第19話 王子様は世間知らず
「どうしたもこうしたも、こいつがマリアンヌを傷つけようとしたから、振り払ったら勝手に転んだ」
この
反論したかったが、王子に対してただの令嬢が逆らって良いはずもない。
それに、今回は間違いなく王子の勘違いで、マリアンヌ様も私を疑っていない。
ここは反論するより、私は無害ですと言うことをアピールするチャンス。
「マリアンヌ様を傷つける? 姉さまはただ薔薇を見せてもらっていただけではないのですか? それを殿下がいきなり暴力で突き飛ばしたように見えましたが」
王子を心底軽蔑するように
「私とアリエル様、リリー様で薔薇を
さすがに王子がいきなり暴力をふるったとは証言できなかったようで、マリアンヌ様は言葉を濁した。
お茶会の主催者でもあるので、この場は勘違いならしかたない。と言うことにして騒ぎを起こしたくないのだろう。
話を合わせれば、彼女は私に貸しができるわよね。
痛い思いもしたけど、ヒロインに貸しがあるなんて悪役令嬢として良いことだ。
「勘違い?」
ユーリは心底呆れたと言うように、マリアンヌ様の言葉を反復し、「チッ」と舌打ちをした。
「ユ、ユーリ。仮にもヒロインになんて態度を……」
まだ攻略されていないとはいえ、もう少し友好的に接して欲しい。
「それが本当だったとしても、殿下が暴力をふるったことに変わりないですね。この場で王家としての謝罪を要求します」
「なっ、なにを言い出すんだユーリ。お前はいくら姉とはいえ、黒魔術を使う魔女をかばうつもりか?」
王子の言葉に、ユーリの周りが一瞬凍り付き、ブチっと何かが切れる音がした。
「冷静になれ」
「私は冷静ですよ。ソール」
これは不味いと、感じたのかリリーの後に控えていたソールがそっとユーリの横に進み出た。
万が一の時、ユーリを止めるためだろう。
「ユーリ落ち着いて、私は大丈夫だから」
私とソールで両隣を固めていれば、これ以上王子がバカなことを言ってもユーリが殴りかかるのを止められるかもしれない。
それにしても、なんで大人は誰も駆けつけないのよ。
王子の護衛とか、近くにいるはずでしょ。
「姉さま心配しなくても大丈夫ですよ。いざとなれば決闘しても良いですし」
「また、あなたはそんな簡単に」
「簡単じゃありませんよ。ソールの時とは違います。あの時は姉さまの名誉のため。今回はエルドラ公爵家の名誉のためです」
「本気か」
王子が動揺しながらも、ユーリをにらみつける。
「もちろん、本気です」
「お前は俺の側近候補なんだろ。それなのに俺に逆らうのか」
「フッ、これは情けないことを。将来殿下は自分の意見に「イエス」としか言わない
「ユーリそれはさすがに……」
ソールがユーリの横で頭を抱えたとき、王子が「不敬だ」と叫んだ。
「では、護衛を呼んで私を捕らえたらいかがですか?」
「ウッ」
「どうしたんです? 私はいっこうにかまいません。ですがその場合、陛下に申し開きした上で、決闘を申し込ませていただきます」
「……」
どうしたって言うの?
いくらユーリが怖くても。相手は王子だ。立場も権力も上。陛下という言葉がよほど効いたのか、決闘が恐ろしいのか。
みるみるうちに王子の勢いがしぼんでいく。
それにしてもユーリのこの余裕は何?
私がまじまじとユーリの顔を見ると、それに気づいたユーリが私にニコリと微笑み返してくれる。
「大丈夫ですよ、姉さま」
全然大丈夫な気がしないんですけど。
私はそっと王子の顔を伺う。
悔しそうに下唇を噛み締めたかと思うと、うつむいて何やらブツブツと独り言を言っているようだ。
「ここは2人だけの逢瀬の庭だったのに……何でこんなやつを入れたんだ」
咄嗟にマリアンヌ様を見れば、私同様驚いている。
ここに護衛がいないのは、マリアンヌ様と2人きりになるためじゃ……。
「殿下、今日は私の開いた初めてのお茶会です。お腹立ちとは存じますがお茶会でこのような騒ぎがあったと噂になれば、私は恥ずかしくてしばらくは王城にさえ伺うことができません」
うるうるした瞳でマリアンヌ様が王子の両手を握りしめ、心なしか身体をしならせている。
さっきまでの凛々しさが嘘のように儚げな態度に
これは、もしかして泣き落としにかかってる?
「それにアリエル様は私の2番目の特別なお友達です。それなのに誤解で喧嘩するなんて、悲しいです」
「マリアンヌ」
「大丈夫です。エルーダ様。ユーリ様もアリエル様も優しいお方ですわ。ひと言殿下からのお言葉があれば許してくださいます。ね」
マリアンヌ様の最後の「ね」は私に向けられたものだ。
もちろん大きく頷く。
しばらく考えたのちに、「ユーリすまない。誤解があった」と王子が小声で謝罪の言葉を述べた。
ふぅー。良かった。
一時はどうなることだろうと思ったけど、マリアンヌ様の後押しで何とか収まりそう。と思ったのもつかの間。
「謝る人が違うと思いますが」
「ユーリ、私は大丈夫だから」
「大丈夫ではありません。姉さまは何の落ち度もなく理不尽に暴力を受けたのです。誰に謝罪しなければならないのか分からないほど殿下は馬鹿ではありません」
ユーリの言葉にわなわなと王子が拳を震わせている。
もうなんで、せっかく王子が謝ったのに。また蒸し返すようなことをして。
「アリエル嬢、突き飛ばして悪かった」
結局折れたのは王子のほうだった。
絞り出すように謝ってくれたが、目が怒っている。
ちょっと、これじゃあやっぱり最後断罪されそうなんですけど。
もしかして、これ思いっきり死亡フラグ立った?
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