第5話 終活! 魔法を使えるようになりたい ☆

「お父様、お願いがあります!」

 私が目を覚ましたと報告を受け、お父様とお母様が心配そうに部屋に入って来た。

 お母様は私を力いっぱい抱きしめてくれ「大丈夫、何も心配しなくていいわ」と背中をさすってくれる。


「何だいアリエル。王子のことならお父様が何とかするから。彼はまだ子供で王家にとって誰と結婚するのが最良かわかっていないんだ。きちんと説明すれおどせばわかってくれるよ」

 お父様、笑顔が怖いです。

 それに、それって私自身には勝ち目はないって言ってますよね。


「エルーダ様のことはもういいのです。今まで私は彼の表面だけを見ていました」

 彼は顔はすごくいいけど『クズ』設定なのだ。そんな男とこのまま結婚しても幸せにはなれない。


「エルーダ様に叱責しっせきされ、ようやく気づけました。私はと結婚したいです」

 お父様もお母様もお化けでも見るように驚いている。


「そんことより魔力封じを解除してください。そして、魔法を使えるように先生をつけて欲しいです」

 チートな設定は最大限活かさせてもらわなくては。


「うーん。アリエルの願いならかなえてやりたいが、その力は奇跡だと言われるくらいの魔力量だ。だからとても危険で子供ではあつかえないものなんだ。もう少し身体も心も成長するまで待った方がいい」

 真剣な眼差しで私の両手を握った。

 大きな手にすっぽりと収まる小さな手。

 今できることは限られていると思い知るには十分だ。


「でも、お父様……」

 心は大人なんですけど、とは言えず、なんとか説得しようと甘えた声で反論しようとするが、私がいとおしくてたまらないという顔をされ、お父様を説得するのは難しそうだった。


 だけど、持っているものを使えないのは持っていないのと同じだ。今は無理でも、せめて使いたい時が来たらいつでも使えるようにだけはしておきたい。


「わかりました。今は諦めます。でも、この力は王家も知っているんですよね。しかも、この魔力封じをしたのは王宮魔術師。私が将来王子の婚約者にならなくても、この魔力封じを解除してくれるでしょうか?」

 痛い所をつけたのか、お父様の表情が一瞬変わる。

 私を婚約者にすると、お父様が強気なのもこの魔力の為だ。

 もしも、王家と対立することがあれば、この力は脅威でしかなくなる。そんな力を王家がやすやすと解放してくれるとは思えない。

 その証拠に、ほとんどのルートで私の力は解放されないまま厄介払いのように勇者に押し付けられるのだ。


「アリエル、なんだか急に大人になったようだな」

 お父様が驚いたようにポツリとつぶやく。

 そりゃあ中身は大人ですから。


「いいだろう。今すぐその魔力封じを解除することはできないが、それを解除できる者を探そう」

「本当ですか! お父様大好きです」

 私は嬉しさを表現するために、お父様に抱き付いた。

 これから先、いざというとき見捨てられないよう、家族とは仲良くしたい。

 打算的だけれど、そうすることで家族も守ることになる。


「フフフ、アリエルが元気になってくれてよかったわ」

 ふわりとほほ笑んでお母様が私たちの頭を包み込むように抱きしめてくれる。

 甘く、花のような香りに包まれて、心が満たされていく。

 私の第二の人生まだまだ始まったばかりだ。

 絶対幸せになってやる。


 決意新たに家族との絆に浸っているところ「あの……僕もいいですか?」と遠慮がちに声をかけられる。

 僕?

 腕の隙間から入り口を見ると身なりのいい、お父様によく似た、真っ赤な瞳と髪の男の子が立っていた。



 下僕げぼく……じゃなかった弟。

「ユーリ」

「もちろんよ。さあ、いらっしゃい」

 お母様が嬉しそうに手を広げる。

 恥ずかしそうにモジモジして「お姉さま、元気になってよかったです」とほほ笑んでお父様の横からギュッと私を抱きしめた。


 可愛い。

 弟ってこんな感じなんだ。

 前世で姉弟はいなかったし、今までもほとんど面識がなかった。


 

 アリエルはこの弟のことが鬱陶うっとうしい……というか大嫌いだった。

 本編前は名前しか出てこないので、こんな幼少期の姿をまじまじ見る機会がなかったけど、上品で洗礼されている。

 どこからどうみても大事にされた公爵子息だ。

 青年になったユーリはすでに姉を嫌っており、腹黒キャラでもあるので、幼少期がこんなに可愛いなんて知らなかった。


「あの、ユーリ。いままでいじわるしてごめんね。私ユーリにやきもち焼いていたの」

「え?」

 一同みな私の顔に釘付けだ。

 まあそうでしょうね。めったに会わないのに会えば意地悪していたんだから。

 お父様なんてあからさまに、ポカンと口を開けている。



「だって、私とお母様は領地に残されて、あなたはいつもお父様と一緒に王都で暮らしていた。お母様が社交シーズンで王都に来ても、いつも私は留守番だったし、うらやましかったの」

 そして王都に残る弟を妬んでもいたが、それはこの場では流石にいえない。


 ユーリはアリエルほどではないが強い魔力を持っており、アリエル同様魔力封じをされたが、5歳の時には元来の才能と器用で几帳面な性格のため暴走を引き起こすこともなく上手に制御することができていた。


 将来、王子の側近になることもあり、早くから優秀な教師が付けられ訓練を受けている。

 しかし、やはりいつ魔力が暴走するとも限らないので、アリエルは領地で暮らすことになった。


 アリエルはずっとユーリが憎かった。

 自分の方が魔力量が多いのに、魔力を使う事を許されず華やかな王都から追い出され、領地に閉じ込められているのは全部弟のせいだと恨んでいた。

 だから、事あるごとに攻略対象であるユーリをいじめる。


 ああ、なんて可哀そうなアリエル。

 アリエルがこうなったのは、言っちゃ悪いけどお父様とお母様の責任である。良かれと思って二人を離したのかもしれないが、離れた距離は心の距離と同じだ。

 家族愛ってこじれるとほんと当人同士ではほどくことができない。


 でも、大丈夫。

 私の心はもう大人だから、親が間違いを犯すことを知っている。

 そして、八つ当たりするべきは弟ではないことも。


「ユーリ、私と仲良くしてくれる?」

 怒っている顔しか見たことがなかったユーリの髪がボッと燃えるようになびいて、瞳がキラキラと輝き出す。

 アリエルが王都に来ると、無視されるか、嫌味を言われるか、罵倒されるかだったのだ。ユーリ自身アリエルからこんな優しく話しかけられるとは想像もしていなかったのだろう。



「お姉さま、喜んで」

 頬をピンクに染めながらユーリが私を抱きしめてくれた。

 ちょろすぎ……。

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