第3章 新領地開拓編

第3章 新領地開拓編 四十三話 プロローグ


 ……レオ……ま……て……さい!


 深い暗闇の中、俺はどこからか聞き覚えのある声が聞こえる。


(この声は、カレン?)


 ……さ……よ! お……く……い!


(途切れ途切れでカレンが何を言ってるのか上手く聞き取れない)


 その時、突然体を謎の浮遊感が襲い、すぐ後に頭を硬い何かで殴られたような痛みが走る。そして、俺の意識は覚醒した。


「いっ!?」

「やっと起きましたね! もう、何回起こしても起きないんですから」

「え、え?」


 現在、俺はベッドから床に頭を下にして落下している。さっきの浮遊感と痛みの原因は確実にこれだろう。なるほど、つまりさっきまでいた空間は夢ってことか……


「もう、しっかりしてください。そんなことではお父様達に笑われてしまいますよ!」


 そうだ、今日は家の新しい屋敷に行く予定だったんだ。


「あ、ありがとうカレン……今何時?」

「ちょうど八時になったところです。もう朝食の準備はできているので早く着替えて来てくださいね。私は部屋の外で待っているので」


 そう言ってカレンは部屋を出ていく。ふぅ、とりあ えず着替えるか。



 ◇◆◇◆◇◆



 着替えを終えた後、部屋の外で待っていたカレンと食堂へ向かうとそこには既にアラン兄さんと数人の使用人の人達が席に着いていた。


「来たか、レオ。おはよう……頬が少し赤いみたいだけどどうしたんだ?」

「兄さん、おはよう。これはベッドから落ちちゃってさ……」

「なるほど、そういう事か……とりあえずこれで全員揃ったし食べよう」


 アラン兄さんがそう言うと俺を含め他のまだ座っていなかった使用人さん達も全員座り屋敷の人間全員で朝食を食べ始めた。




 朝食を食べ終えた後、俺はアラン兄さんと2人で今日の予定について話していた。


「3日前にも話した通り今日は家の新しい領地にある屋敷に行くぞ」

「確か街の名前はヴォルアスだっけ?」


 前の実家より王都に近いから帰りやすくなると思ってたけどここ最近対抗戦関係で忙しくて結局一度も行けてなかったな。


「あぁ、俺は父さん達が今の屋敷に移ってすぐの時に見に行ったけどいい街だったよ。レオは最近忙しかったし行けてなかったよな?」

「うん、ちょうどどんな街なのか早く見たいと思ってたんだ」

「それなら良かった。出発は1時間後だからまだ少し時間があるしそれまでゆっくりしてよう」


 そうして俺とアラン兄さんはカレンにお茶を出してもらい他の使用人の人達も交え談笑をして出発の時間を待った。



 ◇◆◇◆◇◆



 時間になり、俺達が屋敷の外に出ると家の家紋を付けた馬車が1台止まっていた。馬車の隣に立っているのはゼルさんだ。


「皆様、おはようございます。馬車の方は既に準備ができているので何時でも出発できます」

「ありがとうございます」


 そう言ってアラン兄さんが馬車に乗り、俺とカレンもそれに続いた。俺が馬車に乗ろうとすると、ゼルさんが声をかけてくる。


「レオ様、お久しぶりでございます。しばらく見ない間にまた強くなられたようで」


 ゼルさんは3日に1度家に来てたみたいだけど、俺は毎日アレク達と対抗戦に備えて特訓していたからなかなかゼルさんのいる時間に帰ってくることはなかった。思い返してみると1ヶ月以上は会っていなかったかもしれない。


「そうですかね? だとしたら多分対抗戦があったからだと思います」


 あの対抗戦では色々な事があった。新しい魔法も早く使いこなせるようにならなくちゃな。

 そんな対抗戦からは早くも1週間が経っている。


「楽しそうで何よりです。屋敷に着いたらお父様も交えて詳しく聞かせてください」

「はい、俺もそのつもりだったので楽しみにしてます」


 ゼルさんにそう言うと俺は馬車に乗り込む。

 俺の後にカレンも馬車に乗ると、全員が乗ったことを確認しアラン兄さんの合図で馬車は走り始めた。


(新しい屋敷に街か……確か領地の中には大きくないけど川や森もあるって聞いたな、どんなところだろう)


 俺は期待に胸を膨らませて街までの道中を過ごした。




 ◇◆◇◆◇◆



「皆様、街が見えてきましたよ」


 そう聞いた俺は馬車の窓から顔を出す。


「へぇ、あれがヴォルアスの街か!」

「街まであと10分程で到着しますのでもう暫くお待ちください」


 その後街にはゼルさんの言った通り10分前後で到着し、俺達は門を潜った。


「屋敷は街の中心の近くにあるんだ。ここからならそれほど時間もかからずに着くと思うし街の雰囲気を見ていればすぐ着くんじゃないかな」

「だね、そうするよ」


 門を潜る際にアラン兄さんがそう提案してくれた。

 その提案に俺は頷き窓に脚をかける。門を潜るのに1回止まってるし今ならここから出ても大丈夫だろう。


「……よっと」

「なっ! レオ様!? いくら止まっているからと言って窓から急に出ないでください、びっくりするじゃないですかぁ!」


 窓から馬車の上に乗ろうとしたらカレンに怒られてしまった。まぁ、今回は俺が悪いし当然か……


「カレン、そこまで心配せずとも大丈夫だ。今のレオ様の実力なら走る馬車の上でも問題ないでしょう」

「ゼルおじさんまで! そう言う事じゃ無いんですよ、もう!」

「ははっ、相変わらずレオには驚かされるな」


 カレンが起こる中、それとは対照的に2人は笑っている。


 そんなやり取りをしていると次第に馬車が走り始める。そうして門を抜けるとそこには人が行き交う賑やかな街並みがあった。


「どうだ、レオ。他の街に比べて人は多くはないけどいい街だろう?」

「うん、賑やかだし街の人達も楽しそうだ」

「この街は何個かある温泉が有名で温泉街とも呼ばれてるみたいです」


 なるほど、だからどこを見渡しても水路が目に入るのか。


「温泉かぁ……俺も今度行ってみようかな」

「いいね、それじゃあ落ち着いたら屋敷の皆で行こうか。父さん達にも聞いておくよ」

「ちょうど今はロイスも帰っているので日頃の疲れを癒すのにはいい機会ですな」


 え、 ロイス兄さんも帰ってるのか! 会うのは数ヶ月ぶりだなぁ、元気にしてたかな。


「そっか、ロイスの話も聞きたいな。あいつとも暫く会ってなかったし」

「なかなか順調なようですよ。まぁ、剣の腕はまだまだですが」


 そう言いながらゼルさんはもの凄く笑っていた。気の所為だろうか俺にはその笑顔がめちゃくちゃ怖く見える。


(これは、ロイス兄さんまた昔みたいに絞られそうだな)


 俺は心の中で昔の光景を思い出しながらロイス兄さんに手を合わせる。その時、御者代にいるゼルさんから声をかけられた。


「レオ様その位置からならそろそろ見えてくる頃でしょう」


 どうやらもう既に屋敷の近くまで来ているらしい。

 本当にあっという間だったな。


 暫くすると、街の中心である広場より少し奥に大きな屋敷が見えた。大きいと言っても前に住んでいた屋敷より大きいと言うだけで王都にある公爵位の屋敷よりは少し小さめだ。


「あれが、新しい家……皆元気にしてるかな」


 俺は久しぶりに会う皆の事を考えながら徐々に近づく屋敷を眺めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る