第3章 新領地開拓編 四十五話 路地裏の住人


「開拓を手伝うと言っても具体的には何をすればいいの? それにここに来る途中街の雰囲気を見てみたけど今でも十分良い街だと思うけど……」

「そうだな、まずはそこから説明しよう。レオ、お前は今十分良い街だと言ったな?」

「……うん」


 俺は久しぶりに聞いた父さんの真剣な時の声に少し圧倒され言葉が詰まる。


「確かにこの街は賑わっていて雰囲気を見れば良い街だろう。けど1つ問題があってな。レオ、お前もこの街を見た時何か違和感を感じなかったか?」

「違和感……」


 これと言って思い当たる事は無いけど……あ、そう言えば違和感じゃないけど1つ気になったことはあったな。


「違和感なのかは分からないけどこの街を見た時広さの割に人が少ないとは思ったよ」

「そうだ、それがこの問題に深く関係してくることなんだ」

「……その、問題って?」

「あぁ、今から話そう。本来この街の人口は他の街よりも少し多い。だが、入ってみれば皆お前と同じように人が少ないと感じる。その原因が今回の問題である通称『路地裏の住人』だ」


 路地裏の……住人?


「それって、名前通り路地裏に住んでる人達ってこと?」

「あぁ、そうだ」

「父さん、どうしてそんなことに?」


 その時、今まで俺と父さんの会話を静かに聞いていたアラン兄さんが父さんに聞く。


「俺も残っていた資料とこの状況を知った後に陛下から聞いただけの情報しかないのだが、この街は昔からこうだった訳では無いらしい今の状況になったのは数年前からみたいだ」

「その原因は?」

「簡単に説明すると、この街は賑わいすぎた」


 賑わいすぎた? 賑わうことはいい事だと思うけど


「どうして賑わいすぎてこんなことになったの?」

「いい機会だからレオにも少し街づくりについて教えておこう。レオ、街はなぜ賑わうと思う?」

「それは……何か人が集まる物がある?」

「正解だ。そしてそれが有名になれば各地に噂も広まる。そうして噂が広まれば観光客や移住してくる人も多くなるんだ」


 なるほど、けどそれなら他の街でもよくありそうな事だけど……


「レオは今、何故それがこの問題に繋がるのかって考えてるかな?」

「……うん」


 アラン兄さんの言う通りちょうどそう考えていたところだ。


「レオ、住む人が増えればその人達も生活をしなければいけない。その為には働かないといけないだろ? じゃあその人達がどう働くかと言えば街にあるお店で雇ってもらうか自分の経験を生かして店を立ち上げないといけない」


 それはそうだろう。お金が無ければ生活することはできないしお金が無限に湧き出てくる訳でもない。


「けど、そうなると今までにあった店か新しくできた店どちらかは必要とされなくなる。その理由はわかるな?」

「利用者はより評判の良い方に行くから?」

「そうだ。飲食店でもない限り同じ系統の店はどちらかが潰れてしまう。じゃあその潰れた店で働いていた人の生活はどうなるか、ここまで説明すれば今回の問題がどうして起こったのかわかってくるんじゃないかな?」


 なるほど、そう言うことか。


「つまりその『路地裏の住人』って呼ばれる人達はお店が潰れて生活が出来なくなってしまった人達ってこと?」

「そういう事だ。その人達の数も合わせたらこの街は他の街よりも人口は僅かに増える」


 俺の回答に父さんが答える。


「現状路地裏の住人達は働き口が無く週に3回行っている炊き出しで何とかしている状況だ。今は暖かい季節だから夜も何とかなっているがこれが数ヶ月後寒くなってしまえば厳しくなる。毎年何十人もの死者も出ているみたいだしな」


 確かに、食べる物も無く家もないのにここまで生きていられたのが奇跡的なぐらいだ。


「街を広げる理由はわかったけど広げた所には何を立てるの?」

「それをお前に考えてもらいたい。この街を見て住民たちと触れ合ってこの街をどう発展していくかお前に決めてもらおうと思ってな」

「それは責任重大だね……」


 何百人もの人達の未来がかかった大切なことだ、慎重に決めなければいけない難しい仕事だろう。

 けど……


「わかった。やるよ」

「本当か!」

「うん、考えるぐらいなら俺にもできそうだし将来はこれも自分でやらないといけない事だしね。経験して損は無いと思うから。それと、試したいこともあるし」


 試したいこととは新しい2つの魔法の内の1つ、創造魔法だ。


「父さん、街を広げるのはいいけど外壁はどうするんだ? あれがあったら広げることも出来ないしかと言って壊すにしても街全体を覆う大きさの石壁を壊すのはかなり時間がいるんじゃないか?」


 そう言ったのはロイス兄さんだ。


「そこも考えようとは思っていたんだ。今のあの壁は土魔法で生成した四角い石が積まれてできている。だから壊すのは簡単なんだがまた作るのにかなりの人材と時間が必要でな」

「やっぱりそこが問題だね。冒険者や土魔法が使える人に手伝ってもらうにしても何人集まるかも分からないしどれだけ雇えるかも分からない」


 父さんが言うには壊すのは簡単みたいだけどロイス兄さんの言った通り街全体を覆うほどの石壁を1から作るのはかなり大変だ。それに街が広くなればその分石壁も増えるし壁が完成するまでの間は危険も高まる。


 けど、石壁なら創造魔法で作れるんじゃないか?


 そう思った俺は頭を悩ませる3人に提案する。


「その、壁についてなんだけど少し試したいことがあるんだ。いいかな?」

「何か良い案があるのか? レオ」

「うん」

「レオ、今話すのか?」


 俺が言おうとしていた内容に気づいたのかアラン兄さんがそう聞いてくる。


「うん、ちょうどいいタイミングだしね」


 そうして俺は父さんとロイス兄さんに創造魔法と破壊魔法について話した。この2つの魔法についてアラン兄さんとカレンには対抗戦の後伝えてある。


 俺の話を聞いた父さんはこめかみに指を当て溜息を吐いている。ロイス兄さんは口が引きつっていつつも何とか笑っていた。


「全くお前と言う奴は……まぁ良い、確かに今回の件に関しては役に立ってくれそうだしな。それに前の時間と空間魔法のように理不尽な物と言うわけでも無いんだろう? それなら何も心配する事は無い」

「それじゃあ壁についてはレオと土魔法を使える人を何人か雇ってその人達を中心に作っていこう」

「うん、わかった」


 そうして今後の予定を決め一先ずこの話は終わりを迎えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る