、身体を固くする。
「つい、はしゃいでしまいました。淑女らしくないってまたユーリに怒られちゃうわ。ないしょね」
「わ、わかってる」
心なしかソールの頬が赤いような気がしたが、無礼な態度に怒ったのかしら?
せっかく仲良くなれたので、私はもう一度「ごめんね」と謝って愛想笑いをしておいた。
「当日は妹の友人も数人招いているから頑張って友達作れよ」
「まあ、妹さんの? 楽しみにしてるわ」
なんたってこのところ、同じ世代の女の子と話す機会が全くないからガールズトークに飢えていた……あれ?
妹?
妹って死んだんじゃなかったの?
かろうじて声に出すのを思いとどまることができたけど。
ソールの妹はまだ生きているんだ……。
そっか、会った時に不機嫌で無礼な態度だったのは、ただ単に私に怒っていただけで、すでに人間不信キャラになっていたわけじゃない。
そうよね。
愛想よく話しかけてくれてるからすっかり設定のこと忘れて、こっちのさっぱりした性格に違和感がなかった。
「ねえ、ソール。あなた妹は一人?」
「そうだけど」
「これから先また妹が生まれる予定なんてないわよね」
「何言ってんだアリエル。そんなの俺に分かるわけないだろ」
ソールはもじもじとうつむいてしまう。
まあ、確かに。
やっぱり死んでしまうのは今存在している妹の可能性が高い。
「どうしたんだアリエル。やっぱり心配か?」
「そうじゃないわ。どんなドレスがいいか考えていただけ。すっごく楽しみにしてるから」
「それにしては表情が暗いぞ」
この間まで向けられていた冷たい視線はもうどこにもない。
ソールは純粋に私のことを心配してくれているのだ。
どうしよう。
あなたの妹がもうすぐ死んじゃいますなんて言えない。
「なんだか緊張しちゃって、今度は王子様を怒らせたみたいな失敗はできないから」
心配の滲む瞳を悟られないように、無理に何でもないふりをする。
「大丈夫。本当に気楽なお茶会だから、俺も顔を出すし」
「ありがとう。ソール」
「おう、じゃユーリに見つかるとうるさいからまたな」
ソールは片手をあげて、ニコリと笑い部屋を出て行った。
ふうぅぅぅ。
「これはいったいどうしたものか……」
このまま放っておけば、たぶん妹は死んでしまう。
妹の死がきっかけでソールは人間不信になった。それをヒロインになぐさめられて恋に落ちる、という設定なのだ。
逆に言えば、妹が死ななければ人間不信になることもなく、ヒロインに攻略されることもないので、これから先ずっとあの笑顔で挨拶してくれるいい友達のままだろう。
でも、助けようにもそもそもなぜ死んでしまうのかもわからない。
きっとゲームでは名前すら出てこないモブで、説明も一行あるかないかの存在。そんな人間を子供の私が助けることは無理だ。
「ごめんねソール」
いくらゲームの記憶があっても私には誰も助けることができない。
ソールの妹も、いまだ奴隷かもしれない勇者も。
これから誰が不幸になるかわかっていても、シナリオだから仕方ない。
「……」
本当に仕方ない?
「それでいいのか私!」
ソールの妹はモブじゃない。
王子から見捨てられた私をお茶会に招待してくれた心優しい子だ。
ソールだって、人間不信になるくらい妹を大切に思っている。
勇者だってそう。奴隷のままでいいわけない。
私だって悪役令嬢のままじゃない。
ここで何もしないで諦めてしまったら、これから先シナリオにあることすべて諦めなくちゃならない。
「シナリオなんて関係ない!」
「お、お嬢様どうされました」
アロマが駆け寄ってきて、オロオロと私の手を握る。
「大丈夫よアロマ。ちょっと気合を入れたの」
「なぜ急に?」
「誰かが不幸になるのを助けない自分では、悪役令嬢じゃないって胸を張ってい言えないからよ」
「はあ……」
間の抜けた返事をするアロマは首をかしげている。
「スティーブ」
「はい、お嬢様」
「この前話していた、手の甲に魔法陣のある少年。継続的に探すように領地の騎士にもう一度言ってもらえないかしら? そして見つかったら必ず保護するようにしてもらうことはできる?」
「承知しました」
スティーブは理由を聞くことなく約束してくれた。
今はそれしかできないけれど、何もしないよりましだ。
急がなきゃいけないのはソールの妹だけれど、こちらは全く記憶にない。
13歳で学院に入学するときには、もう死んでしまっているはずだから、残り2年。
頑張って思い出さなきゃ。
私は頭の中を整理するためにも、エンディングノートに思い出せる限りを書き出していった。
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