第5章 神竜国ドラグリア編 九十話 それぞれの成長


 グレンさんと共に修行の間に入ってから早い事に、もう3年が立った。


「ハァッ!」


 シンが大きく踏み込み上段から愛剣を振るうと、剣先から半透明の斬撃が一直線に飛び、離れた場所にある的を一刀両断する。


「闘気は完全に会得したみたいですね。予想では後2年はかかると思っていましたが、まさか闘気習得の特訓を初めてから僅か1年半で完璧にマスターしてしまうとは」

「全部グレンさんの特訓メニューのおかげですよ」

「それもありますが、1番は君のその才能と成長速度ですよ。さて、飛ぶ斬撃も使えるようになったのであれば竜気の方も本格的に初めて良さそうですね」

「その前に1ついいですか?」


 シンの問いかけにグレンは頷き、質問を促す。


「まだいまいち飛ぶ斬撃の必要性が分からなくて。同じ様な事なら魔法付与でもできるしそっちじゃダメなんですか?」

「そうですね、まずはその2つの違いから話しますか。闘気を使って放つ飛ぶ斬撃と、魔法を剣に付与エンチャントして放つ斬撃の大きな違いと言えば魔力を消費するかしないかです」

「そう言えば、闘気は使うのに魔力を必要としませんね」

「はい。確かに威力だけ見れば魔法を付与した剣で攻撃した方が強力ですが、剣士が魔力を使わずに遠距離から攻撃出来るというのはそれだけで相手より優位に戦えます」


 竜気の特訓に取り掛かろうとしていたはずがこの短い時間で2人はそれをすっかり忘れ、突如始まったグレンによる簡易授業がその後も続く。


「一般的に剣士になるのは魔力が少なかったり魔法を使うのが苦手な魔法適正の低い物が選ぶ職種です。つまり魔力の少ない剣士にとって魔力を使わない遠距離攻撃はそれだけで強力という事ですね」

「でも、相手が魔法を使えたらそれも通じないし、その場合はやっぱり普段通り距離を詰めて戦った方がいいんじゃないですか?」

「そうですね、相手が魔法を使うならその方がいいでしょう。ですが必ずしも飛ぶ斬撃が魔法に撃ち負けるとは限りません。魔法と同じで闘気も練度を上げれば強力になる。闘気の熟練度が上がればその分飛ぶ斬撃の威力も上がりますから」


(なるほど、そこは臨機応変に対応って事か)


「まぁでも、あまり心配はいりませんよ。そもそも闘気を使える人が少ないので、常人であれば誰も相手が斬撃がを飛ばしてくるなんて考えて行動はしません。本来闘気とは武道の道を歩んだ者が数十年かけて辿り着くその道の境地みたいな物です。立った1年半で会得してしまうシン君が少し特殊なんですよ」

「特殊って……そ、そこまで言うほどですか?」

「えぇ、間違いなく。っと、それよりも……竜気の特訓に取り掛かろうとしてたところでしたね」

「はい、お願いします!」


 グレンの言葉に対しやる気を見せ返事を返すシン。だがこの時のシンはまだ想像もしていなかっただろう。竜気習得の特訓があれほど過酷だとは……



 ▽▲▽▲▽▲▽▲


 この空間に入ってからかれこれ5年、これだけ長い事いればこの森でのサバイバル生活にも当然慣れていた。


 今となっては東の魔物との戦闘でも勝てる事が増え始め少しずつだが成長している事を実感していた。だが、それと同時に東の魔物とまともに戦えるようになった頃から徐々に成長速度が遅くなっているように感じる。


 簡単に言ってしまえば昔は勝てなかった東の魔物とも戦えるぐらいには成長を実感しているが戦えるようになったあたりからの成長を感じないのだ。

 そこで、2年ほど前から俺は方針を変えることにした。


 今までは強敵との戦闘で単純な戦闘技術を上げていたがそれが伸び悩んだ辺りから自分の魔法の熟練度を上げることにした。


 ちょうどいい事に参考になる物はすぐ近くにあった。この空間自体が俺にとっては良いお手本だったのだ。

 そうして当分の目標をここまでの完成された空間とまではいかずとも自由に行き来できるぐらいの空間を自力で作り出そうという物にしその修行に取り掛かった。のはいいのだが……

 

「全っ然上手くいかねぇ……」


 この修行を初めてから2年、まさかここまで上手くいかないとは思いもしなかった。


「作れない原因としてはイメージが上手く出来ないからだとは思うけど、そもそも空間を作り出すってどんなイメージをしたらいいんだ?」


 当初は今自分がいるこの空間をイメージしていたがいくらやってもそれで空間を作り出すことは出来なかった。


「そもそも転移門ゲートとかと同じ要領でやるのがダメなのか? でもそうすると空間魔法をどうやって使えばいいかわからん。今まではこのイメージで割と使ってきたからなぁ」


 そもそもこの空間はどうやって作られたんだろうか。魔法で0から作った? もしくは元々あった部屋に付与の要領で作ったのか……


「今のところ0から作り出すのは無理そうだよな。となると元からあった部屋に付与する感じか……よし、物は試しって言うし1回やってみるか」


 そう言うとレオは、以前街の開拓時に読んだ本の記憶を頼りに自分が拠点とする小屋とあまり変わらない大きさの小屋の制作を開始した。


 幸いな事に材料に関しては周りの木を使えばいくらでもあったため特に問題は無い。道具など必要となる物はその都度創造魔法で創り出し、順調に小屋制作の準備を整えていた。


 それから数時間後、どこから聞きつけて来たのか森の奥から魔物達が次々と顔を出す。皆レオの行動が気になって見に来たらしい。


「がるっ!」

「がるっがるるっ!」

「がるぅ!」

「お、お前達も来たのか。元気にしてたか?」


 この子供の虎たちは3年半前にレオが食料を貰った子供の虎たち……ではなく。その時の子供の虎たちのさらに子供だ。あの時の子供の虎たちはすくすくと成長していき今となっては立派な虎として狩りに出ている事が多い。

 あの時食料を分け与えてくれた虎の仲間達との交流は未だに続いており、たまにこうして子供達の遊び相手になっている。


「お前達がいるってことは当然……」

「ガルル」

「お前も居るよな。ガル」


 ガルとはレオとは何かと因縁がありいつの間にか行動を共にするようになっていたあの虎だ。

 さすがにこれだけ長い付き合いで、ましてや同種族の友達も増え始めた中でいつまでも虎って呼び方じゃあ分かりづらいと言う事で数年前にレオが勝手に呼び始めた名前だ。

 名前の由来としては鳴き声から取られており、虎自身があまり嫌がる素振りを見せていないためこの名前で呼び続けている。


 このガルや子供達の他にもレオの周りには多くの魔物が姿を現しておりその全てがこの数年間の間でレオが親しくなった魔物達だ。主に西と北が多い。


 どうやらレオは魔物に好かれやすい体質らしくその上魔物とあっても分け隔てなく接するレオの性格から、それぞれが異なる経緯でありながらも最終的にはこうしてレオの周りに集まるようになっている。


「それじゃあ、せっかくだしお前達にも手伝って貰おうかな。ついでにこの小屋付近も開拓だ!」


 今のままでは結界に阻まれて魔物達とも接しづらい。ならばこの小屋付近だけでも多少開拓して魔物達とも過ごしやすい様な環境を作ればいいじゃないか。と言うのはレオの考えだ。


(あんまり開拓し過ぎても魔物達の生活範囲が削れちゃうしな。小屋の周囲50メートルっところか。問題は東の魔物だけど……)


「基本的に東の奴らはこっちまで来ないし心配する必要は無いか」


(まぁでも、何かあってからじゃ怖いし一応空間魔法で簡単な罠でも作っておくか)


「よーし、お前ら。早速始めるぞ!」


 そう言って、レオは魔物達と共に実験用の小屋作りを再開し、並行して森の一部開拓を開始した。

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