第49話 悪役令嬢は虫よけに使われる
数日後、私はなぜか4階に設けられている特別室でお茶をしていた。
1人でゆっくりとお茶を飲むには素敵な部屋だけれど、横には現在光魔法が一番強いとされる聖女候補フェリシア様と何を考えているのかわからないエルーダ様が座っている。
さっさと帰っていればよかった。
ユーリの忘れ物を届けに生徒会室に寄ったのがいけない。
廊下のステンドグラスのあまりの美しさに見惚れていたら、エルーダ様が慌てて私の腕をつかみ「ちょうどいい所に。話がある」とこの部屋に押し込んだのだ。
中にはすでにフェリシア様が、機嫌よさそうにお茶を飲んでいたのに、私の顔を見た途端、真っ赤に塗られた口紅が歪み、一瞬だが鬼のように眉を吊り上げてこちらを睨んだ。
ううっ、怖い。
わかってますよ。私、邪魔者ですよね。
「アリエル嬢にもお茶を」と言ったきり、エルーダ様は無表情でお茶を飲んでいるし。
しかも、視線はフェリシア様じゃなくて私にさだめられている。
何これ????
なんの罰ゲームですか?
「殿下。お話とは何でしょうか?」
もうこうなったらさっさと用件を聞いて退散しよう。
「生徒会についての話だが、部外者には聞かせられないのでまずはフェリシア嬢の話から聞こう」
げっ、そんな言い方、あきらかにフェリシア様を追い出そうと思ってますよね。
フェリシア様もそう感じたようで、濃いめのチークを入れた頬がどんどん青くなっている。
私、もしかして虫よけにされてる!?
フェリシア様のお家は侯爵家なので、殿下の婚約者としては有力と言える。彼女の敵は、聖女候補と1学年上の公爵令嬢マリア様だった。
今までは「もうお前の集まるところには俺は出席しない」発言が有名すぎて、私はスルーされていたけれど、はっきりとフェリシア様の瞳に敵意が浮かんでいる。
平穏な学院生活が!
*
「わたくしは学校運営にとても興味がございますの。殿下を煩わせるものの排除も任せてもらって構いませんし、お父様もこの学院への援助を惜しまないと言ってくださってますわ」
それって、学校運営なの?
ただ、邪魔者は消すって言ってるだけよね。
その中の筆頭が、私のような気がするけど。
「必要ない。この学院の運営資金は生徒自体でまかなうことになっている。保護者からの支払いは学費と寮費しか認められていない。それ以外を受け取れば私達が無能であると宣伝しているようなものだ」
「そ、そんなつもりは……」
フェリシア嬢は慌てて、否定したがエルーダ様はもう話を聞く気はないようで黙り込んだ。
普通の令嬢が知ってるわけないじゃない。
それにしても、ゲームではエルーダ様は俺様な上に学校運営には全く興味がなくたくさんのすり寄ってくる取り巻きも受け入れていたのに……。
もしかしてヒロインであるマリーとはイチャイチャできず、側近候補のユーリやソールにはちやほやされず厳しくされているので、王子様としての自覚が芽生えてきた?
「話はそれだけか?」
エルーダ様の冷たい言葉の後、いたたまれなかったのか、黙礼するとフェリシア様は部屋を出て行った。
もちろん席を立ったとき、今にも私を殴りそうなくらい血走った目で睨んでいくのも忘れない。
別にフェリシア様の味方ではないが、女の子にはもっと優しくしてほしい。
何様なんだ?
いや、王子様だね。
王子様でもやっぱりムカつく。
少しは成長しているかと思ったら、まだまだね。
と、心の中で評価しているとエルーダ様が「話なんだが」とさっきまでの態度とはうって変わって、言いづらそうに手をもじもじと組み替えている。
何?
「マリアンヌの不安は解消したから生徒会に入るように説得してほしい」
またその話なのね。
本当にあきらめの悪い男だ。
「エルーダ様。先日もそのお話はマリアンヌも私もお断りしたはずです」
「マリアンヌは奥ゆかしいんだ。聖女候補から外れ私に迷惑がかかるのを気にしているのだろう。彼女の本心は私の側にいたいはずだ」
違う!
と大声で叫びたいのを我慢したが、エルーダ様の勘違いを説得できるとは思えないので黙っておく。
「説得してくれれば、君の希望もかなえてやる」
エルーダ様は、私の望みを知っているぞ、とでも言いたそうなドヤ顔をした。
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