第11話 お茶会の招待状

「お嬢様にお客さまですが、いかがなさいますか?」

「お客さま?」

 はて? やらかした私に誰が尋ねてくるのだろう。


「誰かしら?」

「ソール様です」

 ソールがなぜわざわざ許可を求めているのだろう、いつも自由に出入りしているに。


「もしかしてこの前のことでユーリに出入り禁止にされてるの?」

「そのようなことはないはずですが」

「じゃあ私に気を遣ってるのかしら? 別に私に構わず訓練場に行ってくださいって伝えてちょうだい」

「かしこまりました」とアロマが部屋を出て行ったあと、すぐに戻ってきて申し訳なさそうにしている。


「どうしたの?」

「それが、本日はお嬢様に直接お話があるそうです」

 何だろう?

 前回、いい感じに和解できたと思ったのに、知らないうちにまたやらかした?


「いいわ、通して」



「やあ、アリエル嬢こんにちは」

 今まで見たこともないような爽やかな空気をかもし出してソールが入ってきた。


「こんにちはソール様。今日はどうしたの?」

「様はいらないよ。ソールと呼んでくれ。今日は招待状を持参したんだ。前回俺に任せろって言ってただろ」

 差し出された封筒は、押し花をモチーフにした可愛らしいものだ。


「わー、素敵な封筒ですね。もしかして手作りですか?」

「そう、母の趣味さ。何通か同じ封筒で送ったのに見てないのか?」

 基本的に、この家に届くお茶会の招待状はユーリや私の分を含め母の所に届けられる。出席する場合は私にも聞いてくれるが、私が招待されることじたい稀だったので届いていれば忘れるはずないんだけど……。


「本当? こんな素敵な封筒、見たら忘れないのに」

「返事が来ないからもしやと思って来てみてよかった。きっとユーリが握りつぶしているんだな」

「なぜそんなことを?」

「それは……自分で聞いてくれ」

 ソールは何やら言いかけて、言葉を濁してしまう。


「やっぱり、田舎暮らしで礼儀作法に不安があるし、人前に出せないと思ってるのかな?」

「それは違う」

「でも、せっかくの誕生パーティーも王子様を怒らせてしまうし」

 多分、社交界ではものすごく評判悪いのだろう。それなにのこのこ出かけて行けば、さらに後ろ指刺されること間違いない。



「アリエル嬢は意外に抜けているんだな。心配しなくてもどこからどう見ても立派な淑女だ」

 ソールが両手をぎゅっと握り締め、思いのほか真剣に慰めてくれる。

 そしてなぜか周囲をきょろきょろと見まわして、ほっと息を吐く。


「ありがとうソール。何か気になることでも?」

「いやいや、小姑が現れないか確認」

 小姑?


「そんなことよりエルーダ殿下に会った時に、俺からもあれは誤解だって伝えよう」

 まだ、乙女ゲームスタート前なのにソールはエルーダ様と仲がいいのかしら?


「これでも俺は良家の子息だからな、ユーリと殿下と一緒に剣術の稽古もするしちょっとした勉強会もあるんだ」

 そうなんだ。良家のご令嬢のお茶会と一緒で横のつながりを作るってことかしら。


「いいえ、その必要はないわ。どんなにソールが殿下に誤解だと伝えても信じてはもらえないでしょう」

「まあ、確かに俺でさえユーリの話を聞いても信じられなかったからな」

 もつれた人間関係は、本人同士でしかほどくことはできないのだ。


「噂じゃなくて、これから私がどういう人間なのか行動で判断してもらいたいです」

 もう結構やらかしちゃってるけど、まだ11歳だ。挽回のチャンスはあるはず。


「そうか、そうだな。アリエル嬢はいい事を言うな。弟にやきもちを焼いたり、童話の世界を夢見たり、まだまだお子様なところはあるけど間違いを反省できるのはいい事だ。応援するよ」

 すっかり、やさしい表情になったソールとは、和解できたこと間違いなしだし、たぶん本当に応援してくれる気なんだろう。でもなぜか誉められているような気がしない。


 まあ、攻略対象が一人味方についたっていう事で良しとしよう。


「私のこともこれからアリエルとよんでちょうだい」

「わかった。ユーリの怒った顔が見られると思うと楽しみだな」

 想像したのか、ソールはクスクスと笑う。


 ん?

 なぜユーリが怒る?


「そりゃあ、大事なお姫様を独り占めするのに必死だからな」

 お姫様って私のことじゃないよね。

 もうすでに、マリアンヌには会っているだろうし、もしかて他のヒロイン候補にでも恋しちゃったのかしら。


「そう深く考えるな。あいつは少し背伸びしすぎだ。もっと子供らしく人に甘えてもいいと思わないか?」

 ソールがなぜそんなことを突然言うのかわからなかったけれど、今までずっと近くにいた彼が言うのだからそうなのだろう。

 弟なのにずっといじめていた私とは違う。



「初めはユーリを揶揄うつもりで手を貸そうと思ったけど、どうやら本気でユーリを怒らせることになるかもな」

 妙に赤い顔をしてソールは私を見た。

 え? 何かまた気に触ることをした?


「ふふふ、わかってないとこも可愛いな。ところで、その手紙の返事をもらえると助かる。なにせ、ユーリが握りつぶしてくれてたおかげでもう日にちがないんだ」


 私は慌てて、手の中の封筒を開いて読んだ。


「これって、お茶会の招待状?」

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