第4章 夏合宿編 六十七話 襲撃


 ――森襲撃の僅か数分前、森の東側の結界の外に十数人の部活を従えた小柄な男が何者かと魔力結晶で通信をとっていた。


「で、狙うのは生徒でいいんだよなぁ?」


『嗚呼、特にノワールからの報告にあった4人は最優先だ。それ以外の生徒は最悪殺してもいい』


「了解、それでその4人の位置はわかってんのか?」


『次席の奴は宿舎にいる事が分かっているがそれ以外は不明だ。と言っても全員森の中に居るのは確実だろう』


「ならその3人は俺の獲物だな。楽しくなりそうだぜぇ〜」


『ゲルト、忘れてないだろうな。首席と戦闘の際は必ず……』


「んな事言われなくても分かってるよ、首席と殺り合う時は複数人でだろ。チッ……気に食わねぇ」


『気に食わなくてもそれが命令だ、命令には従え。それと、殺り合うでは無い生け捕りだ。いいか?』


「へぇへぇ、そっちも精々しくじらないようにな」


『言われなくとも、失敗は許されん。……時間だ、作戦を開始する』


 その直後、結界内の敷地は一瞬で激しい戦場へと変化した。


 ▽▲▽▲▽▲▽▲


 転移門ゲートで川エリアに移動した俺は直ぐに魔力探知レーダーを発動し敵の位置を確認する。


 クソっ、移動したは良いけど敵の数が多すぎる。エリン先生は少なくとも15人って言ってたけど20は居るって思った方が良いな。


『レオ、聞こえるか』


「アレクか、どうした?」


『1つ伝え忘れた事があってな。敵はなるべく生け捕りにしてくれ。色々と聞き出したいこともあるのでな。だが、やむを得ない場合は殺してしまっても構わん』


「……分かった、覚悟だけはしておくよ」


『嗚呼、……悪いなレオ』


「別にお前が謝ることじゃないだろ、悪いのは全部あいつらだ」


『ふっ、それもそうだな。そっちは任せたぞ』


「嗚呼、そっちもな」


 アレクの言葉にそう返し俺が通信を切ると魔力探知の端で複数の魔力反応が集まっている事に気づく。

 その直後、同じ方向から生徒の叫び声と魔法を使ったであろう音が響いてきた。


「あっちか、『天使の光翼エンジェル・ウィング』!」


 俺を中心とした魔力探知の端までの距離は約200m。この程度の距離なら光魔法を付与エンチャントして飛べば直ぐに着くはず……。


「見えたっ、あれか!」


 移動開始してから数秒で敵を目視できる位置まで移動した俺は敵を視認すると異空間収納から白夜と黒影の2本を取り出す。


「はぁっ!」

 

 取り出した2本の剣を構え攻撃態勢に入った俺は黒ローブを纏った2人組の背後から迫り切りかかる。


 が、黒ローブの2人組はどちらも背後からの俺の攻撃をギリギリの所で身体をひねり大ダメージを回避する。


 クソっ浅い、今の攻撃をあのタイミングで避けるってことはそれなりの実力者って考えた方がいいか。


「『転移門ゲート』」


 俺は2人組と生徒の間に立ち安全地帯への避難用の転移門を開き後ろの生徒達に逃げるように伝える。


「立てるか」

「お、お前は、Aクラスの」

「この扉を潜れば安全地帯に移動できる。この2人の相手は俺がするから君たちは魔物を連れて避難を」

「わ、悪い。助かっ……」

「させるかっ!」


 そう言って後ろの生徒達が逃げようとすると目の前の2人組が同時に動き出しそれを阻止しにかかる。


「それはこっちの、セリフだっ『創造クリエイション』!」


 2人組の動き出しと同時に俺は生徒と自分の間に太い木を網状にして壁を創り出す。


「っ! なんだっ」

「クッ、一旦下がれ!」


 2人組が距離をとったのを確認すると俺は剣を構え直し相手の出方を伺う……が、

 

「あいつのあの魔法、標的の4人の中の1人か」

「嗚呼、それもどうやら1番ヤバいやつみたいだ。首席と次席は5人以上で掛れとの命令だ。俺達だけでは分が悪い、ここは引くぞ」


 何やら話をしたと思ったらそのまま2人組は後退を始める。


 おいおい待てよ、もしかして逃げる気か?


「そうはさせねぇよっ、『転移門ゲート』!」


 そうして俺は下がる2人の背後に転移門を出し強制的に目の前へと移動させ、時間魔法で動きを封じ抑え込む。


「っ、一体何がっ……!」

「クッ、身動きが、取れない……だとっ!」

「ふぅ、まず2人」


 と言ってもいつまでも時間魔法で抑えられるわけじゃない。意識だけでも無くしとくか。


 白夜と黒影を地面に刺し、伏せる2人に近づいた俺はフードの上から頭に触れ破壊魔法で意識を刈りとる。


 とりあえずはこれで大丈夫か


「アレク、聞こえるか」


『どうしたレオ、早速捕まえたのか?』


「嗚呼、とりあえず今は意識を飛ばして眠らせてあるけどこの後どうすればいい? ここに放置する訳にもいかないだろ」


『捕まえた奴らは練習場へ連れて行ってくれ。見張りは先輩と2年の先生方に頼んである』


 アレクの言う先輩とはブレン先輩の事だろう。


 あの人ならこいつらが目を覚まして逃げられるって事は無さそうだな。


「分かった、今のところ俺の魔力探知には生徒と接触しそうな敵の影は無いけど他に急いで向かった方が良さそうな所はあるか?」


『いや、相手の侵入より早く動けたからか直ぐに接触しそうな班は無い。それでもまだ相手が何をしてくるか分からないからな。捕まえた奴らを練習場に置いたら直ぐに他の侵入者の迎撃にあたってくれ』


「了解」


 そうしてアレクとの通信を切り俺は転移門を開き練習場へ向かった。


 ▽▲▽▲▽▲▽▲


「どういうことだぁ、入ってみたはいいがガキが全然いねぇじゃねぇか。事前の連絡では今日100人以上の生徒がこの森にいるはずだろ」

「ゲルト様、北に向かった2人との通信が途切れました。恐らく相手側に捉えられたかと」

「チッ、どういうことだ、相手の対応が妙に早ぇ」


 それに、魔物すら1匹も見当たらねぇじゃねぇか。さっきの爆発音で逃げたにしてもこれだけ少ないのはおかしすぎる。そう、まるで人に逃がされたみてぇに。


 森の中が監督室で監視されているのはノワールの報告で確認済みだ。だが訓練中に森の中の生徒と通信はできなかったはず。まさか、それはあいつの嘘だったってことか?


「とりあえず、もう少し様子見するぞ。あと少しすればあっち側も始まるはずだ」


 宿舎が襲われればそっちも安全じゃぁ無ぇ。そうなりゃ森と宿舎で挟み撃ち状態だ、少しは今よりガキも見つけやすくなんだろ。


「さぁて、楽しい楽しい追いかけっこといこうじゃねぇか。精々俺を楽しませてくれよォ〜」


 そう言ってゲルトと呼ばれる男はその病的なまでに白い顔に不敵な笑みを浮かべて森の中を歩き続ける。

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