弟子入りする
「やっぱ、お前の髪目立つな」
もうこの色になってかなりたつのに、珍しそうにビエラが水色がかった銀髪を一房つまんで眺める。
師匠サスキ様は想像以上に優秀な魔術師だった。
優秀過ぎて、難しい質問ばかりするけれど。
髪と瞳に魔法がかけられ、本来の色を変えられていたのを元に戻してくれたのだ。
「これがサスキ様の弟子、マギの仕業だったとはね」
「ちょっと、誤解を招くよな言い方やめろ。師匠の弟子は僕だけだよ。マギはただの同僚」
師匠が師匠なら、ビエラもただ者じゃなかったらしい。
王宮勤めの魔術師が同僚って。突っ込んだ方がいいのか?
と思ったが、本人は隠している訳じゃなさそうなのでみんな知ってることなんだろう。
それにしても、なぜ田舎の魔術師なんてやっていたんだ?
まあ、聞いても答えてはくれないだろうけど。
「やっぱり、素性を隠すためだよな」
「まあ、君が双子の片割れだってばれたら大ごとだろ」
ビエラは楽しそうに俺のほっぺを引っ張って「どおりで品があると思ったよ」と笑った。
「
極秘事項のはずなのに、全く気にしていない様子だ。
嫌なことを思い出して、不機嫌に手を払いのける。
双子の運命。
そもそもその設定が不幸の元凶なのだ。
「なぜ、魔力の大きい俺の方を捨てたんだろうな」
ひがみでもなんでもなく、ただ純粋に疑問を口にしてみた。この世界で魔力は絶対の権力だ。地位が高くなればなるほど、魔力量が多いという事は有利な事なのに。もしかして片割れはチートな俺よりさらに魔力量が多い設定なんだろうか。
いまいちその理由が思い出せない。
「あ~、なんでもっとちゃんと設定読み込んでなかったんだろ」
「相変わらず訳の分からんことを言ってるな。魔力の強い方を手放すってのは、あれじゃない? 自分の脅威になっちゃうから?」
なんだその理由。
継承争いで、親子で殺し合うとか。
「最悪だなそれ」
「まあ、普通じゃないの」
普通なのか。
「じゃあ、本当に脅威になって現れたらどうなると思う?」
「邪魔者として消されるか。手を取り合うか。殺されないように戦うか?」
手を取り合うは、不可能だろ。
そもそもそれが可能なら、捨てられてないし。
どんどん沈んだ気持ちになったが、迷っている暇はない。
邪魔者として大人しく消されるわけにはいかないのだ。
「殺されないように戦うってのは、復讐とは違うよな」
「まあそうだね」
呑気にビエラは相槌を打ったが、この場合いどう考えても最終的な獲物は王様だよなぁ。
「ラキシス、急いで決める必要はないって言ったろ。会ってから考えればいいさ」
次の日、サスキ様に魔力封じを解いて生き残れる勝算が俺にあるか改めてきいた。
うん、そこは重要。
初めから勝ち目がないなら戦い方を考えなおす必要がある。
「今すぐは無理ですね。ですが魔力封じを解かないまま魔力制御を習得する方法はあります。しかし、これはいずれラキシス君がマギを越える魔術師になるのが前提です」
「俺がマギを越える魔術師に?」
「そうです。基本的にどんな魔法も掛けた本人しか解除することはできません。それを無理に解除すると行き場のなくなった力は、かけた本人とかけられた人間に攻撃として向かっていきます。かけた人間はもともと自分の力ですから受け止められますが、かけられた方は大抵は受け止められません」
それは確かに、覚悟がいるな。
「そこで君がマギの力を跳ね返すことができるまで、マギの魔法陣を身代わりに移します」
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「猫でも豚でも、木の人形でもいいですよ」
「豚って……そんなことしてマギに気づかれないのか?」
「私を誰だと思っているんです? これでも天才ですよ。マギは自分の魔法陣が君から移動したことには気づかないでしょう」
得意そうに胸を張るサスキ様を見て、なんだか肩の力が抜ける気がする。
天才ならマギに直接解除するように言ってくれよ。とも思ったが今では弟子じゃないというほど仲がこじれているようなので、俺が頑張るしかない。
「魔法陣を身代わりに移せば、俺は魔力を使えるようになるんですね」
「使えるようにはならないかな。そもそも制御できないから魔力を封じられてるんでしょ」
確かに。
「私が、魔力制御の魔法陣を身代わりに移すのと同時に、ビエラに同じような魔法封じを君に施してもらいます。そうすれば、少しづつ魔力が使えるように調節できるからね」
なるほど。
よし。
「サスキ様。魔法封じを解除して、俺が魔法を扱えるように教えてください」
「君の魂は面白そうだからうれしいよ。今日から弟子ということで、せいぜい頑張ってね」
爽やかに肩をポンポン叩かれ、何だか背筋がぞわぞわと寒気が走る。
あれ?
なんか間違った?
俺はサスキ様の笑顔を見て、前世を思い出してから一番不安な気持ちになった。
※ 2章 「勇者7歳 前世を思い出す」 了
次回から3章スタート!!
いよいよヒロイン登場!
ヒロイン、悪役令嬢と王子との三角関係はあるのか?
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