第2章 四大魔法学院対抗戦 後編 三十九話 アストレアVSソルヴァレス②


 ――ソルヴァレス学院陣地、魔力結晶前。

 そこにはキョウヤが2本の刀を両手に持ち立っていた。そして今、彼の視界に2人の人影が姿を現す。


「来たか」


「あぁ、待たせて悪かったな」

 

 そう言って現れたレオはキョウヤの立つ崖に歩み寄り左腰に刺した長剣「黒影」を抜く。


「さっそくで悪いんだけど、あっちで待ってる仲間の為にも早く終わらせたいんだ。だから、最初から全力でいかせてもらう」


 レオは右手に持つ空間魔法の付与エンチャントがされた黒影に魔力を集め、今では言い慣れつつある詠唱を呟く。


「空間魔法『次元斬……」


「させるか」


 だが、キョウヤがそれを見逃すはずも無く、レオの詠唱が終わるより速くその距離を詰め左手に持った刀を振り下ろす。


「やっぱり、そう簡単に使わせては貰えないよなっ!」


 詠唱を中断し、キョウヤの攻撃を構えていた黒影で受けたレオはそのままキョウヤを弾き飛ばす。


「当然だ、その魔法の恐ろしさは2試合目の映像で目にしているからな。そう簡単に使わせるわけがあるまい」


「でもいいのか? 魔力結晶の位置をあそこにしたのも真後ろ以外どの方向から責められても高い位置を取れるからだろ。そこから降りたらその高低差って言うアドバンテージは無くなる」


 そう、ここまでは全てレオの作戦通りだった。

 アレクに連絡した後、レオは自身の魔法で飛び魔力結晶のある崖上まで移動するつもりだったがそのやり方では間違いなくキョウヤに見つかってしまう。


 そうなれば空中という不安定な場所でキョウヤの猛攻を食らうことになり一方的にやられかねないと考えたレオは別の方法を考えた。それがキョウヤ自身を自分達と同じ高さに降ろすという作戦だ。


「なるほどな、今の技は俺を下に降ろすための罠というわけか。防がざるを得ない攻撃を使うことで防がれても防がれなくとも自分が得をする、なかなか嫌な作戦だ」


 そう言ったキョウヤだが、その口元は何故か楽しそうに笑っている。


「お前相手に何かしらのリスクを背負って戦ってたら勝てたとしても魔力結晶が壊せるか分からないからな。そうなったら勝負に勝っても試合には勝てない」


「ふっ、違いない。だが見方を変えればなんの気兼ねもなく全力で戦えるということだろう? ならば俺としてら好都合だ」


 キョウヤは再度2対の愛刀を構える。


(全く、戦闘好きには面倒臭い奴しかいないのか?)


 レオの脳裏には自身をよくからかってくる銀髪の神童とつい最近出会った金髪の勇者の顔が浮び上がっていた。


「アリシア、作戦2に変更だ。戦闘の余波が届かないところでサポートをしてくれるか」


「はい、任せてください。レオ君も無茶はしないでくださいね」


「うん、わかった」


 レオが返事を返すとアリシアは歩いて来た道を戻りレオ達から100メートル程距離をとった場所で2人の戦闘が始まるのを待った。


「準備はいいか」


「あぁ、わざわざ待たせて悪かったな。いつでもいけるぞ」


 レオがそう言うとキョウヤは身を低くし、戦闘態勢に入る。


「キョウヤ・カンザキ、推して参る!」


 その言葉と共にキョウヤは地面を強く蹴り、レオに急接近する。

 迫るキョウヤに対し、レオも2本目の剣白夜を抜き相対する。


「『迅雷の爪撃そうげき』!」

「『黒穴ダーク・ホール』」


 迫り来る爪のような雷の剣をレオは黒影を介してより強力に作り出した黒穴ダーク・ホールで吸い込む。


「ニア!」


 レオは黒穴ダーク・ホールでキョウヤの視界を阻みつつ、その隙に使い魔であるニアを呼び出す。


「ニア、アリシアと一緒に火魔法で援護を頼む」


「ガウッ!」


 ニアは主であるレオの言葉に返事をすると、キョウヤ目掛けて火弾フレイム・バレットを放つ。


「ふっ!」


 ニアの攻撃を刀を振り下ろす事で破壊し無効化したキョウヤは一旦距離を体勢を立て直す。


「使い魔か。それも、獅子の使い魔とは珍しい。獅子はプライドが高く自分より力の弱い人間に従うことは滅多に無いと聞いたが」


「そうか? 割と人懐っこいぞ」


「ガウゥゥ」


 レオが頭を撫でてやるとニアは満足気に唸り声をあげる。


「獅子がここまで心を許す所は初めて見たな、道理で強力な魔法を使うわけだ。主従揃って手強い相手だ」


「そう言う割にはこいつの攻撃もあっさり防いでたみたいだけど?」


「それはその使い魔がまだ子供だからだろう。今後成長すれば今ほど簡単にはいかないさ。すまない、戦闘の最中にする話でも無かったな」


 そう言ってキョウヤは仕切り直し刀を構える。


「別にいいさ、ニアはアリシアと一緒にいてくれ」

「ガウゥッ!」


 ニアにそう伝えアリシアの元まで下がるのを確認するとレオも2本の剣を構え魔法を付与エンチャントし魔力を込める。


「次はこっちからいかせてもらうぞ」

「来い!」


 レオはその場で白夜を振り上げ光の斬撃を飛ばす。


「『星雲極光斬』!」


 レオの放った一撃は夜空に煌めく星のような輝きを放ち、光の幕を伸ばすようにキョウヤへ迫る。


「『奥義 神降ろし・武御雷』」


 キョウヤは2戦目のシンとの戦いで見せた奥義を発動し、レオの攻撃を受ける。

 

「『神雷の崩牙』!」


 その魔法は先程までとは比較にならない程威力が上がっている。


 ドガァァァァン!


 2人の魔法がぶつかり辺り一帯に轟音を響かせる。

 レオは魔法の衝突により出来た土煙に紛れキョウヤに接近する。その気配に気づいたキョウヤも近づくレオに2本の刀で攻撃を仕掛ける。


「ふっ!」

「はぁっ!」


 互いの剣が衝突すると風圧で辺りの土煙は吹き消えた。

 2人は数回剣を撃ち合う。だが、いくら身体強化をしていると言えども素の身体能力はレオの方が低く、その上キョウヤは「神降ろし」を使っているため次第にレオが押され始める。


 レオは一旦下がり、すぐにアリシアに通信をする。


「悪いアリシア、数秒で良いニアと一緒に時間を稼げるか?」


『はい! やってみます』

『ガウッ!』


 アリシアとニアが答えたのを聞くとレオは通信を切る。

 その後、アリシアとニアはレオに追撃しようとするキョウヤの進行方向に魔法を放つ。


「ニアちゃん私の後にお願い!『氷柱アイス・ピラー』」

「ガウッ!」


 アリシアが詠唱をするとキョウヤの進む前方に数本の大きな氷柱が出現する。更に、キョウヤが氷柱を良ければそこにニアの火弾フレイム・バレットが飛んでくる。


「クッ!」


 思ったように進めないキョウヤは一旦下がることで体勢を立て直し再度レオの方へ走り出す。

 その間僅か5秒。だが、レオにはそれだけあれば十分だった。


「アリシア、ニア。ありがとう、おかげで間に合った」


 そう言ってレオは向かい来るキョウヤに目をやり自身もキョウヤ目掛けて突き進む。その身体は数秒前の姿とは大きく変わっていた。

 再度2人の剣は衝突するが、先程とは違い2人の力は拮抗していた。


(なんだ、急に力が強くなった?)


 キョウヤは一旦距離を取り、レオにその疑問を聞く。


「レオナルド、お前一体何をした?」

「変わった事はしてないさ、強いて言うなら身体強化だ」

「……まさか、神降ろし?」

「半分正解だ」


 キョウヤはレオの突然の変化を自身と同じ技だと考えたがどうやらそれは違ったようだ。


「だが、その姿の変わりようは神降ろしと同じ……」


 キョウヤがそう思うのも仕方がない。今のレオの姿は背後に生えた2対の翼に両手両足は薄く光を輝いている。その現象はソルヴァレス学院の生徒が使う「神降ろし」に酷似していた。


「『鎧纏・天使アーマード・ウリエル』光魔法を鎧の様に体に纏い攻撃力と防御力を底上げする魔法だ」


「なるほど、アストレアの次席が2戦目に使っていた魔法と同じ物か。だが、聞く限りそれは攻守を上げる魔法、お前の力が上がった理由にはならないが?」


 キョウヤの言う通り、今の説明ではレオの力が強くなった説明にはなっていない。


「それについては本当に今までとやってる事は同じだよ。光魔法を体に付与エンチャントしてるだけだ。けど、この『鎧纏』をすることにより今まで以上の強さでそれができるようになった」


 レオが普段から体に付与エンチャントしている光魔法は自身の筋肉の活性化を加速させ、光速で動く物。

 だが、そのまま動いては体が速さに耐えきれずバラバラになるためそれを身体強化で肉体の強度を上げ防いでいるのである。


 しかし、限界以上に速度を上げれば身体強化をしていると言えどその不可に体は耐えられない。その限界をこの鎧纏で身体の強度をさらに上げ限界値を伸ばしているのである。


「長ったらしく説明したけど様は身体の強度上げて引き出せる限界を超えたって事だ。その分身体にかかる負担も今までの比じゃないし使える時間は長くて10分てところだな」


「なるほどな、やり方は違えど体に与えられる効果としては似たような物ということか」


「そう言う事だ」


 レオに起こった変化を理解するとキョウヤはその口元に笑みを浮かべた。


「ふっ、面白い。ならば俺も全力を出そう『奥義 神降ろし・天照』!」


 キョウヤは奥義を2つ同時に発動する。


「ここからが正真正銘の全力勝負だ」

「と言ってもお互い時間制限もあるしな、すぐに終わらせてやる」

「いいだろう。いつでも来い!」


 そうして2人は同時に地を蹴りその剣を再度交える。

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