第3話 終活! 生き残るためにまず謝罪
私の左手の甲には薄い桃色の少しラメが入ったキラキラ光る魔法陣がある。
攻略対象は軒並み魔力が強く、幼少期は皆魔法陣で魔力を封じられていたが、キャラのレベルが上がっていくと魔法陣を王宮魔術師が消してくれる設定だ。
ほとんどの攻略対象が10歳前後には魔法を制御することができ、魔法陣を解除されていた。
当然だ、だって乙女ゲームだもの。
ちなみに公式ヒロインは金色の魔法陣が施されていた。
実はこのゲーム、公式ヒロイン以外にもヒロインが選べる。聖女候補はマリアンヌ様の他にタイプの違う令嬢が数名いたり、なかなか自由な設定だ。しかも、悪役令嬢を選んでプレイすることもできる。
ただし、悪役令嬢である私はレベル上げが難しく魔法陣が消されることは
そういえば、もう一人なかなか魔法陣を消してもらえない人物がいる。
私のバットエンドの相手……勇者だ。
この人は数々の不幸設定をされていて、学院に入る少し前まで奴隷として暮らしているという本当にかわいそうな攻略対象なのだ。しかも、難易度が高く攻略失敗すると悪役令嬢と結婚させられて破滅してしまう。
魔王を倒すキャラなのに討伐失敗以外で破滅ってありなの?
しかも、不幸キャラで人気が出たので製作が調子に乗ってさらなる不幸エンドを追加したといううわさまである。
勇者と結婚して破滅エンドは勘弁してほしいけど、今現在一番不幸なのは私より奴隷として生きている勇者かもしれない。
うーん。
できれば奴隷の身分からだけでも助けてあげたい。
奴隷で魔力封じの魔法陣を施されているのは珍しいだろうけれど、幼少期どこにいるかもゲームでは語られていないので探しだすのは難しい。
可哀想だけど、どうしようもない。今の私は無力だ。
フー、とため息を吐き、自分の桃色の魔法陣を眺めながら勇者を思い浮かべる。
確か藤色の魔法陣を持っていたはず。
大人の姿しかわからないけれど、綺麗な水色がかった銀髪だった。
ん?
藤色の魔法陣?
そういえばどこかで……。
「あ!」
急に大声を出したので、アロマが慌てて飛んでくる。
「何でもないの。ただ、子供の頃、領地で藤色の魔法陣を見たことがある気がして……アロマ、私の他に手の甲に魔法陣がある子供を見たことある?」
「申し訳ありませんお嬢様、私はもともとお嬢様の魔法陣も見えません」
あ、そうだった。魔力持ちにしかこの魔法陣は見えないことを忘れてた。
「でも、スティーブ様ならずっとお嬢様の護衛ですし何か知っておられるのでは?」
「アロマ、ナイスだわ」
「ナイス?」とアロマは首をかしげているが、褒められているのは伝わったのだろう。スッとお辞儀をして部屋から出て行く。
たぶんスティーブを呼びに行ったのだ。
「お嬢様がお目覚めと聞き安心いたしました。訓練をしていたのもので、このような恰好で失礼します。お急ぎでなければ着替えてきますが」
スティーブは額に汗をにじませ部屋に入って来た。
彼は公爵家騎士団、青の騎士所属だ。
公爵家には3つの騎士団があり、赤の騎士は要請があれば国の騎士団に合流して一緒に戦う。白の騎士は主に領地を守っている。そして青の騎士は公爵家に忠誠を誓い、どんなことがあっても公爵家のみの命令に従う事を王家から許されている
何故そんな人物が悪役令嬢の護衛騎士をやっているかというと、後継者である弟についていた護衛を横取りしたのである。
ウッ、私って酷い人間。
「別に構わないわよ。わざわざ呼び出してごめんなさいね」
着替えてこないのは、呼び出しに遅れると私が
本当に、申し訳ない。
でも、大丈夫。前世を思い出したからには、悪役令嬢にならないように使用人にも優しくするから。
にこりと微笑んでスティーブを見ると、目を見開いて驚いている。
え?
何、もしかして謝っただけでそこまで驚かれるほど、私ってこの年でやらかしている……よねやっぱり。
「えっと、スティーブ。この際、今までの私の態度を謝りたいの」
「……」
「意地悪やわがままを言ってごめんなさい。それと、騎士を馬鹿にするような発言をたくさん言って申し訳なかったです。こんな私を護衛してくれてありがとう」
「……」
スティーブからの反応がなくて、やっぱり怒っているのかと顔をじっと見るが、怒っているようではない。
まだ驚いた表情のまま固まっている。
私の言葉か耳に入ってる?
「スティーブ? いきなりこんなことを言って信じられない気持ちはわかるけど、これからは行いで示していくから」
そうよね。
わがまま令嬢が、謝ったからって素直に信じられないのは当然だ。
何か良からぬことを考えていると疑われても仕方ない。
こういうことはやったほうよりやられた方のが覚えているものなのだ。
放心状態のスティーブを見かねて、アロマが後ろで咳ばらいをする。
「と、とんでないですお嬢様。これからも誠心誠意つとめさせていただきます」
多少どもっているが、スティーブは慌てて礼をした。
まあ、すぐにとはいかないだろうけど。少しでも印象が良くなるように頑張ろう。
「ところで、スティーブ。ちょっと聞きたいことがあったの」
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