7歳にして人生を悟る
「君がここにいることはマギにとって間違いなく不都合でしょう。それでも魔法陣を解除して欲しいですか?」
これは、重要な選択肢のような気がする。
ゲームの通り、シナリオにのっかってチャンスが来るまで待つか。今ここで解除して反撃するか。
どうするのがベストなのか考えている俺に「覚悟ができるまで待ちましょう。その方が面白そうだ」と、まるで悪役のような笑みを残してサスキ様は部屋を出て行った。
あまりにも、大物っぷりのオーラに、思わず記憶をたどる。
彼はモブだよね。
「うーん、初期でブラバした俺に思い当たるわけもない」
それにしても覚悟か。
さすが200歳だな。
見透かされている。
俺をこんな境遇に追いやった、すべての人間に復讐してこの国を乗っ取るか?
自分で思いついたシナリオに、われながらおバカだとため息をついた。
ちょっと考える時間が必要だ。
*
「
前世を思い出したときには自信が持てなかったが、サスキ様との会話で確信した。
「俺は忌み嫌われ捨てられた双子の片割れ、のちの勇者になる人間」
不遇の勇者。
そのシナリオが微妙にズレてきている。
ビエラとの出会いも、その師匠であるサスキ様との出会いも俺にとっては幸運と呼べるものだ。
この出会いはシナリオにはない。
そもそも不幸設定のラキシスに幸運な出会いなど用意されているはずがないのだから。
「じゃあなぜ、幸運なことが起きたのか」
シナリオにない、勇者ラキシスが前世を思い出し奴隷商人から逃げ出したからだ。
シナリオ通りに動かなければ、今後も、設定を大きく変えられる可能性がある。
もしも、前世を思い出していなければ、ゲーム開始の時まで性奴隷のまま何年も悲惨な生活を送っていただろう。
「ほんと、前世を思い出してよかったぜ」
キャラとして不幸な運命はよくある本編の前振りなので仕方ないと言えばそれまでだ。
登場人物が不幸であればあるほど、そのあとの一発逆転が痛快になる。
みんなそれを期待している。
それなのに彼には、ハッピーエンドは用意されていない。なぜなら彼は不幸キャラ。その不遇な運命が人気のキャラなのだ。
「いくらチートで無双で人気キャラでも、それが自分におこるなんて悪夢だろ」
全然面白くない。
不幸キャラなんて糞食らえだ。
「シナリオに乗っかるはなしだな」
*
己の不幸に怒りが込み上げた
うーん、この場合復讐相手は
そしてチートな力で復讐を果たし運命に打ち勝つ。って言うのなら、この先『有り』な展開か?
プレイヤーからしたら有りだな。
いくら不幸で可哀想なキャラが推しでも、最終的にハッピーエンドに文句を言う奴はいないだろうし。ざまあは大事。
「復讐という響きは奴隷スタートからの流れではテンプレだしな」
あくまでもゲームの場合だけど。
現実世界になった現状ではまた別。そんなに簡単に方向性は決められない。
正直、復讐を誓うほど被害は受けていない。
結局俺自身は奴隷にもならなかったし、魔法封じされてはいるがもともと魔法のない世界から転生した身としては、まだ実感はない。
これがなぁ、転生前も高校生とか若かったら、「ふざけんな」って復讐にも燃えるんだけど、中身もうおっさんだしな。
人生、理不尽なことはあちこちに転がっている。
「せっかく異世界でチートなんだから最終的には復讐よりもハーレムとか楽しむ方向で生きたい」
うん、ハーレムはいいな。
便利な日本の生活とハーレムなら究極の選択として有りだ。王様っていうのもいい。
あ、その場合この国のように魔王とか魔獣とかそんな問題を抱えていない。どこか別の石油王みたいな贅沢な暮らしができるところだな。
「うん、これも有りだ」
俺は山頂近く、崖に突き出した大きな岩の上にゴロンと寝そべって星を見た。
「贅沢だな」
彼がこの異世界に生まれて、ずっと夜の空には星がきらめいていたけれど、それは眺めて綺麗だと思う対象ではなかった。夜道で迷わないための地図であり、危険から身を守るための明かりに過ぎない。
だが都会育ちの俺からしたら、こんな満天の星を見たのは初めてだ。
前世を思い出して、それほど変わらないような気がしていたが、やっぱり元の彼とは違う人間になったんだ。
「なんでこんな面倒なキャラに転生しちゃったんだろう。どうやったらのんびりスローライフにもってけるかなぁ」
本当はわかっている。
ここが日本じゃない以上、邪魔者は排除するしかない。わかっててももう少しこの平和を満喫したい。
*
「
ひょっこりとビエラが顔を出す。
「別にさぼってない。ちょっとこの世界がゲーム……じゃなかった、物語の世界なら、俺の立場だと復讐はありかな、って妄想してみた」
俺が素直に答えると、ビエラは大げさにため息をついて、俺の横に腰を下ろした。
「好きにすればいいんじゃないの? 会って決めてもいいし」
「でも、師匠に俺には覚悟が足りないって言われた」
「別にそれは復讐とかの覚悟じゃないだろ」
「殺すとか?」
俺が恐る恐る遠慮がちに聞くと、ビエラは呆れたような顔をして俺の頭をぐちゃぐちゃにかき混ぜた。
「ちょっと、何するんだよ!」
「お前が馬鹿なことを言うからだろ、師匠がそんな意図で言うわけない。あの人はそういう世界が嫌でこの山に暮らしているんだし、マギとも考えの違いで今は絶縁状態だから」
でも、あの話の流れだと、殺される前に殺せ的な話に聞こえたけど。
「それじゃあ、覚悟ってなんの?」
「それは教えてやらない、自分で考えるもんだろ」
それが分からないから聞いているのに、役に立たない奴だな。
でも、ちょっと安心した。復讐とか殺しの覚悟が足りないって言われてるんじゃなかったら。別にハーレムエンドを目指してもいいってことだよな。
その前に爆死しないようにしなきゃならないけど……。
「まあ、ヒントはやらんでもない」
「もったいぶらずに言えよ」
「初めて師匠に会った時のこと覚えているか?」
初めて会った時「いろんなものに縛られた魂だな」と笑われたのを思い出す。
その言葉はストンと胸にしみわたり、俺を焦らせた。
前世、ゲーム、シナリオ、運命、魔法封じ。
バッドエンドを考えると身動きが取れなくて、どう行動すれば正解なのか分からなくなっていた。
「俺はただ自由を手に入れたい。誰かの思惑に踊らされるんじゃなく、俺が思う通りに生きたい」
「そうだな」
ビエラがらしく無く優しいので、俺は「ふん」とそっぽを向いてやった。
そっか、この世界がゲーム通りのシナリオで進んでいっても、俺がそれに縛られる必要はないんだ。
「復讐をするとかしないとか関係ない。俺は俺が自由に生きるために行動すればいい」
師匠の言う覚悟は、たぶんこの世界で俺の人生を生きろってことだ。
よし。ここからゲームを乗っ取って、好き勝手生きるか。
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