第24話 終活。 ヒロインと友達になる 3
「大丈夫、転生者同士助け合いましょう」
マリーは私の手を握ると「絶対アリィは断罪させないから」と約束してくれた。
「よろしくお願いします」
「あ、そうそう、転生者だってことはなるべく隠していた方がいいよ。私の場合お告げがあったとかごまかせるけど。悪役令嬢の場合、魔女だって言われかねない。それと他に転生者がいたら報告して」
マリーはいちごジャムのいっぱいついたクッキーを一口で食べると、もぐもぐさせながらごくんと飲み込んだ。
私が唖然としていると、もう一つ今度はチョコクッキーを手に取り口に放り込む。
「クッキーはね、こうやっておしゃべりしながら食べるのが美味しいのよ。本当はポテチがいいけど」
親指についた粉をペロリと舐め、ニヤリと笑う。
確かに。
「そんなに転生者なんかごろごろいるかな」
「何言ってるのよ。11歳で私達出会っちゃったのよ。これから先、転生者に遭遇しないとは言えないでしょ。用心に越したとないから。私の時みたくほいほい引っ掛けに引っかからないでよ」
別にホイホイ引っ掛かったわけじゃないんだけど、やっぱり気を付けるに越したことはない。
「うん、わかった」
「その顔は分かってないわね。もしも転生者がシナリオを知っていれば権力を握ろうとしてもおかしくないし、聖女と悪役令嬢なんて利用されそうでしょ」
「そっか。気を付ける」
「でも、少なくとも聖女さまからの冤罪は無いってことだよね」
「甘い」
「何が?」
「言っておくけど、私は聖女になる気が無いけど、他にも聖女候補は何人もいるんだよ。現に、ゲームではメインヒロイン以外でもプレイできたし。学院を卒業するまで、用心しなくちゃ」
がっくりと肩を落とす私に、マリーはさらに追い打ちをかけた。
「むしろ、誰が聖女になるのかわからない分、知らないうちに罪をでっちあげられる、なんてことになりかねない。今のアリィに近づいてくる令嬢は片っ端から疑ってかかるくらいじゃないと」
まあ、確かに。お前のいるパーティーにはいかない宣言を王子様にされているんだから、それでも私を誘ってくる人物は、怪しい。
「マリーがいてくれて心強いわ」
ホントに……この世界がゲームの世界だなんて下手したら私の妄想かもしれないって不安だった。
マリーのおかげで、妄想じゃないことが証明できるし、メインヒロインが味方なんて、どう転んでも生き残れる気がする。
「申し訳ないんだけど私、来月から神殿で学ぶことになったの、そうなれば簡単に会うことはできないし手紙のやり取りにも制限がかかる」
「え! 何で? せっかく仲間ができたのに」
「私も、神殿に行くのは気が重いのよ。光属性を持つものは中等部に上がる前の一年、予備候補生として適性を磨くの」
そんな制度があるんだ。
「まって、もしかして聖女候補って貴族令嬢でも中等部から学園に通うの?」
この世界の中等部は地球の中学校と同じ扱いだが、主に商売人の子供や外国の留学生、平民から騎士を目指すもの、芸術に秀でたものなどが高等部に上がるために、礼儀作法含めて学ぶ場所だ。
ほとんどの貴族は自宅で礼儀作法や教養を身に着けるので高等部からの進学になる。
勿論私も、高等部だ。
特に、令嬢はよほどの理由がない限り、中等部から通う事はない。
ただ、例外もある。
下位の貴族や領地経営がうまくいかず自費で教育ができない貴族。
そして彼らが高等部に上がった時に、貴族社会に馴染めるように指導する同年代の貴族が入学する。
実はエルーダ様やユーリやソールも指導者として学ぶために中等部から入学することが決まっている。
「いいえ、予備候補が終われば正式な候補生として高等部に上がるまで、神殿で学ぶのよ」
「じゃあ、予備候補から外れれば戻って来れるのね」
「うん、できるだけ早く聖女の資格なし、って烙印を押されてくるから、あなたも魔法が使えるように頑張って」
なんだかマリーが言うと簡単そうに聞こえるけど、神殿を欺くことなんてそう簡単じゃないはず。
「あ、そういえば私の1番はネイト王子だけど、2番目はユーリくんだったの。可愛い弟が欲しかったし。でも、この前会って、無しだなって思った。いくら可愛くてもシスコンを拗らせてるのは勘弁だわぁ」
マリーは「あはははは」と大声で笑った。
「マリー、あなたもその笑い方、ヒロインぽくないよ」
「えへ」
首をかしげるマリーは可愛いけど。貴族令嬢としては完全にアウトだ。
でも、ゲームの中のヒロインより、こっちのマリアンヌの方が好きかも。
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