神竜国ドラグリア編 百一話 エピローグ
「シン、無事だったか」
「何とかね。傷もサヤに治してもらったし」
「そっか、無事助けられたんだな」
「嗚呼。そっちも、構成員の捕獲は成功したみたいだね」
「全部こいつが一人でな。我々は寝てただけだ」
「アレク。えっと、それって一体……」
「まぁ、話すと長くなるし帰りながら説明するよ」
「あぁ、分かった。あ、それとこいつも頼む」
そう言うと、シンは脇に抱えた一人の男を床へ寝かせる。
「こいつってもしかして……」
「俺が戦った敵の幹部だ。恐らく今回の襲撃の総指揮官はこいつだと思うよ」
「なるほど、敵のリーダーを捉えたと言う訳か。分かった、こいつも他の奴ら同様こちらで縛る。後は任せてくれ」
「頼むよ」
兎にも角にも俺達は多くの捕虜を捉え、シンもサヤちゃんの救出に成功。ノワールは取り逃してしまったもののこの作戦自体は概ね成功と言っていいだろう。
(俺がもっと実力を付けていられれば、もっと余裕を持っていれば、ノワールを取り逃がすことも無かったかもしれない……)
「まだまだ、実力が足りないな」
「……レオ、あまり思い詰めるなよ。反省するのはいいが程々にしないと自分のメンタルが先にやられるぞ。そうなったら、守るものも守れない」
「……そうだな、ありがとう」
アレクには事ある毎に支えられてばっかりだ。
「シン君、少しよろしいですか」
「グレンさん!? お、降りてきてたんですね。あっははは……」
「その様子だと、私が何を言いたいのかは分かっているみたいですね」
「……はい、あれだけ忠告していただいたにも関わらず、すいません」
「まぁ、今回は許しましょう。それで君の目的が達成出来たなら何よりです」
「はい。でも、まだまだです。もっと強くならないと」
(じゃないと、そばに居てくれるサヤに誇れる自分で居られない)
「そうですか、なら修行あるのみですね」
「はい」
「……シン、この人は?」
「あぁ、紹介がまだだったね。この人はグレンさんって言ってサヤを助けるために俺に修行をつけてくれたんだ」
「初めまして、貴方がサヤさんですね」
「は、はい……」
「そうですか……ふふっ、シン君は幸せ者ですねここまで思われているなんて」
「えっ!?」
「グレンさんは先見眼って言うスキルで無数に存在する少し先の未来の中から一つをランダムで見ることができるんだ」
「未来を? それに、スキルなんて聞いたことが無い。シン、この人って……」
そっか、この姿じゃ分からないよな。今のグレンさんは気力も魔力も発してない言わばただの一般人と同じだし。
「グレンさんは神竜国ドラグリアの竜王に使える副官なんだ。その正体は歴史書とかによく出てくる竜人族だよ」
「竜人族!? ほ、本当に存在したんだ……」
「それよりグレンさん、また何か見たんですか?」
「えぇ、それほど遠くない、貴方達二人の未来を少し」
「そうですか。この後はどうするんですか?」
「この後は確か馬車が到着し次第捕虜を積んで王国に帰還する流れだったと思いますよ」
「あー、えっと、そうじゃなくて。グレンさんはどうするのかなって」
「私…ですか? そうですね、レオ君に頼んで一度神竜国に帰ろうと思います。竜王にも報告しなければいけませんし。その後は正直竜王次第ですね」
「そうなんですね……グレンさん。今までありがとうございました」
そうして、シンはグレンへと深く頭を下げる。
「ふふっ。えぇ、どういたしまして。お陰様で私もいい息抜きになりました」
両者は互いに頷き合い、その表情を綻ばせる。
「シン、馬車が来たからそろそろ行くぞ!」
「分かった、今行く。サヤ」
「うん」
シンはここに来るまで、ずっと固く繋いでいたサヤの手を引き馬車まで向かう。
「どうでしたか、あの二人」
「どうも何も、とてもお似合いじゃないですか。未来を見ずとも、あれほどお互いを思いあっている二人なら幸せな未来がやってきますよ」
「そうですね、俺もそう思います」
「レオ君も、早く学院へ帰らないとですね」
「もしかして、見えました?」
「はい、バッチリと」
(そっか。でも、このグレンさんの顔を見るに少なくともグレンさんが見た未来の俺達は幸せそうにしていたんだろう)
「それじゃあ、俺達も行きますか」
「そうしましょう。あぁ、そうだ。一つレオ君に伝えておかなければいけないことがあるのを忘れていました」
「伝えておくこと? 何ですか」
「基地の外に一人敵を縛ってあります。かなり消耗していたので捕らえるのは簡単でしたよ。後処理、任せてもいいですか?」
「それって、もしかして!」
「はい、君が捕え損ねた、あの男です」
「……っ、ありがとうございます。後は俺に任せてください。自分で取り逃した相手ですし、俺が責任を持って連れ帰ります」
「ふふっ、いい表情だ。その調子ですよ」
「はい」
そうしてレオはグレンに連れられて基地の外に縛られたノワールを回収し、馬車に積んでセイクリッド学院への帰路へと着いた。
▽▲▽▲▽▲▽▲
「学長! 捕虜を連れた軍の部隊が帰還しました!」
「おぉ、それは本当か! サヤ君は、サヤ君はどうした」
「はい! サヤちゃんもシン君が救出したようです。今二人でこちらに向かっていると」
「本当か! 直ぐに出迎えるぞ!」
そう言うと、学院長は学院の教師を連れて大慌てで門へと出向いた。
しかし、学院長が門へと着く頃には既に軍の部隊とシン達生徒数人は既に到着した後で各々馬車から降りてきていた。
「シン、サヤ君、よく無事に帰ってきた!」
「学院長、心配おかけしてすいませんでした」
「いいんだ、大変だったろう。怪我は無いか?」
「はい、大丈夫です。怪我もありません」
「そうか、シンも良くやったな」
「いえ、当たり前の事をしたまでです。サヤを守るのは俺の役目なので」
「ほう、サヤ君が連れ去られた時は酷い荒れようだった奴が、よく言うでは無いか」
「そうなの、シン?」
「が、学院長! あの時の事は掘り返さないでくださいよ! 俺だって冷静じゃなかったって分かってるんですから」
「何、少しからかっただけだ。恥ずかしがることは無い、お前はお前の思いを貫き目的を達成したんだ。十分誇らしいことだろう」
大切な者を突然連れ去られれば誰だって冷静になんて居られない。それは学院長も分かっていた。
「改めてシン、良くやってくれたな。お前は我が学院が誇る立派な勇者だよ」
「はい、ありがとうございます。でも、一つ訂正させてください」
「ん? どうした」
「俺は、皆の勇者でも、学院の勇者でもありません。サヤの、サヤだけの勇者です」
「ふっ、そうか……立派になったな。サヤ君も、良かったじゃないか」
「はい、シンは私だけの勇者です。誰にも譲ったりしません」
「そうかそうか。兎にも角にも君達が無事で良かった。さぁ、皆も心配して待っとる。もう帰還したことは知らされているだろうが早く中へ行って無事を報告してやってくれ」
「「はい!」」
学院長に促され、シン達二人は校舎の中へと入って行った。
長かった
それでも、一先ず事態は収束した。
それも踏まえて、しばらくは久しぶりの平和な日常が戻ってくるだろう。
そうして、夏休みの一連の戦いは苦い結果を残しながらも、俺達の勝利で幕を閉じた。
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