第2章 四大魔法学院対抗戦 後編 四十一話 決着
(んっ、ここは……どこだ?)
俺は深い暗闇の中目を覚ました。辺り一面見回してみても先の見えない暗闇ばかり、一体ここはどこなんだ?
(確か……さっきまでキョウヤと戦っていたはずだ。それで急に頭痛がして、そこからの記憶が無い。俺は今夢を見ているのか? 手足の感覚も無いし言葉も話せない、俺の身に何が起きたんだ?)
その時、遠くの方から話し声が聞こえた気がした。
俺が声の聞こえた方を振り向くと、そこにはぼんやりと光る場所がある。
(あれは……なんだ?)
しばらくその白い光を眺めているとそれが何かの映像であることと、何の映像なのかがわかってきた。
(これは、俺の記憶? あそこに映ってるのは小さい頃の修行をしている俺か……でも、何かが変だ。俺の記憶なら俺の姿が映っているのはおかしくないか?)
そう、この映像は何かがおかしい。
俺の記憶なら俺の姿が自分で見えるわけが無いし、他の人の記憶だったとしても俺は自分の修行している所を誰かに見せたことは無い。
(じゃあ一体、この光景は誰の……)
そんなことを考えていると、映像の中の小さな俺が突然倒れる。
(あれは、魔力切れか。時間と空間魔法を習得する前は魔力切れで倒れてそのまま意識を失うこともよくあった。ほんとに、今思うとあの歳でとんでもない事をしてたな)
そうして、俺が昔の事を懐かしんでいる時だった。
レオ。
(っ!?)
どこからか、俺を呼ぶ声が聞こえた気がした。
レオ……
(やっぱりだ、聞き間違いじゃない。俺を呼んでる奴がいる! どこだ、誰だ、聞いた事のない声、俺を呼んでる奴は一体誰なんだ!)
そうして俺が辺りを探してもその光景はさっきまでと変わりなく、昔の光景が映し出されている一箇所以外は深い暗闇が続くだけだった。
レオ!
何も見当たらないその中で、それでも謎の声は直接俺の脳内に呼びかけてくる。
(なんなんだ、誰なんだ、そもそもここはどこなんだ!? 知っているなら教えてくれ、俺の身に今何が起きているんだ!)
何も分からない現状と聞いた事の無い声に動揺する俺は頭の中でそう叫ぶ。そして、何度も俺の名を呼ぶ声が初めて俺の名前以外の言葉を発した。
後ろだ、レオ……。
(!)
そう呼びかけられた俺は直ぐに後ろを振り向く。そこにはさっきまでは無かった白く輝く人ぐらいの大きさの光があった。
やっと会えたね、レオ。
(っ! お前は一体誰なんだ、ここはどこで何のために俺を呼ぶ?)
ここは君の夢の中だ。君は今現実の方で何かしらの強い衝撃があって一時的に気を失い眠っている。
白く輝く光は俺の状態をそう説明した。
もうすぐ君は目覚める。けど、今の君じゃああの試合に勝つには相手の少年ごと魔力結晶を壊すしかない、そのやり方しか勝つ方法が無いと言ってもいい。
けど、君はその、やり方はしたくないだろう?
(……!)
だから君がこうして意識を失っている間に僕が他の方法を教えに来たんだ。
(他の、方法?)
あぁ、と言ってもそのやり方を君は過去に使ったことがある。ほら、見てごらん。
そう言って光は先程まで俺が見ていた過去の映像を見るよう促す。
そこには意識を失い倒れているはずの小さな俺が回復したばかりの無けなしの魔力を使い木の的を破壊する映像が映し出されていた。その映像の中の俺は未だ意識を失ったままだ。
(これ、は……)
この映像は僕の見ていた君の過去だ。君は時間と空間魔法を習得する以前より無意識だけどその魔法を使えている。
(! ……お前は時間と空間魔法を知っているのか!?)
あぁ、知っているとも。それについても話したいけど今は時間が無い。ほら、もう一度過去を見るんだ。
光に再度そう促され、俺はもう一度映像を見る。そこには壊したはずの木の的が地面から生えて元の状態に戻る光景が映し出されていた。
(今のは、一体……)
君は、不思議に思わなかったかい? 何故光と闇魔法には火や水のように派生魔法が無いのか。
(それは、時間と空間魔法があるからで……)
それは違う。時間と空間魔法はあくまで光と闇魔法を極めた先にある魔法で派生では無い。そして、この2つの属性にもちゃんと派生はあるんだ。
(なっ、それって本当か!?)
あぁ、本当さ。それが、今映像で無意識の君が使った2つの魔法。光の派生である創造魔法と闇の派生である破壊魔法だ。
(創造と、破壊……?)
あぁ、と言っても創造魔法は自分のよく知る無機物か知性の無い生命しか作り出すことは出来ず、火や風みたいな自然現象と人や動物と言った生命体は作れ無い。
(と言うことは作れるのは岩や木、剣とかってことか?)
飲み込みが早くて助かるよ。大まかにはその通りだ。そしてもう1つ、作れるものは自分が見て触ったことのある物もしくはよく理解していてイメージのできるものだ。もちろん、消費魔力は作るものによって変わる。
(なんか、とんでもない魔法だな)
けど、時間や空間みたいに理不尽な力ではないよ。それこそ作る力しか無いから直接的な攻撃力は闇魔法よりも低い。
確かに、使い方次第って事か。
次に破壊魔法だが、これも何でも破壊できるって訳ではない。破壊できるのは生命体以外だ。と言っても切られた枝みたいな生命活動を終えた物なら破壊することはできる。
ただ、それ以外で壊せない物は殆ど無い。例えそれがこの世界の
(理って……どういうことだ?)
例えば絶対に切れない壁があるとしよう。けど、破壊魔法を使いその壁の辿ってきた歴史の道筋を破壊すれば絶対に切れないその壁も切る事ができるというわけさ。
ただ、理を破壊するなんて神の力にも匹敵する。君の魔力量をもってしても使う事は不可能だろう。
2つの魔法について伝えることはこれぐらいかな。時間もない、後のことは使ってる間にわかっていくと思うよ。
(そうか……)
どっちの魔法も規格外すぎて頭が追いつかないな。
それじゃあ、そろそろお別れだ。
(あっ、その前に! お前は一体誰なんだ?)
それを教えることは、今はまだできない。
(今はって事は今後会うことができるってことか?)
それは君次第だ。君が今以上の力を求めたなら会うこともあるかもしれない。そうじゃなかったとしても僕は会えると思っているけどね。
(そうか……分かった。いろいろ助かったよ、ありがとう。えっと、名前は……)
それも次に会った時じゃないと教えることは出来ない。それよりもほら、君はもう起きるんだ。やらなければいけない事があるだろう?
そうだ、俺にはやるべき事がある。
(だな、それじゃあ、またな)
あぁ、また。
俺の言葉に光がそう返すとその世界は白く光、あまりの輝きに俺は目を細め、次第に意識を失っていく。
意識を失う直前に光が何か言っていた気がするが、その声は小さくよく聞き取ることが出来なかった。
そして遂に、俺の意識はそこで途切れる。
また、いつか必ず会える。その時まで君のことを陰ながら応援しているよ、レオ。
レオの意識が無くなりその姿が消えた世界で、謎の光はそう呟き姿を消した。
◇◆◇◆◇◆
「んっ……ここは……」
次に俺が目を覚ますと、目の前には青く澄み渡る空があった。
「 レオ君! 良かった、いきなり倒れたからものすごく心配で……」
そう言って横にいたアリシアが俺に抱きついてくる。
「ごめん、アリシアには心配かけてばっかりだな。そうだ、俺どれくらい眠ってた?」
「安心しろ数分程度だ。残りの試合時間もまだ半分以上残されている」
俺の質問に答えたのは離れたところに座るキョウヤだ。
「そうか、わざわざ俺が起きるのを待っててくれたのか?」
「そう言うわけでは無いさ。俺の役目は防衛だ、戦う事の出来ない者に魔力を使うのは得策じゃないと思っただけだ」
キョウヤがそう言うと隣に居るアリシアがそっと教えてくれる。
「キョウヤさん取り乱す私にレオ君の状態を教えてくれたんです。それで私も少し安心できて、それにレオ君が眠っている間に私を倒すこともできたのにそれもしませんでした」
「そっか、終わった後ちゃんとお礼言わなくちゃな。それで俺が気を失った理由って?」
「多くの魔力を急に使ったことによる反動ってキョウヤさんは言ってました。レオ君は普通の人より魔力量が多いのでその分反動も大きかったんだと思います」
「なるほど、そう言うことか」
そうして俺は立ち上がる。
「待たせて悪かったな。俺はもう大丈夫だ、さっきまでの続きといこうぜ」
「ふっ、いいだろう。今みたいに急に倒れてくれるなよ?」
(配慮の無い言い方に聞こえるけどさっきの話を聞いちゃうとただの照れ隠しにしか聞こえないな)
そう思うレオの口元は少し微笑んでいた。
「あぁ、心配無い。理由が分かれば避ける方法もわかるからな。同じことにはならないよ」
「ならばいい。では、行くぞ!」
そう言ってキョウヤは立ち上がり地を蹴る。
徐々に距離を詰めるキョウヤを前に俺は夢の中で教えられた2つの魔法を思い出していた。
(起きてから、不思議とあの2つの魔法が使えるような気がする。そんなことは無いのに前から使っていたような、使えていたような不思議な感覚今の俺なら……)
レオがそう考えている間にもキョウヤは自身の間合いにレオを捉えていた。
(さすがに速い! さっきは鎧纏と身体強化この2つと同時に光魔法を体に纏いながら魔法を使ったから急激な魔力の消費に体が追いつかなかったのか)
「『迅雷轟斬』!」
「クッ!」
キョウヤの攻撃をレオは何とか受け止める。
(鎧纏を使わなくても反応するだけならできるか、けどこの状態だとどうしても押し負ける。なら、ここで使ってみるか)
レオは魔力を溜めキョウヤの刀を受け止める黒影に属性を
(思い出せ、あの夢で見た過去の光景を。イメージしろ、あの光に聞いた破壊魔法のイメージを!)
レオが目を瞑りイメージする事に集中すると、徐々に黒影の刀身を黒く透明な魔力が包みはじめ、数秒後にはその刀身を完全に包み込む。
(できた! これが、破壊魔法……)
「!?」
異変に気づいたキョウヤは咄嗟に俺との距離をとる。
「今のは一体……!」
キョウヤが自身の刀の刀身を見ると俺の剣と触れていた箇所から徐々に刀に罅が入っていっていた。
「お前、一体何をした?」
「なに、夢の中で少し強くなっただけだよ」
「そうか……ふっ、面白い。この場面でまだ成長するとはな」
キョウヤは笑うと壊れ始めた刀をその場に置く。
「今まで共に戦ってくれたこと、感謝する。……悪いな中断してしまって」
「大丈夫さ、俺もさっきまで気を失ってたからね。次は俺から行くぞ!」
レオはキョウヤとの距離を詰め、間合いに入ると破壊魔法を付与した黒影で攻撃を仕掛ける。
(クッ、能力が分からない以上この攻撃を受ける訳にはいかない。有難いことに速度はさっきまでの攻撃よりも遅い、これならば避けることは容易いだろう)
キョウヤは難なくレオの魔法を避けるがレオの攻撃はそれだけでは終わらなかった。
「はっ!」
レオが短く息を吐くと黒影から黒い斬撃が飛ぶ。破壊属性の付与された魔法だ。
キョウヤはその追撃も当然避けたがその斬撃はキョウヤの避けた先へ真っ直ぐに飛んでいく。
「っ、 しまった!」
キョウヤは急ぎ黒い斬撃の進行方向まで走る。その理由は、斬撃の進行方向にソルヴァレス側の守る魔力結晶があったからだ。
「ふっ!」
何とか間に合い黒い斬撃を切り裂くキョウヤだったが、破壊魔法の効果により魔法を受けたキョウヤの刀は折れてしまう。
「これでお前の武器は無くなった、まだ続けるか?」
レオはキョウヤに歩み寄りそう問いかける。
「……いや、武器無しではこの姿と言えど勝つことはできないだろう。悔しいが降参だ」
「悪いな、こんな終わり方で」
「気にするな、その力もお前の力の一部だ。何も悪びれることは無い」
本当に、こいつはどこまでも心の広いやつだ。
レオは心の中でそう呟く。
「次は俺が必ず勝つ」
「望むところだ、その時もまた俺が勝つさ」
「ふっ、やはりお前という男は面白いな。さぁ守る者はもう居ない、終わらせてこい」
「あぁ」
そうしてレオは魔法で空を飛び、崖の上まで上がると魔力結晶の前に降り立った。
「もう1回、使ってみるか」
レオが呟くと黒影を再度黒く透明な魔力が覆った。
「すぅー、はぁー……はぁっ!」
レオは大きく深呼吸をし気合いを込めて剣を振るう。
すると、魔力結晶は切られた箇所からひび割れていき、数秒の内にその全てが粉々に砕け散った。
その直後、あのハイテンションな放送で勝敗が告げられる。勝敗はアストレア魔法学院の勝利、俺達の勝ちだ。
この瞬間、四大魔法学院対抗戦の優勝もアストレア魔法学院に決まった。
こうして、長いようで短かかった四大魔法学院対抗戦は俺達アストレア魔法学院の優勝で幕を閉じた。
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