第2章 四大魔法学院対抗戦 後編 四十話 アストレアVSソルヴァレス③


 レオとキョウヤの戦闘が激しさを増す頃、アレク達も熱戦を繰り広げていた。


 サクラとユキノも復活し、シロウものその戦闘に参加している。

 現状はアレクがカエデ、サクラ、シロウの3人を相手にしサリーとダリスがユキノの足止めをしている状況だ。

 カエデ、サクラ、シロウの3人は切り札である「奥義 神降ろし」を使っている。


「『神火轟雷』!」


 アレクが詠唱をすると空に集まっていた強大な魔力が3人目掛けて降りかかる。

 その魔法は火と雷属性が合わされており、アレクの多様する雷神の鉄槌トールハンマーよりも威力は遥かに上だ。


「シロウ!」

「わかってますよ!『闇夜の天』」


 シロウは刀を上空に構え円を描くように丸く回す。

 すると、そこに闇夜の空のような漆黒の円が現れアレクの技を受け止める。


「クッ、この威力は駄目だ、吸いきれない……」

「十分や、よく耐えたでシロウ」


 サクラはシロウに労いの言葉をかけつつ刀を構える。


「『神火の太刀・紅華炎刀』!」


 地を蹴り上空へ飛んだサクラはアレクの魔法を真横から切り裂いた。

 破壊された魔法はその形を留めることが出来ずに消滅する。


「『神風の舞・鳳凰風刃』」


 アレクの魔法が消え、視界が広がると仕返しと言わんばかりに強力な魔法をカエデが放つ。


「『砂刃旋風』!」


 迫り来る数多の風の刃をアレクは砂の刃で迎え撃つ。

 だが、神降ろしで魔力量が上がっている分、数も威力もアレクの魔法が劣りカエデの魔法全てを消滅させることはできなかった。

 アレクは数の減った風の刃を何とか避ける。


「さすがにこの状態ではキツいな……ホーク」


 アレクが使い魔の名を呼ぶと隣に小さな竜巻が出現し、その中からホークが姿を現した。


「ここからは本気でいかせてもらう」


「この肌にビリビリ来る感覚、相手さんもやっと本気出すみたいやね」

「前に立つだけでわかりますね。さっきまでよりも魔力が跳ね上がった」

「ここからが本番みたいやね、2人とも気を引き締めなあかんよ」


 カエデがそう言うと、サクラとシロウはさらに警戒を強める。

 それを見たアレクは詠唱を初め、集めた魔力を体外に纏う。


「『鎧纏・アーマード・ゼウス』! ホーク、行くぞ」

 

 目にもとまらぬ速さで3人との距離を詰めたアレクは最初にシロウを狙った。


 アレクはシロウの背後に周り腕を掴むと、そのまま自身の身体を捻り森の方へ投げ飛ばした。

 そしてシロウを投げ飛ばした遠心力を使い近くにいたサクラも蹴り飛ばす。


「ウオッ!?」

「キャッ!」


 2人が木に激突したのはほぼ同時だった。


「ふっ!」


 アレクが2人を攻撃した後すかさずカエデが攻撃を仕掛ける。

 だが、カエデの攻撃よりもアレクの魔法が発動する方が一瞬早い。


「『女神の氷壁ヘル・ウォール』!」


 カエデとアレクの間に厚く大きな氷の壁が現れ、カエデの攻撃を阻んだ。

 カエデの攻撃を防いだアレクは先程吹き飛ばした2人に追撃をする。


「『太陽神の炎矢アポロン・アロー』!」


 燃え盛る炎の矢が立ち上がったばかりの2人を襲う。

 

「『神火の太刀・陽炎返し』」

「『夜陰の帳』」


 2人は何とか魔法を発動するがその威力を消しきれず少なくないダメージを食らってしまう。


「クッ!」

「グァッ!」


 2人とも気を失うことは無かったもののどちらも地面に膝を着き神降ろしも解けてしまう。その反動でしばらく魔法を使うことも出来ないだろう。

 それを確認したアレクは2人から目を離しカエデとの間に作り出した氷壁を解除する。


「確かあの状態は1度解けるとしばらく魔法が使えなかったな。今度こそ残るはお前1人だ」

「うちら相手に1人で圧倒するなんて、ほんと化け物みたいな強さやなぁ」

「褒め言葉として受け取っておこう」


 そう言うとアレクは両手に魔力を集め、それを見たカエデも2対の扇を構えた。次の瞬間、2人は同時に魔法を放つ。


「『海神の咆哮ポセイドン・ブラスト』!」

「『神風の舞・滅刃旋風』!」


 アレクの放った荒れ狂う水の砲撃とカエデの繰り出した岩をも削ぎ切る竜巻が衝突する。

 2人の魔法が衝突すると辺り一帯に轟音が響き渡った。


 最初は拮抗していた両者の魔法だが次第にカエデが押され始める。


「クッ……ハァァァァァア!」


 カエデが吼える。


「ウォォォォオォ!」


 アレクが唸る。


 2人の雄叫びがぶつかる。

 そして次の瞬間、熾烈を極めたその戦闘に決着が着く。

 土煙が晴れた先にはアレクとカエデ、両者が膝を着いていた。2人の姿も元の姿に戻っている。


「はぁはぁ、決着……だな。元の姿に戻った以上、お前はしばらく魔法は使えまい。対して俺は、消耗は大きいが魔法を使えないことも無い。それが意味することがどういうことか分かるだろう?」


 アレクがカエデに問いかける。


「そうやなぁ、うちもクタクタでもう動けんわ。あの2人もまだしばらくは魔法も使えないことやしユキノも自分より実力の高い相手に2対1はキツいやろうしな」


 カエデは残された力を振り絞りサクラの元まで歩き、その隣にある木に体をあずける。


「それに、うちに関しては武器もこんなんやしなぁ。戦う力が残されていたとしても戦うことはできへんよ」


 そう言って見せたカエデの扇はどちらもボロボロに破損していた。


「そういうわけで、この場はうちらの負けや。後はキョウヤ君が守りきってくれることを願うしか無い」


 そして、カエデはユキノに通信をする。


「ユキノ、うちらの負けやあんたもかなり疲れとるやろこっちで一緒に休んどき」

『はぁはぁ……で、ですが!』

「ユキノなら分かるやろ? この状況で諦めんかったとしてもあんた1人じゃ相手にもならへん。今は戻り」

『クッ……分かりました』


 ユキノの返事を聞きカエデが通信を切るとユキノはこちらへ向かって歩いて来る。


「ごめんなぁ、ユキノ。うちらが不甲斐ないせいで負けてしもた」

「いえ、私も……3人が戦っていたのに何も、できませんでした」

「今回の戦闘でみんなまだまだ実力が無い事が分かった。それなら今後もっと強くなればええやろ?」

「……はいっ!」


 その光景をアレクが遠目から眺めているとユキノとの戦闘を終えたダリスとサリーが歩み寄ってくる。


「2人とも、ご苦労だった」

「お前もな、1人で強敵3人相手にして勝ったんだ。お前がいなかったらと思うとヒヤヒヤするぜ」

「だね、私達がやった事と言っても2人がかりで足止めしてただけだし。2人みたいにもっと強くならないと」


 サリーの言う2人とはアレクとこの場にいないレオの事だ。


「そうか、とりあえず後の事はレオに任せよう。あっちの戦闘の結果でその後の動きも変わってくるからな」


 そう言うとアレクは魔力結晶の前に座り、しばしの間休息をとる。


(レオ、頼んだぞ。今回の試合はお前にかかってるんだ)


 内心でそう呟きアレクはレオ達がいるであろう方角の空を見上げる。


 その頃、ソルヴァレス学院の陣地ではキョウヤの足元にレオが横たわり倒れていた……。

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