第3章 新領地開拓編 四十四話 父さんからの頼み


 俺達が屋敷に着き門から中に入ると見知った人が出迎えてくれた。メイド長でカレンの母親のノアさんだ。


「皆様、お帰りなさいませ。御屋敷の中でお父様達がお待ちになられています」

「ノアさん、わざわざお出迎えありがとうございます」


 馬車から降りたアラン兄さんがそう答える。


「いえ、これも仕事の内ですので。カレン、荷物を置いたら手伝って貰えますか? 今日は皆さん揃っているのでパーティーをしますよ」

「はい! おか……メイド長! 今すぐに荷物を置いてきます!」


 一瞬お母様と言いかけたカレンは急いで屋敷の中に入って行った。

 慌てて走っていったけど、カレンはこっちの屋敷に来たことがあるのか? 無かったら自分の部屋も分かってなさそうだけど……


 そんなことを考えていたらたった今屋敷に入ったカレンが出てきて俺達の方へ戻ってきた。


「おか、メイド長? 私の部屋はどこに……」

「はぁ、これから案内しようとしていたのに貴方が先走って行ってしまったのでしょう」

「あっはは、すいません……」

「それでは皆さんお部屋へ案内します」


 そう言ってノアさんは俺達の前を歩き各々の部屋へ案内してくれた。兄さんは前にも来て部屋の場所は知っているため屋敷に入ったらそのまま父さんのいる書斎に行くようだ。


「それじゃあレオ、荷物を置いたら書斎に来てくれ。ゼルさんレオを書斎まで案内してあげてください」

「かしこまりました」

「それでは2人とも行きますよ」


 そうして俺とカレンはノアさんに着いていき自分の部屋まで向かった。



 ◇◆◇◆◇◆


「ここがレオ様のお部屋になります。必要な家具等は前の御屋敷で使っていた物がまだ使えそうでしたのでそのまま移しました。この後は書斎に行かれるのですか?」


 前に使ってた物をそのまま移してくれたのはすごい有難いな、どことなく愛着もあったし。

 ノアさんにそう聞いた俺は内心でそんなことを考えながらノアさんの質問に答えた。


「はい、アラン兄さんにも来るように言われていますし父さんとも早く話したいのでそうしようと思ってます」

「それでしたらお父様に少しはお休みするようお伝えください。私達使用人や奥様が言ってもなかなか休もうとしませんので」

「分かりました、伝えておきます」

「お願いします。それと、御家族の前でぐらいは昔のように話してくれていいのですよ?」


 そう言ってノアさんは口に手を当てて微笑む。


「ははっ、さすがに小さい時みたいにタメ口で話すことは出来ないけど頑張って見ます……」

「ゼルさんもレオ様があまり質問をしてくれなくなって寂しいと仰られていましたし。孫が独り立ちしてしまった気分だとも言っていました。」


 孫が独り立ちって、ゼルさんまだそんな歳じゃないだろうに


「そうだったのか、学院に通い始めて分からないことも増えたし今度ゼルさんに聞いてみようかな」


 そうしてノアさんと話しながら荷物を片付けていると部屋の扉がノックされた。


「失礼します。レオ様、準備はよろしいでしょうか?」

「あぁ、はい。大方片付いたので大丈夫です」

「それでは書斎まで案内するので着いてきてください」


 俺はゼルさんの案内で書斎まで向かう。

 広い屋敷に見えたが俺の部屋から書斎までは割と近くそこまで時間もかからずに到着した。


「ここがお父様の書斎になります」


 ここが……扉は前の屋敷とそこまで大きさは変わらないな。

 そんなことを考えながら俺は書斎の扉を叩く。


「レオです。今入っても大丈夫ですか?」

「あぁ、レオか大丈夫だぞ」


 扉を叩き俺がそう言うと中から久しぶりに聞く父さんの声が帰ってきた。


「失礼します。お久しぶりです、父さん」

「あぁ、久しぶりだなレオ。学院の方はどうだ?」

「楽しくやってるよ、ダリスも同じクラスだしね」

「ダリス君がいるなら安心だな。立ち話もなんだ、ここに座っていいぞ」


 そう言って父さんは自分の座っている位置の対面側に座るよう促す。

 俺が頷き歩き始めると父さんの隣に座るアラン兄さんの反対側に人影がいることに気づいた。

 あの後ろ姿はもしかして……!


 俺は通り過ぎざまにその顔を見る。すると、そこにいたのは想像した通りの人物だった。


「久しぶりだな、レオ。お前の入学試験以来か?」

「ロイス兄さん!」


 そう、アラン兄さんの前に座っていたのは約2ヶ月ぶりに会うロイス兄さんだった。


「帰ってきてるとは聞いてたけど兄さんもここにいたんだね」

「あぁ、レオ達が帰ってくる少し前からな」

「騎士団はどう? やっぱり忙しいの?」


 俺はロイス兄さんにそう聞きながら椅子に座る。


「ぼちぼちって感じだな。休む暇もないほど忙しいって訳じゃないけど仕事は絶え間なく出てくるよ。お前の方はどうなんだ? 対抗戦があったって聞いたけど」

「俺の方もぼちぼちって所かな。良い収穫はあったよ」

「そうか、その調子で頑張れよ。お前なら卒業後軍にも入れるだろ」


 ロイス兄さんにそう言われ俺は最近少し考え始めた事を話した。


「それが……実は最近、魔法師団に入るかどうか悩んでるんだ」

「それって、陛下に言われた卒業後の事を気にしているのか?」


 そう言ったのは父さんだ。国王に言われた事と言うのは恐らく貴族になるという話のことだろう。


「うん、けど悩んでる理由が全部その事って訳でも無いんだ。国王にも男爵ならそこまで仕事は無いしアラン兄さんと協力すれば問題無いって言われたからさ」

「それじゃあ、なんで目標にしてた魔法師団に入ることを迷ってるんだ?」


 アラン兄さんに問いかけられる。俺の話を聞いていれば疑問に思うのも当選だ。


「実は最近、冒険者として仕事をする内に冒険者として上を目指すのもいいかなと思ったんだ。冒険者なら仕事も自分の好きなタイミングで受けられるしね」


「なるほどな、まぁ卒業まではまだまだ時間もあるしじっくり考えるといい。その過程で自分のやりたいことが何なのか見つかってくるだろう」

「俺も父さんの意見に賛成だよ。それに、レオが時間を掛けて決めた決断ならきっとそれがお前にとって本当にやりたいことなんだと思うからね」


 父さんとアラン兄さんはゆっくり考えればいいと言ってくれた。その時、ロイス兄さんがある提案をしてくる。


「それなら、軍に席を置いた状態で冒険者として仕事をすればいいんじゃないか?」

「えっ……そんなことできるの?」

「あぁ、できないことも無いさ。事情をちゃんと説明すれば上層部の人も理解してくれると思うぞ。軍の人間でも冒険者登録してるって奴は多いしな」


 そっか、確かにそれができるなら1番良いかもしれない。


「ただ、非常時とか大きな仕事の時とかは駆り出されるかもしれないけどな……」

「それぐらいなら仕方ないよ。とりあえず、卒業まで少し考えてみることにするよ」

「あぁ、それがいいと思うぞ」


 卒業まではまだまだ時間があるんだ、ゆっくり考える余裕はあるだろう。

 俺が今後の将来についてそう決めると父さんが話し始めた。


「そうだレオ、お前に会ったら頼みたい事があったんだ」


 頼みたい事? 何か嫌な予感がするな……


「頼みたい事? 俺にできることならやるけど……話を聞いてからでもいいかな?」

「あぁ、当然聞いてもらってからで構わない。それでその内容なんだが今の領地はこの街とこの街の周り一帯なのはお前も知ってるな?」

「……はい」


 それがどうかしたのだろうか?


「最近仕事も落ち着いてきてな。そうしたらこの街の現状も分かってきたのだが、現状を知ってこの街を少し広くしようと思ってな」

「なるほど、それで俺にして欲しいことって?」


「お前には街の敷地を広くした後どんな施設や街並みを作るか考えて欲しいんだ。将来貴族になるのであればそう言う事も少しは学んでおいて損は無いと思ってな」

「それって、つまり……」

「そうだな、簡単に言えばお前にはこの街の開拓を手伝って欲しい!」


 その時俺は思った。この話を聞くんじゃ無かったと。


 これはまた面倒なことになりそうだ……

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