友達認定
俺は、ビエラが咄嗟に投げてよこした短剣で、弟の剣を受け止めた。
このタイミングで、すぐに短剣を投げてよこすあたりビエラにはムカつく。
ドンと地響きがして、部屋の壁が崩れ落ちた。
なかなかの手ごたえだ。
お嬢様は、サスキ様が結界を張って守っているから気にしないで大丈夫だな。
俺にこれだけの衝撃を与えるんだから、見た目より軟弱ではなさそうだが。
でも、「あちこち隙だらけ」だ。
俺は、攻撃のときは魔力を使わず、弟の魔力を受け止めるときのみ魔力を使った。
5年間の修行で、今やチートである自覚はある。
やり込めるのは簡単だけど、相手は公爵家の息子。できれば彼の関心をひきたくない。
アリエルがヒロインでも悪役令嬢でも、その弟というのは攻略対象者である可能性が大きいからな。
サスキ様、期待に応えることはできませんから。
俺は、真面目な顔をして、サスキ様に睨みをきかせた。
うーん。
それにしても、こいつはどうするのが正解だ?
とりあえず、実力差が目立たないように、さりげなく隙を突いて反撃してみる。
手を抜いてるのを感じたのか、向きになりキャンキャン吠えながら打ち込んでくる。
子犬か?
なんとも可笑しくて、弱点を気づかせるように相手をしてやる。
散々サスキ様に反抗しているのを見ていたのに、上達させてやりたいな、という不思議な気持ちになってきた。
「姉さまに何をした!」しゃべる余裕が出てきたのか何度も叫んでいる。
こいつもしつこいタイプか。
しつこいのはビエラだけで十分なのに。
「昔、領地で会ったことがあってそのとき一緒に襲われたことがあるんだよ」
弟は自分で聞いてきたくせに、俺が答えると、え? という顔をする。
その隙を逃さず打ち込んでやる。
「護衛に助けてもらったけど、きっとその時のことを思い出したんじゃないか」
それ以外俺を見て怯えるなんて理由が思い浮かばない。
「姉さまが領地で襲われた?」
呆然とする弟は、それでも手を緩めずに俺に剣を振り下ろす。
上の空で考え込んでいるようなので、この辺で終わりにしたかったが、何故か自分の責任のようにつらそうな顔をしていたので、ここは大人としてもう少し相手をしてやることにする。
思い悩んでいるときは、思いっきり剣に打ち込むのが一番なのだ。
さっきまでの手加減をやめて、こちらからも攻撃を仕掛けていく。
どれくらい時間がたったか、弟の顔が楽しそうな表情に変わる。
「楽しいか?」
そう聞くと、はっとしたように俺の目をマジマジと見た。
にやりと笑ってやると、少し照れたように瞳が揺らめく。
美少年のこんな顔はめっちゃ、微笑ましいな。
やっぱり、ビエラもサスキ様も俺をこんなに生温かい目で見ているのだろうか。
そうだとするとたまらなく、いたたまれない。
目の前の弟は正真正銘子供だが、なんといっても俺は中身は大人だ。
よし、これからはビエラがこんな目をしたときは殴ってやろう。
そう決心したところで、ふらつく弟の剣を吹き飛ばして、勝負はお預けだ。
これ以上やれば怪我をする。
何事も、やめ時が肝心だ。
弟は、地面に寝転び大声で笑い出した。
「すごいな、お前」
弟が、きらきらした目で俺を見つめる。
うっ。
これって、もしかしなくてもお友達認定されちゃった?
「お褒めにあずかり光栄です。ですが年齢も体格差もあります。エルドラ様も数年もするば、見違えるように強くおなりになるでしょう」
「謙遜か? 僕も騎士団に稽古をつけてもらうことがあるけど、魔法を使えば大怪我をさせるから極力抑えてるんだ」
そうなんだ。
自分がチートすぎて目立たないレベルがわからん。
弟君レベルで騎士団を相手に手を抜かないとならないのか。
「あくまでも魔法を使えばだよ。剣術では歯が立たない」
俺の考えていることがわかったようで、遠慮がちに付け足した。
それでも大したものである。
「よかったらここにいる間、練習相手になりましょうか?」
自分でも意外な言葉にちょっと驚いた。
自分のことで手一杯だし、弟と親しくなればその姉とも接触が増えてしまう。
「本当か!」
「まあ、サスキ様がいいと言えば」
「ありがとう。ずっと魔法を使い剣術で対戦できる相手が欲しかったんだ」
子どもらしい笑顔が眩しい。
あんなにサスキ様に突っかかっていたのが嘘のようだ。
懐かない猫を手懐けたような満足感がわいてくる。
まあ、ちょっとの間だしな。
「そこの2人。友情を深めるのはいいが、破壊した部屋を片付けてからにしてくれ」
サスキ様に喝を入れられ、俺と弟君は部屋の掃除に集中した。
お嬢様を見れば、サスキ様の影に隠れて俯いている。
あとで、サスキ様に理由の確認が必要だな。
近寄らないようにしようとは思ったけれど、相手から避けられているのを放置しておくわけにはいかない。
はぁ。
まだ12だって言うのに、ちょっと偶然が重なりすぎてるな。
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